発声

おどろくべき発声の効果とは?(矢野博志)

2024年2月19日

KENDOJIDAI 2014.11

構成=寺岡智之
撮影=徳江正之

「声を出すことは、攻めや打突など剣道のすべてに通じてきます」と矢野博志範士は語る。矢野範士が誌上で述べる、知っておかなければならない発声の効果とは?

矢野博志 範士八段

やの・ひろし/昭和16年静岡県生まれ。相良高校から国士舘大学に進み、卒業後、助手として同校に勤務する。昭和61年より同大学教授となり、平成23年に退職する。主な戦績として世界選手権大会2位、明治村剣道大会3位、沖縄県立武道館落成記念全国剣道八段大会3位、全国教職員大会優勝などがある。現在、国士舘大学名誉教授、剣道部師範。

剣道の稽古だけでは発声は鍛えられない

 大きな発声を心がける一番の理由は、身体に気を充実させるためです。気が充実していなければ良い打突を出すことはできませんし、打突を打ち切ることもできません。私は子供たちを指導する際にも「大きな声を出しなさい」とよく言います。それは、声を出すことが攻めや打突など、剣道のすべてに通じてくるからです。ひいては、剣道の技術を飛びこえて、呼吸法や健康法にまで波及してきます。そう考えれば、発声こそまず第一に心がけなければならない大事な要素ではないでしょうか。

 剣道の実技と発声の関連から言えば、発声をすることで集中力が増し、それが打突への道筋になることが多分にあると思います。私は昭和34年に国士舘大学に入学しました。静岡から出てきて国士舘の寮に入ったわけですが、先輩方に最初に教えていただいたのは、歌を歌うことでした。声が小さければ気合が入っていないと怒られる。大きな声を張り上げて何度も歌った記憶があります。当時は歌うことと剣道が強くなることにまったく関連性を見いだすことができませんでしたし、たぶん教えている先輩方も、そういったことを考えて指導していたわけではないと思います。しかし今振り返れば、腹から声を出すことの素地はあのときに養われたのではないかと思っています。最近の子供たちは、声を出せといっても出せない子が多い。これは剣道の技術ばかりを求めてしまい、発声をおろそかにしている証拠でもあります。そういう子供たちは打突が軽く、当てることばかりが上手になってしまうのです。これでは剣道の本質から外れてしまいます。

 発声をして気を充実させること、これには剣道における重要な要素である「我慢」や「溜め」も内包されています。ようするに、声を出すことが「攻め」へとつながるのです。

 発声は呼吸法にもつながってきます。私たちの年代は、発声は腹から出しなさいという指導を受けてきました。今の子供たちはとくに、呼吸が短い傾向があると思います。私は国士舘大学に勤めているとき、ある方から詩吟をすることを勧められました。世田谷に女性の詩吟の先生がいらっしゃったため、そちらに教えをいただきにうかがったことがあったのですが、その先生が詩吟を吟じるときの迫力がすさまじく、「あぁ、やはり声は鍛えないと出ないものだな」と感じました。

 そんな経験もあり、私も発声を自分なりに鍛えてみることにしました。詩吟の先生は、詩吟の呼吸は座禅と同じだと言います。大きく吸って、小さく吐いていく、一度の呼吸を長くつかわなければなりません。先生が禅のお坊さんから聞いた話によると、一般の人は一分間に12~13回呼吸をするそうですが、お坊さんはそれが3~4回だそうです。呼吸を鍛えることで、人間はそこまで進化できるということでしょう。なるほどと得心しました。

 ある道場に指導へ行ったとき、正座をして座ったまま「ヤーッ」と息が続くまで発声させ、「コテ! メン! ドウ!」と言わせる指導をさせていました。これは大いに奨励すべきことだと思います。前述したように、発声は剣道の稽古を続けているだけでは鍛えられない部分もあると思います。そこで、稽古の前に発声を意識させ、それを稽古に生かしていくというような指導法は、理に適っていると思います。ぜひ心がけてやってみるとよいでしょう。

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