インタビュー

中学・高校の 剣道継続率を伸ばせ

2021年5月24日

2019.3 KENDOJIDAI

「どうしたら剣道が好きになるか」「どうしたら部員が増えるか」など現場の指導者は悩み、生徒と向き合っている。稽古会参加校の指導者が率直な意見をぶつけあった。

沓掛良司(くつかけ・りょうじ)

昭和40年東京都生まれ。都立工芸高校から東海大学に進み、卒業後、会社員を経て東京都の教員となる。現在、多摩工業高校教諭。東京都高体連剣道専門部普及指導委員長。剣道錬士七段。

木村孝治(きむら・こうじ)

昭和45年東京都生まれ。都立八王子北高校から日本体育大学に進み、卒業後、東京都中学校教員となる。現在、国分寺市立第三中学校主幹教諭、東京都中学校体育連盟剣道競技専門部部長。剣道錬士七段。

植木伸広(うえき・のぶひろ)

昭和51年東京都生まれ。都立西高校から筑波大学に進み、卒業後、東京都教員となる。現在、都立八王子東高校教諭、全国高体連剣道専門部事務局長。剣道教士七段

初心者の部を創設。経験者が応援にまわる

―先生方は多摩地区で剣道指導をされていますが、中学、高校における剣道の現状についてうかがいます。

木村 以前、第10ブロックという地区で数年間ブロック長をさせていただきました。当時は、この地区の小金井一中が、全国規模で活躍していました。そのような地区ですので、中学校から始めた生徒が大会で上位に進むことはなかなかできません。そこで8月に初心者対象のブロック講習会を開き、10月開催のブロック大会で基本錬成のみの初心者の部を創設しました。さらに3月に実施される同大会においても、初心者の部で三本勝負の試合を実施し、活躍できる場を設けました。普段、レギュラーの生徒たちが初心者の部では応援にまわり、大会がすごく良い雰囲気になりました。中学から始めた生徒でも1年間、しっかり基礎を学べば経験者と遜色ない稽古、試合ができるようになり、それは経験者にも刺激を与えることになりました。初心者大会は他のブロックでも実施されるようになりましたが、とくに女子は、経験者よりも初心者の人数が多い傾向にあります。小学校から剣道を続けている生徒と中学から始めた生徒では当然、力の差があるので、大会において初心者を対象とした部門を作り、彼らにスポットをあてる機会を増やせば、剣道が好きになり、継続率の上昇にもつながると思います。

沓掛 そもそも強豪校と言われる学校では、小学校の頃から道場に通い、道連(全日本剣道道場連盟)に加盟している生徒が大半です。そのような生徒は小学校、中学校、さらに高校と剣道を継続していますが、序列はほとんど変わりません。彼らはよほどの理由がない限り、剣道から離れることはないので、大切なのは中間層の充実です。中学の部活で初めて剣道を始めた生徒や高校から始めた生徒の剣道継続率を色々な工夫をして上げていかなければならないと思います。うちは工業高校であり、着任当初は初心者ばかりでした。剣道はすべて楽しいというわけにはいかないので、大筋を外さずに生徒が興味を持つ工夫をすることが大切と考えています。中学から剣道を始めた生徒でもすごくセンスがある子がたくさんいますので、そういう子たちが継続してくれればと思います。東京都高体連剣道専門部では年2回、普及指導講習会を行なっています。剣道指導者のいない学校の生徒にも積極的に参加してもらい、まずは1級に合格すること。そして初段、二段をめざしてがんばってもらいたいと考えています。

植木 高校になると部活動以外の選択肢が増えます。うちの高校でアルバイトをする生徒はいませんが、ダンス部や軽音部など高校から始めるクラブに剣道経験者が流れてしまうことがあります。華やかなイメージがあり、校内にクラブはなくても校外で音楽活動をしている生徒もいます。クラブ選択は生徒の自由で仕方ないのですが、剣道指導者としては彼らをなんとか剣道から離れないようにしたいです。

―本日実施した多摩地区中高交流稽古会は剣道継続率をアップさせるにはすばらしい企画だと思いました。

毎年12月に実施している多摩地区中高交流稽古会

沓掛 高校生にとっては中学校時代に習った先生に剣道を見てもらえる機会になっています。稽古会自体は20年ほどの歴史があり、場所が私の勤務校(多摩工業)になってから11年目になります。多摩工業は都立高校ではありますが、剣道部員を対象とした推薦制度もあります。今回、高校14校、中学校23校が参加してくださいました。

木村 中学生にとっては近未来の自分がイメージできるよい機会です。グループに分かれて高校生が指導してくれるので、高校に行くと剣道がこんな感じになるということが具体的に理解できます。このような交流会は中学校指導者にとってとてもありがたい機会です。

―都立高校に進学を希望する生徒はどのような理由が多いですか。

木村 勉強を最優先に選ぶ生徒もいますし、都立の剣道がさかんな学校で剣道を続けることを前提に選ぶ生徒もいます。学力との兼ね合いになりますが、彼らが剣道を続けてくれて中学校にOBとして戻ってきてくれれば指導者冥利に尽きます。ただ、公立校は異動があるのでなかなかそのようなサイクルをつくることが難しいです。

植木 指導者の影響は大きいです。いくら母校であっても自分が習った先生がその学校にいなければ、足も遠のいてしまうのが実情ではないでしょうか。

都立高校推薦制度。核となる人材を確保する

―多摩工業だけでなく、都立高校には剣道経験者を対象とした推薦入学制度があるとお聞きしましたが、どのような制度なのでしょうか。

沓掛 多摩工業は8年前から導入しています。剣道部をふくめ5つの部活で実施していましたが、いまは制度を利用しているのは剣道部と野球部だけです。中学生が高校のサイトを見るとき、部活のページを見る子もいるので、試合結果などを詳細に載せて「多摩工業で剣道ができる」ということを常にPRしています。

剣道推薦制度ではありますが、私学のように勉強や授業料の優遇などはまったくありません。試験は剣道実技と面接があります。剣道を多摩工業で続けたいという気持ちから、うちの学校のレベルよりもはるかに学力がある生徒が入学することもあります。

―私学の推薦制度は広告塔のような側面もありますが、それとは内容が異なるようですね。

沓掛 推薦制度で入学した生徒たちが部活動を盛んにしてくれて、核となる存在になっています。多摩工業剣道部も推薦制度を導入してから活性化につながりました。クラブでがんばっている生徒は勉強もしっかりとするので、他の教科の先生方から評価をいただいています。

―中学校から高校に進む際、剣道から離れてしまった生徒の主な理由はなんでしょうか。

植木 ある高校の先生が剣道経験者の新入生に「中学で剣道をやっていたのに、なぜ高校でやらないの?」と声をかけたところ「もうお腹いっぱいです」と答えたそうです。これは燃え尽き症候群というか、指導者が一所懸命に指導した結果、裏目に出てしまったケースです。一方で指導者が不在で剣道を続け、大きな魅力に出会えることもなく、剣道から離れてしまうこともあります。

木村 高校進学時に剣道を続けるか否か迷っている生徒に理由を聞くと「ほかの種目もやってみたい」と言うことが多いです。同学年に複数の生徒がいますが、残念ながら剣道から離れてしまう生徒もいます。

沓掛 色々な理由があるので、卒業生を100%継続させることは難しいでしょう。中学で違う部活に入っていた生徒が高校で剣道部に入ることは皆無ではないですが、少ないです。身近で剣道を続けている先輩や先生がたくさんいれば継続率は上がるでしょう。理想は高校の部活動に参加し、「ここに行きたい」という明確な目標を持ってもらえればいいけれど、続けるかどうか未定の生徒はそこまで積極的に動かないです。

植木 剣道部でも自分に合う場合もあれば、合わない場合もあります。極端な話、勉強と剣道を両立したい生徒にとって、剣道漬けの部活なら敷居が高くなるし、しっかり剣道をしたい生徒が週数回の稽古しかなかったらやる気がなくなってしまいます。

―各学校が部活の雰囲気をしっかり情報発信することが大切ですね。ところで木村先生の国分寺三中は初心者で剣道を始める生徒はどのくらいいますか。

木村 今年の1年生部員は女子2人で両方とも初心者、男子1人で経験者です。2年生は女子3人が経験者で初心者1人、男子は経験者3人で、初心者1人です。人数は少ないですが、毎年数人初心者が入っています。中学生は理解力が高いので1年間しっかり稽古をすれば剣道の動きを手取り足取り指導しなくても身につけることができ、上達は早いです。

沓掛 中学から剣道を始めても高校でもうワンランク上がることが可能です。中学校から剣道を始めることは全然遅くないです。とくに女子はその傾向があり、高校でも活躍しています。

木村 うちにも中学校から始めた生徒で強豪高校に進学した生徒がいます。厳しい環境なので続けることができるか心配していたのですが、大会で活躍していました。剣道を始めた頃は蹲踞もうまくできないような生徒でしたが、厳しい環境でしっかり剣道を続けてくれていました。中学から始めても日本一をめざす高校で剣道を続けることは可能だと思います。

沓掛 そういう生徒は自ら剣道を求めて、明確な目標をもって厳しい環境を選んでいるのかもしれないですね。目標が明確だからどんどん強くなると思います。

―高校から始める生徒はいますか?

沓掛 多摩工業は推薦制度が始まってからは少なくなりましたが、昨年卒業した生徒にはいました。1年生の合宿を終えた頃に「やめたい」と言い出したのですが、なんとか卒業まで剣道を続けてくれました。都下の工業高校を対象とした、東京都工業高校剣道大会という大会があるのですが、個人戦で3回戦くらいまで勝ち進み、応援に来ていたお父様が涙を流していました。鉄道が大好きな生徒で卒業後は鉄道の検査・保守をする会社に入り、元気に仕事をしています。いまは剣道から離れていますが、合宿にも来てくれます。初心者の子ですよ。会社では時間がなくて剣道はできませんが、高校の剣道部に来たときには稽古をしてくれます。そういう子は、熱意と行動力があるので周りが認めます。実力は在校生のほうが上かもしれませんが、そういう形で携わっています。高校で始めるのは勇気がいるかもしれませんが、せっかく始めてくれた生徒には自信を持たせる工夫はしていました。どうしても敷居は高いかもしれませんが、入ってしまえば必ずすぐになじみます。

植木 八王子東高校、前任校の日比谷高校にはスポーツ推薦制度はありませんが、武道にあこがれて初心者から剣道を始める生徒がいました。3年間しっかり稽古をすれば二段までは取得できます。とくに女子の場合は絶対数が少ないので初心者で始めた生徒も大事な戦力です。経験者は大歓迎ですが、未経験者でもしっかり育てるスタンスで取り組まないと部員は減る一方です。女子は高校3年間でしっかり稽古を続ければシード校と対戦してもなかなかいい勝負をします。女子は全体のレベルが下がっていることもあり高校から始めても充分勝負できます。

木村 女子は高校から始めても遜色なくなります。

植木 やはりある程度人数がいないと活気がつきません。今日の稽古会にも数名で来ていた学校があったけれど、本当に立派だと思います。

稽古時間の確保と勉強との両立の必要性

―平成30年3月にスポーツ庁から「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」が発表されました。現場ではどのような影響がありますか。



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