剣道極意授けます 連載

究極の決め(有馬光男範士)Part1

2021年6月7日

剣道は最後の〝決め〟が勝負を分ける。声で決め、手の内で決め、体勢で決め、そしてそれぞれの技における〝決め〟の要諦を知れば、おのずと一本は決まるのである。剣道の最高峰・八段の頂点を決める明治村剣道大会で優勝二回。名人・有馬光男範士が〝決め〟について語る―。

有馬光男範士

ありま・みつお/昭和十八年岡山県生まれ。西大寺高校から大阪府警へと進み、全日本選手権大会二位、全国警察官大会団体・個人優勝など輝かしい戦績を残す。平成五年、八段に昇段。その後、八段の頂点を決める明治村剣道大会で二度の優勝を飾る。現在は大阪府警察剣道名誉師範、花園大学剣道部師範、トールエクスプレスジャパン剣道部師範、大阪星光学院中学・高校非常勤講師などを務める。剣道範士八段

良い手の内が打突に冴えを生み、声と体勢の一致が技を決める

〝決め〟とは非常にあいまいな表現ではありますが、たしかに剣道において〝決め〟というものは存在すると思います。分かりやすいところで言えば、打突にも〝決め〟があります。小手打ちを例にとると、身体や手に無駄な力が入った小手打ちは、打った瞬間に鈍い音が鳴り、相手への痛みも相当なものです。対して適正な力加減で打った小手打ちは、「パクッ」と言う心地よい音もさることながら、相手は心底〝まいった〟という気持ちになるものです。試合を判定する審判員の心情を考えたとき、どちらの打突に旗があがるでしょうか。後者であることは歴然でしょう。この場合で言う〝決め〟とは、言い換えれば「手の内」のことです。〝決め〟を求めていくならば、手の内をやしなうことは避けては通れない道になります。

 そしてもう一つ、〝決め〟という言葉と切っても切れない関係なのが「体勢」です。打突時の体勢、打突後の体勢、どちらも重要です。細かい説明は後にしますが、打突時であれば体勢の崩れがないか、打突後であればすぐさま次の打突に移ることができるような体勢になっているか。こういったことを常々意識しておくことで、紙一重の技に旗があがるようになります。これこそ〝決め〟でしょう。

 私は小学校四年生のときにはじめて竹刀を握ってから、長きに渡って真剣勝負の場に身を置いてきました。今回はこれまで私が実践してきたものの中からいくつか、〝決め〟にまつわる話をさせていただこうと思います。

恩師・近成弘の話

 私の話をする上で、恩師である近成弘先生(範士八段)にご登場いただかないわけにはいきません。私は小学校四年生の時、地元岡山の西大寺武徳殿で剣道をはじめましたが、そこの指導者が近成先生でした。以来、高校三年生までの九年間、先生にはみっちりと鍛えていただきました。先生は古武士のような雰囲気をまとっており、とにかく厳しい人でした。ただし、厳しいというのは体罰であるとかそういったものではなく、とにかく稽古が厳しかったということです。そして、先生の稽古には情がありました。今の自分があるのは、近成先生の指導いただいた九年間があったからだと心底思います。〝決め〟の話から逸れないようにしないといけませんが、近成先生は指導が抜群に上手で、理論的であり、それまでできなかったことも先生に教わるとすぐにできるようになりました。

 近成先生にいただいた指導を振り返ってみると、昔の先生はみなそうですが、何よりも基本を重要視されていました。とくに足さばきの稽古は、足腰が立たなくなるまで何度も何度も繰り返し行なった記憶があります。私は身長が高い方ではありませんでしたし、先生もそうでした。だからこそ、足さばきの必要性を身に染みて感じていたのでしょう。私は今年で七十歳を迎えましたが、年齢を考えれば今でも足さばきは良い方だと自負しています。ここまで足さばきを維持できたのは、取りも直さず先生のご指導のおかげに他なりません。足さばきが良いということは、すなわち体勢の崩れが少ないということにもつながってくると思います。ですから、先生は私に自然と〝決め〟の重要性も指導してくれていたのだと、今振り返って思います。

 先生の指導の中でもう一つ、今でも心がけているのが切り下ろしの深さです。先生は打ち方の指導をする際に、面打ちならばここまで、小手打ちならばここまでといったように、切り下ろしの深さを明確にしていました。竹刀は部位を打ったところで止まるけれども、意識としてはもっと深く切り込んでいかなければ打突に冴えは生まれない、そういうことです。先生の打突はこちらが切られたと錯覚するほど鋭いものでしたから、よほど手の内からくる〝決め〟が良かったのだと思います。

有馬範士は現在でも、大一番の際には近成範士の防具をつけて試合に臨むという



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