2024.8 KENDOJIDAI
撮影=西口邦彦
構成=寺岡智之
今年5月に行なわれた八段審査において、見事昇段を果たした北条将臣教士。世界選手権の個人優勝を例に出すまでもなく、選手として第一線で戦い続けてきた名選手だ。自身の構えや剣先についての変遷や考えを伺った。
北条将臣 教士八段
ほうじょう・まさおみ/昭和49年生まれ、神奈川県出身。横浜高校から日本体育大学に進み、卒業後、神奈川県警察に奉職。主な戦績として、世界選手権大会個人優勝、全日本選手権大会3位、全国警察大会団体優勝、国体優勝など。現在は神奈川県警察剣道副首席師範として後進の育成に励む。令和6年5月、八段昇段
構えはつねに自然体であること
体格や剣風によって特徴が出る
今回は構えと剣先についてということでお話をいただきましたが、正直に話せば、私は剣道をはじめてから現在に至るまで、これらについて大きく何かを変えたということはありません。幼少期、高校、大学、社会人とそれぞれの段階において、その都度の目標に合わせるようにしてマイナーチェンジを施していったような感覚です。ですから私の考えが読者のみなさまの力になれるかどうかは甚だ疑問ではありますが、今に至るまでの経験をもとに、今回のテーマについて少しお話しをさせていただこうと思います。
振り返れば、私は正栄館磯部道場という神奈川県横須賀市の道場で剣道をはじめました。どの道場も同じだとは思いますが、はじめたばかりの少年少女に「構えはこうあるべきだ」と言っても理解をしてもらうのは難しいでしょう。私の道場でも「構えはまっすぐ」「ビームを出すつもりで剣先を相手に向ける」といったように、子どもにも分かりやすいかたちで構えの指導を受けたのがはじまりでした。
高校は横浜高校、大学は日本体育大学に進学しましたが、そこでも構えに関して強く注意をされたことはなかったと記憶しています。私が構える時に考えているのは、とにかく自然体であることです。それは構えの形もさることながら、自然体で構えていることによって技が出しやすくなる感覚があるからです。身体に余計な力が入っていると、スムーズな打突動作にはなりません。こんなことを高校、大学時代に考えながら剣道をしていたわけではないですが、日々の厳しい稽古の中で自然と、そういった構えから打突に至るまでの動きが身についていったのかなと感じています。
神奈川県警奉職後は、とにかく試合に勝つために試行錯誤する日々がはじまりました。神奈川県警剣道特練は、それぞれのスタイルを尊重して個性を伸ばしていただける場です。今、指導者の立場になって思うのは、あまり型にはめすぎると選手の成長を阻害する恐れがあるということです。全日本選手権で活躍する選手の構えが十人十色であることからも分かるように、構えというものは体格や剣風によって特徴が出て当然だと考えます。私は竹刀を相手の正中線にまっすぐ向け、剣先の高さは延長線上を相手の喉元あたりにつけることを意識しています。昨今は左拳がやや左に寄り、剣先が相手の左目に向いている構えを選手間でもよく見ますが、私には今の構えがしっくりきています。
今、自分が自信を持っている構えや攻めで勝利を得ているのであれば、それはある意味で正解ということでしょう。むしろ、正しさを求めすぎて個性がなくなり、試合も勝てなくなっては元も子もありません。前述したように、剣道は生涯に渡る長い修行期間の中で、段階に応じた構えや攻めがあります。次の段階に進んで新たな目標を立てた時に、今の自分を振り返って修正を施していけばよいのではないでしょうか。多少の誤差を気にしすぎては、相手を打つという剣道の本質を見失ってしまう気がしています。
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