冴え

手の内と打突の冴え(栗田和市郎)

2022年9月12日

KENDOJIDAI 2021.9

写真=西口邦彦
構成=土屋智弘
協力=東京修道館

「冴え」や「勢い」のある打突は審査や試合で評価される一本となる。そのメカニズムは如何に。当てるや叩くとは違う、斬るという行為から発展した剣道の歴史も踏まえ、正統派の剣道を体現する名手・栗田範士にお伺いした。

栗田和市郎範士八段

くりた・わいちろう/昭和31年神奈川県生まれ、64歳。鎌倉学園高から法政大学に進み、卒業後に警視庁に奉職する。全日本選手権大会3位、全国警察大会団体優勝5回、寬仁親王杯八段大会優勝、全日本選抜剣道八段優勝大会3位などの戦績を収める。警視庁剣道副主席師範をもって平成29年に定年退職。現在、全日本剣道道場連盟常任理事兼事務局長、キヤノン剣道部師範、昭和大学剣道部師範、東京修道館師範などを務める。

 歴史的に剣道は相手を真剣で斬るというところから発展して来ました。そのため竹刀を執っての打突も当てる、叩くのではありません。正しく斬るということが大切です。その考えに則ると、打突の冴えはとても重要になります。正しい構えから正しい振りかぶり、振り下ろし、手の内の作用で冴えを持って相手を打突しなければなりません。今回はこれまでの剣道人生で私が身につけた、正しい構えから体の運用、竹刀操作を解説したいと思います。

 冴えある打突を生むには「手の内」が大切です。手の内とは以下の4つことを具体的に指すと考えています。①柄を持つ左右の手の持ち方、②力の入れ方、③打突の際の両手の緊張の状態と釣合い、④打突後の両手の解緊の状態。これらが相まって打突時の冴えを生みます。竹刀の重さに自らの力を加え、速度を持って打突しますが、それが短時間でなされるほど打突の力は大きくなります。その際、瞬間的に手の内がしまった打突でないと、スピードも落ちますし、冴えが出ません。竹刀が重くとも、また力まかせに振っても手の内が効きませんと、ダラっとした打突、時間的に長い打突となり、冴えは出現しません。力みなく躊躇なく打突を出すことが肝要です。

 また「打突の勢い」については、間合がものを言います。自らに適正な距離(間合)から、正しい姿勢と正しい足さばき、正しい手の内の作用を持って、打突部位を「捨身」で打突することで、始めて勢いが生まれると考えています。

 このように「冴えある打突」や、「打突の勢い」は剣道の総合的な力が要求されます。たとえ稽古や素振りで、正しく身につけていても、それを実戦で使えなければいけません。しかしここが難しい所で、間合が詰まってくると、打とうか、相手は打って来ないか避けようか、などと考え、身体に不自然な力が入りがちです。とくに上体、肩や腕に力が入ると、正しい構えが崩れ、手の握りも竹刀の振りの軌道も変わってしまい、「冴え」や「勢い」とはほど遠い打突となってしまいます。つまり相手を攻めて、崩して、その勢いのまま自然体で打突しませんと打突の「冴え」や「勢い」は生まれないのです。ゆえにそれらが出現する打突は審査や試合で評価される一本となります。

 本番でも使えるよう、日頃から正しいやり方を見つめ直し、繰り返すことが大切です。質の良い一本を、量をかけて積み重ねていくしか近道はありません。

 冴えと勢いのある打突ができるようになるのと並行して磨くべきなのが、「打突の機会」になります。剣道における「機会」とは、自分も相手も絶えず動いている中、千変万化するもので、動きの間に打突すべき機会が生じます。それは瞬間的で失いやすいものです。

 理論的に機会を分析すると、以下の7つに大別されると考えられます。①出頭、②退くところ、③技の尽きたところ、④居着いたところ、⑤受け止めたところ、⑥息を吸うところ、⑦四戒が生じたところです。これらの機会に間髪を入れず、無意識に打突することが本当の技と言えるでしょう。打突の機会は、受身で待っていても生じません。正しい姿勢で、充実した気勢をもって積極的に攻めることで作り出していく意識が不可欠です。

 力の差がある相手に対しては、ある程度の「読み」で打突できます。しかし力が拮抗している相手は、やすやすと隙を見せてくれる訳ではなく、最終的に「勘」による打突が必要だと感じています。「読み」や「勘」を養い、研ぎ澄まして行くには、正しい真剣な稽古を求め、繰り返し鍛錬をするしかありません。

正しい構えが冴えや勢いの原点となる



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