攻め

先を懸けて勝機をつくれ(井口 清)

2024年4月22日

2024.4 KENDOJIDAI

撮影=西口邦彦
翻訳=

若手時代から輝かしい実績をおさめてきた井口教士は、平成28年に八段に合格した。八段挑戦の過程の中で、「先を懸ける」ことの重要性を実感したという

井口 清教士八段

いぐち・きよし/昭和44年埼玉県日高市生まれ。皆野高から流通経済大に進み、卒業後埼玉県警察に奉職する。全日本選手権出場10回、世界大会団体優勝2回、全国警察大会個人優勝など。令和4年より流通経済大学教員・同剣道部監督。

「先(せん)」に関しては、その言葉を用いた教えが数多く存在しています。よく初心者の子どもに指導する際「先とは、先に打つことだよ」と伝えることもあります。それは間違いではありませんが、熟練度が上がると、少し「先」の意味の捉え方が変わってくると思います。

 剣道における先は、「先」と「後の先」に分けられ、自分が先に打ちに出る場合が「先」で、相手が打った後に自分が打って出る場合が「後の先」となります。

 さらに「三つの先」という教えもあります。「懸の先」と「待の先」は、前述の「先」と「後の先」と同じものです。「体々の先」は、両者が互いにかかり合い、間合に接近した時、相手の隙を見つけて、自分の太刀、身体、足、心のいずれかで先を取って勝ちを制することです。また、先々の先「相手の起こりが形に現れるまでのきざしを見抜いて打ちを出し機先を制する」という先々の先の教えもあります。

 相手との攻め合いにおいてこちらが主導権を握って優位に立ち、相手の動きに素早く反応して有効打突を奪う、これが「先を懸けている」状態であると思います。こちらが先に動きを見せて技を出さないまでも、気当たりや剣先の攻防において優位に立っている状態であり、相手が動いた瞬間にはすぐに対応して有効打突を奪える状態、そのようなイメージが大切であると思います。

 ただ、こちらが打とうとする瞬間は「起こり」であり、つまり隙となります。相手にとってはそのようなところを狙ってきますので、「読み合い」も重要な要素となります。「相手がどのようなところを狙ってくるかを読む」ことも含めて対応し、優位な状態を保ち、技を施すことができれば、「先を取った」状態であると言えるでしょう。

 熟練度が上がれば、このような一連の行動を無意識に行なえるようになります。また、審査や試合といった緊迫した場面においても的確な判断を行ない、おのずと先を取ることが可能なのではないかと思います。

 先を取るには「読む力」が必要であると申し上げました。剣道の打突の機会については「相手の動作の起こり頭」「技を受け止めたところ」「技の尽きたところ」「居着いたところ」「引くところ」「心が乱れたところ」「実を失って虚になったところ」が挙げられます。これらの点について、私がもっとも注目すべきは「相手が動こうとする瞬間」だと考えています。

 前に出る瞬間、下がる瞬間、何かをしようとして止まっている瞬間、次の動作をしようというその隙間に、隙が生じやすいと思います。

 相手が下がるであろうことを前提に攻め入ったとしても、相手は脅威を感じておらず攻め返す余裕がある場合は、それはこちらが自分勝手な攻めになっており、「先を懸けた」状態ではなく、実は先を取られていたということになります。

 前後の試合展開・動き・気持ちの流れを踏まえた上で、こちらの動きに対し「どのような対応をしてくるか」を読み、的確な判断のもと自分の技を選んでいきます。ですから、稽古においても、ただ打つのではなく、これらの点を考慮した上で行う必要があるでしょう。相手を読む力が先を懸ける剣道につながり、いわゆる「理にかなった」剣道にもつながると思います。

いつもの間合よりもさらに前へ攻める稽古



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