構え

活きた構え(​​香田郡秀)

2024年8月12日

2024.8 KENDOJIDAI

撮影=西口邦彦
構成=土屋智弘

活きた構えとは気攻めのできる構えだ。そのために重要なのは、左拳の収まりや、足腰の正しい運用、鎬を使った攻めが必須となる。明快な理論で、数々の名剣士を育て上げた香田郡秀範士に、気攻めの要諦や実戦の打ち込みにつながる構えについて解説いただいた。

​​香田郡秀 範士八段

こうだ・くにひで/昭和32年長崎県生まれ。長崎東高校から筑波大学に進み、卒業後は第6回世界選手権個人優勝、全日本選手権大会3位、全日本教職員大会個人優勝などを果たす。長崎県高校教員から母校筑波大学に戻り、長年、教授職を務め数々の卓越した剣道理論と指導論で多くの教え子を全国優勝に導く。令和5年、筑波大学を退官。現在は全日本剣道連盟常任理事、成城学園剣道部師範を務める。筑波大学名誉教授。

凛とした立ち姿のために
事前準備の大切さ

 「活きた構え」を作るためには、まず凛とした立ち姿が大事となります。礼法から凛とした姿勢で、相手に立ち向かうという力強さを醸し出すのが理想です。そのための前提として、着装には細心の注意を払います。剣道着、袴、剣道具の着装、竹刀に注意を払った上で、正しく美しい立ち姿を求めましょう。

 自分の体格に合った剣道具を選ぶことも大事です。特に面の物見の位置と目を合わせ、遠山の目付で相手を見ることが必要となります。物見がズレると相手を上から、あるいは下から見上げたりと、凛とした立ち姿からは程遠いものとなります。しかも相手と対峙した際に、顎が上がってしまったり、顎を引き過ぎる姿勢となり、結果として腹の力が抜けてしまい、腰が引けた打突となってしまいます。また面紐の結び目の位置は物見の高さが正しい位置です。そこで結ぶことが、見た目の美しさもつくり出します。

気を整え合気に
気で崩して機会を捉える

 気を先に押し出すような構え、つまり気攻めのできることが、相手にとって脅威となる剣先の鋭さを生み出します。気攻めから打突を段階的に追いますと、「気を整え」→「合気(呼吸を合わせる)」→「気を溜める」→「気で崩す」→「機会を捉える」→「打突」のような手順になると整理できます。

 文字の羅列としてはこのようになりますが、では実際に行おうとすると、難しい問題でしょう。打ち方は繰り返し稽古すれば、身体が自ずと覚えますが、気で攻めるということは、目には見えないものであって、そのようにはいきません。しかし剣道の根幹に関わる大事なことですので、まずは言葉で説明をしてみます。

 気攻めでもまずその準備が大切になります。きちんと相手と向き合い、礼をして自らの気を整え鎮めることです。そして相手と構え合ったならば合気になります。合気になる目安として分かりやすいのは、相手と呼吸を合わせることになるでしょう。

 よく審査などで立合う相手によって、自分の剣道が変わることがあります。相手と合気になった立合は、お互いに良くなるものです。一方で合気にならないうちに出した技は、所謂手打ちとなり、当たっても響かないものです。合気にならず、自分の我ばかりを張る剣道では、高段位審査での昇段はおぼつきません。

 「自分の良いところ」「普段の稽古で今まで努力したところ」といったものを、互いに出し合うという気持ちで、合気になるのが大切です。気を前面に出し、相手と合気になってから繰り出す技が、審査員の心を捉える一本となることを肝に銘じておきましょう。

 そして気を溜め、気で崩すという段階では、「来るなら来い。来ないならば行くぞ」という強い心構えで立ち合うことです。気持ちで負けないことが大事と言われますが、その一つの現れの指標が左手の拳の位置になります。左拳が正しい位置に収まっていることが、気の攻めにつながるはずです。逆に左手が動いてしまうということは、相手に気持ちを動かされているということになります。

 さらに相手の気を崩すということは、気で気を殺すこと、つまり相手の気持ちを崩してから打ち間へ入っていく。同時に鎬を使い剣先で中心を取ることで、剣をも殺すこととなり、結果として相手の技をも殺すという「三殺法」の教えが実現します。審査では審査員の全員がこの流れを見ています。手順を踏んだ一本が打てれば、審査は自ずと通るはずです。

遠間から気で攻め
相手の動作の端を打つ

 最後に打ち間に入るまでの心構えを述べます。先をかけて遠間つまり触刃の間合から、気持ちで攻めて打つ稽古を日頃から心掛けることが大切です。不用意に交刃の間合まで入ってしまうと、剣先を抑えられたり、返されたりします。触刃から入るところをスムーズに、相手の虚をつくように入ることが理想となります。バネがある方ならば、そこから打突に行きます。これは審査でも試合でも一緒のことです。

 年齢が上がり、近間の稽古ばかりしていますと、この感覚を疎かにしがちです。実際に打突に出なくてもいいのですが、遠間から気で攻めておき、相手が何か動作を起こすところを、乗って打突に行く意識が大事です。



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