※この記事は『剣道時代 2015年12月号』に掲載されたものです。
筑波大学を率いる鍋山隆弘教士の代名詞と言えば、豪快な面技である。近間からでも遠間からでも、観ている者を唸らせるような鋭い面を繰り出す。「面が打てるからこそ、剣道の幅が広がる」と言う鍋山教士に、面技を身につける上で大事な要点を聞いた。
鍋山隆弘教士八段
なべやま・たかひろ/昭和44年生まれ、福岡県出身。今宿少年剣道部で剣道をはじめ、PL学園高から筑波大へと進学。学生時代はインターハイ個人団体優勝、全日本学生優勝大会優勝など輝かしい戦績を残す。大学卒業後は同大大学院を経て研究者の道へ。現在筑波大学体育系准教授、筑波大学剣道部男子監督
竹刀をまっすぐ振ることで感覚と実際の動きとのずれをなくす
私は指導する筑波大学で、剣道経験のない学生に授業を行なっています。1時間強の授業時間で目指しているのは〝竹刀をまっすぐ振る〟ということ。ただまっすぐ振ることがこんなにもむずかしいんだということを感じさせる、これが剣道指導の第一歩目であると思っています。
竹刀をまっすぐ振ることは、経験者であってもむずかしい動作であると私は考えています。自分ではまっすぐ振っているつもりでも、実際はできていない。たとえば切り返しでは、左右面を打つ際に、同じ軌道を通って竹刀を振り上げなさいとよく指導されます。しかし、実際は右面を打つ場合、多くの人が違う軌道を通っています。幼少のころから剣道を学んできた大学剣道部の学生でさえ、できているのは半数程度でしょう。できていない学生にそのことを指摘しても「この技術がいつ、どの場面に活きるのか」と疑問に感じることがあるかもしれませんので、自分の思うように身体を動かすことができていないこと、それ自体が剣道上達にとっては大きな問題だと学生には伝えています。
自分が頭で思い描いている動作と、実際に身体が行なう動作とのずれをなくす。そのために私が実践しているのは、鏡の前での素振りです。まずは鏡に映った自分と正対して、本当にまっすぐ振り上げられているか確かめます。できていなければ微調整をして、何度か振ってみる。その後に、今後は目を瞑って竹刀を振り上げ、またずれがないか確認します。これを何度も繰り返すことで、感覚と身体のずれが少しずつなくしていきます。
実際の試合では、自分の竹刀がどこにあって、どう動かして、どこを打とうと考えている暇はありません。一瞬の間に自分の思うところに竹刀を持っていかなければならないわけですから、感覚にずれがあるとその好機を逃してしまいます。その根幹となるのが、竹刀をまっすぐ振ることだと私は考えています。
面を打つことができるからこそ勝負に勝つことができる
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