2019.6 KENDOJIDAI
創部は明治26年。百年以上の歴史を誇る中央大学剣道部が、昨年13度目の学生日本一の栄光を手にした。これまで数々の強豪剣士を輩出してきた同剣道部で日々行なわれている、「個性」を伸ばし「勝利」を求める実戦的稽古を追った─。
プロフィール
北原修(きたはら・おさむ)監督/昭和47年生まれ、佐賀県出身。三養基高校から中央大学へと進学する。学生時代は全日本学生優勝大会優勝、関東学生選手権大会優勝など活躍。大学卒業後は同大学の職員となり、平成13年より同大学剣道部監督に就任。平成7年卒。
個性を伸ばし、一本にこだわる稽古を
―新チームが始動しました。昨年、24年ぶりの学生日本一に輝いてから5ヶ月ほど経ちましたが、優勝できた理由について改めて振り返っていただけますか?
北原 試合当日は私も選手たちも、戦う上での恐さや不安、迷いといったものがまったくなかったと感じています。楽しみながら試合ができた、これは今までと大きく違うところです。
前年は梅ヶ谷翔という大黒柱がいて、チームとして彼につないでいく剣道を求めていました。もしかするとその点が、個々の勝負に対する甘さにつながっていたのかもしれません。今回は梅ヶ谷のような選手がおらず、良い意味で選手一人ひとりが「自分がやらなければいけない」という自覚を持ったのではないでしょうか。
日々の稽古においても誰かに頼るのではなく、自分が試合を決められるようになるんだという意気込みが感じられました。その結果、先鋒から大将までどこでも勝負できる強いチームができあがり、優勝へとつながったのだと思います。
―北原監督としても、監督を務められてから初の優勝となりました。優勝したことによる部や選手の変化のようなものは感じられますか?
北原 その効果は充分に感じています。同じことを指導していても、優勝する前と後では部員たちのとらえ方が大きく変わりました。私も自信を持って指導できますし、部員たちもこれまで積み重ねてきたことが間違いではなかったと、目の前の稽古にさらに集中するようになったと思います。
―長い伝統を誇る中央大学剣道部ですが、その剣風はどのようなものですか?
北原 ひと言でいえば「自由な剣風」が中央大学剣道部の特長だと思います。自由な剣風をもう少し噛み砕いて説明するならば、「型にはめない剣道」「個性を伸ばす剣道」というところでしょうか。
この剣風は私が学生のころ、津村耕作部長や中倉清師範がご指導されていた時代から変わっていません。現在は師範に神奈川県警察剣道首席師範の宮崎正裕先生をお迎えし、私と上原祐二助監督、宮本浩平、齋藤将吾両コーチという布陣で指導に臨んでいますが、根幹の部分は同じです。
―個性を伸ばす剣道とは、実際のどのような稽古から培われていくものでしょうか?
北原 よく私が学生たちに言うのは、個性とクセは違うということです。剣道の成長に障害となるクセは当然直していかなければなりませんが、たとえば間合のとり方であったり打突のタイミング、引き技の打ち方といったものは、選手それぞれの個性だと考えています。中央大学で剣道を学んでいる人間は、高校時代に厳しい稽古を経験し、試合経験においては百戦錬磨の者ばかりです。
彼らの良い面を伸ばしてあげるのが、我々指導者の役目であると考えています。ただし、得意なところだけを突き詰めても勝負には勝てません。一足一刀からの正しい剣道も指導していき、剣道の幅を広げてあげられるようにと思っています。
―稽古内容は、なにを指導の中心に据えていますか?
北原 「一本にこだわる」ことは部全体の共通意識として持つようにしています。最初にお話しさせていただいたように、今年は個々で勝負できる力を蓄えるというのが大きな目的としてありました。
そのためには、技の稽古もただ基本どおりに打って終わるのではなく、さまざまなバリエーションを自分で考えて取り組ませるようにしていました。剣道は道場のなかでしか強くなることはできないというのが、私の持論でもあります。
部員たちが、今の自分になにが必要なのかを理解し、目的をもって稽古に臨んでもらうことを大事にしています。
―監督自らがあまり細かな指導はされないのでしょうか?
北原 クセを直すことに関しては、稽古のなかで気づいたら逐一指導するようにしています。技術部分は直すことよりも伸ばすことに主眼を置いています。
大学生はやらされる剣道から自分で求めていく剣道への転換期でもあると思いますので、あまり口うるさく細かな指導をするのではなく、自発的に求めていけるよううながしています。
―「一本にこだわる」ことについて、もう少し説明いただいてもいいですか?
北原 具体的に言うならば、4分という試合時間のなかで勝ち切ることのできる力を身につけるということです。そのためには、さまざまな状況に対応できるよう日々稽古を積んでおかなければなりません。
先に一本を奪ったあとの対処や、つばぜり合いからの展開もその一つです。その時々で相手がどのような心理状態になるのかまで想定して、それを稽古に落とし込むようにしています。
―そこまでやらないと勝負には勝てない。
北原 勝負は時の運ですから、つねに想像しうる状況が訪れるわけではありませんが、とにかくできることはやっておこうというスタンスです。もう一つ加えていうならば、我々は体育大学と違って練習時間や環境が限られています。
その限られている部分をマイナスにとらえるのではなくプラスに転換して、量よりも質を高めた稽古をしていこうということは、つね日ごろ部員たちに伝えているところです。
―中央大学の門をくぐった部員たちに監督として期待することは?
北原 新チームがスタートするときのミーティングで彼らに伝えたのは、「まわりから応援される剣道部になろう」ということです。応援していただくためには、生活面、学業面、稽古面などすべてにおいて高いレベルを求めていかなければなりません。
その目標が達成できたときに誰もが応援してくれる剣道部になると思いますし、部員たちも社会に巣立つ上で大きな自信が得られると思います。
―連覇を目指すこの一年、どう戦っていきますか?
北原 苦しい戦いになるだろうと思います。ですが、やってきたことは間違いない。明るく、自信をもってこの一年を戦い抜いていきたいと思います。
残りの記事は 剣道時代インターナショナル 有料会員の方のみご覧いただけます
No Comments