トレーニング 稽古方法 自宅稽古

市民剣士の一人稽古&トレーニング

2020年3月24日

KENDOJIDAI 2019.8

市民剣士にとって稽古の時間は限られている。しかしそれ以外の時間の中で1日10分でも良いのでトレーニングをするべきである。また怪我などで剣道具を着けられない時にも一人稽古やトレーニングが有効だ。一方で日々の正しいトレーニングが怪我の予防につながり、結果として稽古の量や質を高めていく。鍵となるのは持久力。全身そして筋肉の持久力を維持する方法をスポーツバイオメカニクスの第一人者であり全日本の強化トレーニングコーチを務める高橋教授にお聞きした。

高橋 健太郎(たかはし・けんたろう)関東学院大学教授

昭和47年群馬県生まれ。巣鴨高校から横浜国立大に進み、同大学大学院修士課程修了後に日本体育大学大学院博士課程修了、学術博士。平成18年より全日本剣道連盟強化訓練講習会トレーニングコーチを務める。群馬工業高専教員を経て、現在関東学院大学教授。同大学剣道部長。剣道教士七段。

トレーニングの重要性

 何のためにトレーニングをするのでしょうか。まず最初の大きな目的は、怪我をしない身体を作ることです。日常的に稽古をしている方は、怪我をすると稽古を中断しなければいけないですし、試合や審査などでも満足のいくパフォーマンスを発揮できません。結果としてトータルでみると、怪我をしないことがパフォーマンスの向上にもつながると思います。

 一般の愛好家の方は、毎日稽古できるわけではないと思いますので、普段体を動かしていないのに、無理をして怪我をすると、肝心な稽古も滞り、マイナスになってしまいます。ですから、普段から毎日10分でもいいので、トレーニングをすることが大事です。

 部活などで毎日のように稽古をやっている高校生や大学生では、稽古中の竹刀の振り数をカウントすると、1回の稽古で2000本ほど振っています。例えば、切り返しでの本数や掛かり稽古などでは、1秒間に1本打っているので、30秒などの掛かり稽古では30本になります。他に基本打ちなどもありますので、それほどに振りこんでいるものです。

 そこで怪我をした時に、パタッと竹刀を振ることを止めず、何をするかというと、腕を使えるなら素振りをしたり、などとなるかと思います。しかし筋力以外にも持久力が落ちるのは誰しもが経験することでしょう。いわゆる稽古に復帰した際に、息が上がってしまうということです。例えば10分間の稽古でも、途中の5分くらいで息が上がってしまうと、後の5分は流してしまうものです。そうなるとよい稽古にはなりません。1回の稽古で見ると、たかが5分だとしても、月や年単位で考えると、累積時間は大きく、パフォーマンスの大幅な低下になります。ですから、持久力系のトレーニングも必要不可欠なのです。

持久力には2つある

 ではトレーニングをやっておけば、強くなるかと言えば、そうではなく、面を被って稽古することが一番の上達につながります。しかし、今回は何らかの事情で出来ないという時のことをお話しします。筋力系の維持に意識が向きがちですが、持久力について考えてみましょう。

 筋力以上に、持久力の方が落ちやすいです。「稽古を1日休むと、3日遅れる」と昔は言われていたようですが、そこまでではないにしても、1週間・数週間となると確実に落ちてきます。

 そして持久力には全身のそれと、筋肉のそれがあり、それぞれ落とさないことが重要です。技や駆け引きは、熟練すれば落ちませんが、「ここで行けるのにと頭で分かっているのに身体が出ない」というのは、実はこの持久力に関わっています。ですからそれをトレーニングしておくと、たとえ怪我等でブランクがあったとしても、すぐに復帰できると思っています。

意識性を維持向上させる

 持久力に関して重要なのは、脳が命令をして正確に筋肉が動くかどうかという「意識性」です。運動会で突然短距離走を走り転倒してしまうお父さんではないですが、頭では思い描いているけど、体に命令がいっていないというのはこの意識性の低下を物語ります。

 ですから、トレーニングにおいては、どこの筋肉を動かしているか、使っているのかを脳に意識させることが大切です。脳からの命令が正しく伝わることを目的として反復すれば、命令系統の神経回路が出来てきます。そうなると、時間の掛かる大脳で考えた上での指令ではなく、小脳で動かすことができるようになります。身体が自然に反応するというのは、このような神経回路が出来ていることがまずは必須の条件となるでしょう。

 全身の持久力や筋力は継続してトレーニングをして入れば必ずつきます。正しく鍛えれば、その努力が裏切られることはありません。ですから「体力がないから負けた」というのは言い訳にならず、努力が足りなかったということです。

通常の稽古でも体幹を鍛えることを中心としたトレーニングを行うことで、 怪我の予防や稽古自体のパフォーマンス向上につながる

1日10分を継続する

 家の中などどこででも出来て、さらにトレーニング効果の高いメニューを紹介したいと思います。しかも時間は1日10分だけでも構いません。

 いわゆる「コソ練」と呼ばれているものがあります。よく新体操の選手などが柔軟性を養うために、歯磨きをして、トイレに行ったら、寝る前のひと時にストレッチを必ず行うようなことで、日常生活の一部にしているものです。あらゆる運動系の選手でトップになればなるほど、こうした少しの時間でのトレーニングをやっている傾向があるようです。剣道でも同様で、私がトレーニングコーチを務める全日本の強化選手たちでも強い選手ほどやっている印象があるように感じています。

 内容としては、家の中など限られた空間でもできる体幹のトレーニングが中心となります。また、一般の方であれば、通勤・通学時のウォーキングなどを意識して行うことも大切です。長距離を行うジョギングの時間が取れれば理想ですが、まずは出来る範囲で始めてみましょう。

 また素振りも一人でできる稽古法ですので、後ほどポイントを列挙します。

 何れにしても体幹を鍛えるメリットは大きいです。腹筋・背筋のバランスを取ることができるようになると、ふとした瞬間、体当たりなどでバランスを崩し、体を痛めてしまうこともなくなります。また体勢の崩れない、一本にする力が備わります。

 剣道は運動動作なので、実は打った瞬間はどうしても身体がブレています。しかし上手な人は体幹を使い、そこから立て直すのが早いのです。連続写真で確かめると分かるかと思いますが、打突の際、崩れている瞬間もあります。しかし、実際に肉眼で見ているときれいに打っているように見えます。すぐに体幹の力でリカバーしているということです。皆さんも日常の少しの時間で体幹を鍛え、剣道の質を高めてください。以下に18項目のトレーニングメニューを挙げます。



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