基本稽古 稽古方法

若手剣士たちが考える上質の切り返し稽古 part1

2022年4月4日

2022.2 KENDOJIDAI

基本稽古を地道に繰り返す上で、欠かせないことが「稽古の質を高めること」だ。

稽古は惰性で行なってはならないが、毎日の稽古だからこそ「こなす」稽古になりやすい。全国で活躍する若手剣士たちに、「切り返し」についてスポットをあて、稽古の質を高めるコツについて紹介してもらった

習熟状況に応じて内容を濃くする

後木顕人(北海道)
うしろぎ・あきひと/昭和59年北海道新十津川町生まれ。東海大第四高(現東海大札幌)から国際武道大に進み、卒業後北海道警察に奉職。全日本選手権出場、全日本東西対抗大会出場、国体出場、全国警察大会団体1部3位など。現在、同警察学校助教。剣道錬士六段

 剣道を始めて30年が経ち、現在は、警察学校で剣道の授業や少年剣道で指導に携わっていますが、稽古の始めと終わりには、私自身も含め必ず切り返しを行っています。

 切り返しを重要視する理由は、姿勢と構え、刃筋や手の内の作用、足さばき、間合のとり方、呼吸法が習得できるとともに、強靱な体力や旺盛な気力を養い、気剣体一致の打突など、剣道の基本となる全ての要素が含まれているからです。

 また、習熟状況に応じて、大きくゆっくりとした切り返しや小さく速い切り返しを本数などに変化をつけて行うことで、

・ 手の内の冴え
・ 応じ技の練度の向上
・ 足さばきの敏捷性

と様々な効果を得ることができます。ここでは、私が特別訓練員(特練)時代に行っていた切り返しの種類、切り返しを通して特に実感した効果、切り返しを指導する際の注意点について述べたいと思います。

切り返しの種類

・ すり足の切り返し
・ 一回の切り返し(9本切り返しを一回)
・ 通常の切り返し(9本切り返しを二回)
・ 三回の切り返し(9本切り返しを三回)
・ 面の打ち込みから切り返し
・ 往復の切り返し(1~2往復)
・ 面体当たりからの切り返し(面体当たりを3回~5回)
・ 一息の切り返し(30本~50本)
・ 相互の切り返し
・ 胴の切り返し

など、その日の稽古の中で何種類かピックアップして15分程度、切り返しを実施していました。冬場の試合が少ない時期には、全ての種類を行い、30分以上は切り返しを実施して練度を高めていました。

特に実感した効果

一つ目は、手の内の冴えです。

試合では、惜しい技を何本打っても一本にはならず、逆に最後に有効打突を打たれると負けます。この惜しい技を有効打突にするために要素の一つとして手の内の冴えが求められます。

 手の内の冴えを習得するためには、切り返しの左右面を打突する際に、相手の面を正しく一本、一本打ち切ることが重要です。

 私は、稽古の後半など疲れて苦しくなり、竹刀が振れなくなってきた時にこそ、打ち切ることを意識して切り返しを実施したことで、自然と技の冴えやキレが身体に染みつき、勝負のかかった場面や延長が続いた場面でも、有効打突を奪うことができ勝ちに繋がるケースが増えてきました。

 二つ目は、足さばきです。

 私は上背がないため、大柄な選手と対戦する際、足が止まって居着いた瞬間を打たれることが度々あったため、居着きをなくし、足を止めないためにも速く細かい足さばきを身につけることが必要だと感じました。

 足さばきの敏捷性を養うため、面の打ち込みから切り返しや往復の切り返しを行う際に、「人より速く」「移動距離を長く」ということを意識し、元立ちに協力を依頼して、足を使った切り返しを繰り返し行いました。

 その結果、足さばきの敏捷性が高まり、足が止まり居着く場面が減少し、大柄な選手と対戦しても簡単に打たれることがなくなりました。

 三つ目は、呼吸法です。

 丹田呼吸を行うことにより、自然と姿勢が正され、構えが崩れず、優位に試合を展開できると考えています。

 警察大会では、全国の強豪ひしめく選手と対戦するため、肉体的にも精神的にも大きく疲労し、体力や集中力が切れ、姿勢や構えが崩れたところを打たれて負けてしまうこともありました。

 体力・気力の強化と呼吸法を身につけるため、できるだけ「一息で数多く振る」ことを意識して切り返しを行った結果、丹田呼吸が身につき、延長戦の長い試合においても、姿勢や構えが崩れることが減少し、最後まで気力が充実したまま試合を優位に展開することができるようになったと実感しています。

指導する際の注意点

切り返しは、「大(大きく)・強(強く)・速(速く)・軽(軽やかに)」を基本として指導し、先ほど紹介した種類に加え、それぞれの段階や状況に応じ、目標を持たせて行わせています。

 特に、早い段階で正しい切り返しを身につけて行っている学生や子供達はその後の上達が早く、改めて切り返しの重要性を実感しています。

 私自身、まだまだ修行中の身でありますが、北海道には、素晴らしい先生方が多くいるので、さらなるご指導を賜り、修練に励むとともに、後進の育成に尽力し、剣道の普及・発展に携わっていきたいと思います。

一息の切り返しで心と体を鍛える



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