足と有効打突

体幹と竹刀操作

2022年6月6日

2021.3 KENDOJIDAI

「手で打つな足で打て、足で打つな腰で打て」の教えの通り、剣道では下半身始動で体さばき、竹刀操作を行なうことが重要だ。そのためには体幹から放出されるエネルギーを上半身、下半身に伝えることが重要となる。古来、剣道はへそを中心として構えることを大事にしてきた。へそを意識した稽古でワンランク上の剣道を身につけたい。

井島 章 教士八段

いじま・あきら/昭和32年秋田県生まれ。本荘高から日本体育大に進む。日本体育大学助手を経て、国際武道大学に赴任。女子剣道部監督、男子剣道部監督を経て、現在、同大学教授、剣道部長。全国教職員大会、全日本東西対抗出場など。

「体幹トレーニング」という言葉が世に出るようになって久しいです。体幹を鍛える最大のメリットは、筋肉のバランスを整え、カラダ全体の安定性が高まることと言われています。体幹を鍛えることで姿勢の改善やケガ予防、動きをスムーズにさせることで競技力を向上させるほか、筋力向上による体の引き締め、体力向上などが期待できると言われています。

 剣道においても、体幹を鍛えることで様々な効果が得られると思われますが、そもそも剣道の稽古に体幹を鍛える効果があるのではないかと考えています。

 わたしは学生時代から戦前の専門家といわれる先生方に稽古をつけていただく機会に恵まれました。どの先生にも個性がありましたが、共通しているのは足腰の強さです。身体が小さい先生でも、こちらが体当たりをしてもびくともせず、気がつけば掛かり稽古ということが常でした。

 とくに印象に残っているのは菅原恵三郎先生(範士九段)です。昭和50年代、日本体育大学の北海道合宿で稽古をお願いしました。同郷秋田出身ということもあり、目をかけていただいたのですが、打てば返され、迷えば打たれ、どこを打てばよいのかまったくわからなくなりました。身長は160センチに満たない小柄な先生でしたが、足腰が頑健で崩れのない剣道であったことを覚えています。

 菅原先生をふくめ当時の先生方は、現在実施しているような体幹トレーニングを行なっていたとは思えません。打ち込み、切り返し、掛かり稽古などを繰り返すことにより、自分の剣道を確立されたのだと思います。

 では、現代において我々がどこに着目して稽古を行なえばよいかというと、腰の備えを堅固にした構えをまず意識することです。腰が入ると臍下丹田が充実します。臍下丹田はへそのすぐ下あたりのところです。ここに意識を集中して力を集めれば、肩の力が抜け、左足が定まり、左拳の納まった構えになります。この構えを常に意識して体移動や打突を行なうことが求められますが、剣道には相手がいます。

 相手と対峙して間合が詰まれば「打ちたい、打たれたくない」という気持ちが起こり、身体に力みが生じます。その結果、正しい動作ができなくなることはよくあることです。

 中段の構えには、いつでも攻めから技につながる気の充実がなければならず、機会と感じたら身体と竹刀が一体となった打突を発せられることが大切です。そのために日頃から足さばきや素振り、打ち込み稽古などの基本稽古が大切になります。これらの稽古を行なうとき、へそを意識した構えをつくり、姿勢の崩れを極力少なくして技を出すことを心がけるのです。

 昇段審査でもっとも目につくのは手足が一致しない打突です。機会に応じて淀みなく打つことができれば、たとえ打突部位を捉えていなくても評価されることはありますが、手足が不一致の打突はそうはいきません。加齢とともに体力は衰えますが、正しい動作を身につけることができれば、剣道は何歳になっても伸びていく可能性があります。

 一つ一つの稽古がなにを目的にしているのかをしっかり意識して取り組むことが大切ですが、いずれもへそを意識した重心移動で姿勢の崩れを極力少なくして行なうことです。

三種類の空間打突と打ち込みで崩れの少ない動作を覚える



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