攻め 溜め

起こりをとらえて打て(関川忠誠)

2022年6月27日

2021.8 KENDOJIDAI

構成=寺岡智之
撮影=西口邦彦

国士舘大学卒業後、長年に渡って高校教員として後進の育成にあたっている関川忠誠教士。「起こりをとらえるには、日々の稽古で打ち切る剣道を実践すること」。そう語る関川教士に、打ちきる剣道を身につけるためのポイントについて語ってもらったー。

関川忠誠教士八段

せきかわ・ただあき/昭和34年生まれ、千葉県出身。国士舘高校から国士舘大学へと進み、卒業後は母校国士舘高校で教職に就く。現在は拓殖大学紅陵高校で教鞭を執る。これまでに全日本選手権、全日本東西対抗大会、国体等への出場経験があり、全日本選抜八段優勝大会に初出場も果たした。

基本稽古の繰り返しで地力をやしなう

 私は拓大紅陵高校に勤務してもう30年近くになります。高校生を指導する中では、とりわけ「起こり」について細かいことを言うことはなく、基本に忠実な剣道をするよう徹底した指導を行っています。

 高校を卒業すると、自分から求めない限り手厚い指導をいただける場面はほとんどありません。ということは、高校での3年間が一生の土台になる可能性が高いということです。もちろん剣道を続けていく上では勝ちを求めることも重要ですが、それよりも、将来につながる剣道を指導したいというのが私の根底にあります。

 では、将来につながる剣道を身につけるための土台がどのような稽古でやしなわれるのかと言われれば、それは基本の徹底です。本校は素振りや切り返し、基本稽古、そして地稽古、掛かり稽古といわゆるオーソドックスな稽古を積み重ねています。その中でもとくに基本稽古は数を掛け、切り返しも含めて毎日1時間以上は行なうようにしています。
 ただし、このときに忘れてはならないのは、動作が基本に忠実であるかどうかです。構えが正しいかどうか、竹刀の握りはしっかりとしているか、そこが身についていなければ、いくら基本稽古で数をかけても正しい剣道は身につきません。反対に、そういった基礎基本が備わっているのであれば、オーソドックスな稽古でも充分に地力を蓄えていくことができると考えています。

打ったら当たると分かっていても打ってはいけない技がある

 「起こり」に話を戻せば、起こりをとらえるためには相手と呼吸を合わせなければなりません。なぜ私が高校生にあまり起こりについて具体的に言わないのかと言えば、それは高校生にとって相手と合気になることが非常に難しいと思うからです。「呼吸」や「合気」という言葉は高校生には理解しがたいので、私が「起こり」について高校生に指導するときは、タイミングのとらえ方といった観点で指導するようにしています。

 40代前半のとき、国士舘大学の恩師である矢野博志範士に「稽古していて相手にわざと隙をみせる。相手はここだと思って打ってくる。そこを打つのがおもしろいんだよ」とご指導いただきました。当時の私はその言葉を理解することができませんでしたが、今になってその言葉の深さが分かるようになってきました。相手と合気になって、攻め合う中で相手の思考を読み取り、その出ばなを打つ。起こりは自然的に発生するものではなく、自分から先をかけて攻めることによってその機会を生み出すわけです。矢野範士にその教えをいただいてから、元に立ったときには時折、この稽古を実践するようにしています。

 そしてもう一つ、矢野範士からの教えとして心に残っているのが、次のような言葉です。

「今打ったら当たると分かっていても、打ってはいけない技がある」

 これは、いわゆる〝当てる〟と〝打ち切る〟の違いということになろうかと思います。私は拓大紅陵高校に勤務する前の9年間、国士舘高校で指導にあたり、矢野範士にも週に2~3回ほど稽古をいただける機会に恵まれていました。矢野範士との稽古では、つねに100%を出しきらなければなりません。矢野範士の厳しい攻めに耐え、我慢し、ここと感じたら全身全霊を込めて打ち切った技を出していきます。もちろん、こちらの技はすべて返され、打てることはありませんでしたが、この繰り返しが地力を蓄えることにつながっていったことは言うまでもありません。

〝当てる〟と〝打ち切る〟の違いというのは、審査をイメージしてみると分かりやすいと思います。例えば当てるだけの打突は、試合においてはともすれば一本と認められるかもしれませんが、審査ではまったく評価されません。むしろ評価が下がることさえあります。これがいわゆる、矢野範士の言われる「打ってはいけない技」ということかと思います。審査で求められるのは、機会をとらえた打ち切った打突です。とくに出ばな技はその最たるものであり、出ばなを打ち切ることができれば、審査員の先生方の評価も必然と上がるはずです。



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