攻め

先を懸けて勝機をつくれ(岩下智久)

2024年4月29日

2024.4 KENDOJIDAI

写真=笹井タカマサ
構成=土屋智弘

先を懸ける上で必須となる「攻め」を分析すると、竹刀・足・身体の攻めに大別されると岩下教士は説く。先を懸ける気持ちが通用すると、相手よりも早く準備ができ、勝負の駆け引きを有利に運ぶことにもつながる。相手に通用する攻めを生み出し攻め勝つには?自身の試合体験や現在感じている心境を交えてお話しいただいた。

岩下智久 教士七段

いわした・ともひさ/昭和53年生まれ、熊本県出身。九州学院高校から法政大学に進み、卒業後、千葉県警察に奉職する。主な戦績として、全日本選手権大会3位、全日本選抜七段選手権大会2位、全日本都道府県対抗大会2位、国体優勝、全日本東西対抗出場などがある。現在は千葉県警剣道教師。剣道教士七段。

前提となるのは
竹刀・足・身体での攻め

 今回いただいたテーマは「先を懸けて勝機をつくる」というものですが、まずは「攻め」に関して私の日頃心掛けていることを述べたいと思います。

 私は攻めを「竹刀を使ったもの」、「足を使ったもの」、「身体を使ったもの」と大きく3つに分類しています。まずは竹刀を使ったものですが、それは剣先に現れるものです。剣先は相手の正中線から外さないということが基本ですが、その線上でも高さを目や喉元、水月の高さに変化させて、楕円を描くような感じで、相手の剣先を表や裏に攻めてみることです。その中で相手の変化をみて、誘いをかけるようなこともあります。

 続いて足を使った攻めですが、私が一番重きを置いているものと言っても過言ではありません。「一眼二足三胆四力」の言葉通り重要なもので、いつでも相手を攻め、さらに打突に出られる足さばきを理想としています。右足は氷の上を滑らすような感じで、軸となる左足はいつでもしっかりと蹴り出せる準備を心掛けています。その上で、小さく、中くらいで、そして時に大きく使う足を織り混ぜて相手を攻めていきます。前後以外にも左右、斜めに足をさばき、竹刀さばきと同じように円のような運用で、相手が中心にいるイメージで捉え、足を運用します。側面正対する場面もありますし、正面でも緩急をつけた足さばきで相手と対峙することもあります。そうすることで、相手に十分な攻めをさせず、打ち気を外すことにもつながります。私は格段に上背があるわけでも、剣のスピードが速いわけでもないので、それをカバーする意味でも、足さばきが重要なのです。

 こうした竹刀や足のさばきによる攻めがあった上で、最終的には気持ちも含めた「身体全体で攻める」というのができるのだと感じています。こちらが大きく攻めれば相手は警戒しますので、小さな動きで、相手を大きく動かすことを意識しています。自らの大きな動きは、自分が打突しやすいでしょうが、相手から打たれるリスクも高まります。

先を懸けることで
チャンスをものにする

 現役時代は足を重点的に使って相手を攻めることに徹していましたが、稽古量が減った現在、それに枝葉をつけて行くことを考えています。具体的には五感のすべてを使って、相手の癖や隙を見抜く洞察力を磨くことです。それらを感じ取りながら、竹刀と身体全体で攻めて行きます。現役時代は豊富な稽古量で、そうした攻めを知らず知らずのうちにやっていたのかも知れませんが、今はより細かく意識し、分析を行っています。「今日の攻めはどうだったか」、「一本打てたのはどうしてか」、PDCAサイクルという言葉がありますが、計画し実行、そして評価し改善しながら、稽古の質が高まるようにしています。このサイクルを通じて、より広い視点で「攻め」や「先」を考えられるようになっています。

 そして改めて「先を懸ける」ということを考察しますと、先に動くことだけが先を懸けた早い仕掛けではないと言うことです。仕掛ける気持ちが大切で、その中に身構え、気構え、間合のやり取りがあるのだと理解しています。その前提に立った上で、先を懸けるということは、相手よりも早く準備ができることにも、ちょっとした勝負の駆け引きを有利に運ぶことにもつながると理解しています。

 とくに実力が拮抗する相手との勝負では、どこかで相手にも自分にもチャンスが訪れます。そのチャンスをものにするためにも、先を懸けておかなければいけません。チャンスと感じているのだけど、打突に行けないというのは、先を懸けていないことになります。チャンスを感じた刹那に、間髪を入れず打突できることが、相手に勝る先を懸けていたという証左になるのだと思っています。

 また先を懸けることで、自分のペースで稽古や試合を運べます。逆に自分自身の中でバランスが崩れ、相手に攻められたと感じる局面もあるかも知れません、しかしそれを瞬時に修正できるのも先を懸ける気持ちを持続させてこそできるものです。先を懸けていると、早い足さばき、早いつくりで自らに有利な間合を生み出せます。それは、相手に十分な打突を出せさせないことにもつながり、劣勢を挽回できる可能性が出てきます。

 一方で先を懸けて、相手より早く打突をすれば有利な展開に持っていっている気がしてしまいますが、相手が崩れていない、手元が浮かないという場合は、いくらこちらが攻めて打っているつもりでも、攻め勝っていない、相手に使われている状態ともなります。その辺りの見極めと判断が、剣道の奥深いところで、肝となるところです。

先を懸ける気持ちが
プラスαを生み出す



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