剣道の技 攻め

三つの隙をとらえて打て(岩下智久)

2023年3月27日

2022.10 KENDOJIDAI

構成=寺岡智之
写真=笹井タカマサ

「私にはスピードも得意技もありません」と語る岩下智久教士が実践しているのが、相手を動かすための多彩な攻めだ。さまざまな攻め口で相手の反応を見極め、そこを突破口として攻め崩して隙をつくり出す。強豪が集う横浜七段戦でも存在感を発揮する岩下教士に、これまで歩んできた剣歴を振り返りながら「隙をとらえること」について語ってもらった―。

岩下智久教士七段

いわした・ともひさ/昭和53年生まれ、熊本県出身。九州学院高校から法政大学に進み、卒業後、千葉県警察に奉職する。主な戦績として、全日本選手権大会3位、全日本選抜七段選手権大会2位、全日本都道府県対抗大会2位、国体優勝などがある。現在は千葉県警察教養課において剣道教師を務める。

年代ごとに違った剣道を
吸収したことで幅が広がった

「隙をとらえる」ことは、一朝一夕に身につくものではないと考えています。小学生で剣道をはじめてから、それぞれの年代でさまざまな先生方にご指導いただき、自然と流れの中で隙を見出し、瞬間をとらえることができるようになっていきました。

 剣道の楽しさを学ばせていただいた小学生時代を経て、勝負の面白さを教えていただいたのは菊池南中学校時代だったと思います。本田清澄先生ご指導のもと、〝個性のある剣道〟を標榜し、多くの技とそれにともなう攻め方について学ぶことができました。「相手が右に回ってきたらお前はどう動くか」と、細かい攻め口や相手の癖を見抜く力、相手の動きに対応する能力を、本田先生との稽古で自然とやしなうことができたと感じています。

 高校では日本一を目指し、熊本県内で一、二を争う九州学院に進学しました。当時の九州学院は亀井徹範士が指導の中心におられ、ここでも多くの要素を学ばせていただきました。亀井先生は、中心をとること、手元を上げないことをつねづね言われていました。中心を割って打つことを目標に、3年間、みっちりと地を練る稽古ができたおかげで、攻めの強さや圧力が身についていったと思います。正しい剣道で勝つことの重要性を知ったのもこのころでした。中学時代に覚えた技と、高校時代に求めた王道の剣道がうまく融合して、私の中での個性ある剣道が確立していったように思います。

 法政大学では、三宅一志範士にご指導いただき、とくに足の重要性について考えるようになりました。三宅先生から「剣道は足が明るくなければ勝負はできないぞ」と教えられ、最初はおっしゃっている意味が理解できませんでしたが、稽古を重ねるにつれて徐々に分かるようになっていきました。上手の先生方は見えない攻めで稽古をされます。大学生の私が同じようなことをしていては稽古にならず、足を使って間合を盗み、勝負をするようになりました。三宅先生の教えは、足が使えるうちは動いて勝負をしなさいということだったのだろうと理解しています。私はスピードもなければ、これといった得意技があるわけでもありません。この「足を使う」ということが、私が選手として生きる一つの術であろうと感じ、今も足を大事にした剣道を志しています。

 今、過去を振り返って感じるのは、年代ごとに違った剣道を吸収しようとしたおかげで、つねに新鮮な気持ちで剣道と向き合えていたことです。もちろん気持ちの面だけでなく、剣道の幅も広がっていきました。

相手を動かして反応を見極める
攻め崩して隙をつくり出す



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