インタビュー

団体戦の戦い方(警視庁)

2023年7月24日

KENDOJIDAI 2023.7

構成=土屋智弘
撮影=西口邦彦

昨年の全国警察大会で8年ぶりの王座に返り咲いた警視庁。そのチームを牽引した原田悟監督に、団体戦の戦い方、チームの強化・結束というテーマで話を伺った。原田監督が現役の選手時代に経験したこと、そして監督職にある現在に思うこと、警視庁伝統の稽古を含めて語っていただく。

原田 悟教士七段

はらだ・さとる/昭和48年福島県生まれ。福島高校から筑波大学に進学した後、警視庁に奉職。東京都代表として全日本選手権に12回出場。優勝1回、2位2回、3位3回と輝かしい成績を収める。世界選手権大会出場、全国警察剣道大会優勝など。現在、警視庁剣道師範

和の心をチームに浸透
基本を繰り返して芯を鍛える

 原田悟監督が警視庁剣道特練の監督に就任したのは2021年6月のこと。現在、コーチとして松脇伸介教師、内村良一教師がサポートする。おりしも新型コロナウイルス感染症流行の渦中であり、試合はもとより稽古すらままならない状況を耐え忍んだ。そうした時を経て、昨年の全国警察大会優勝を果たした。「技術的なことはコーチ2人の指導が素晴らしいので、一任しております。私はチーム全体の雰囲気を良くし、士気を上げるのが務めと考えております。おかげさまで警視庁の特練には、各種の学生大会で活躍した選手が入ってきます。しかしだからといって、そのまま警察の大会で通用するかと言うと、そう簡単にはいきません。特に団体戦はチームワークが大切です」

 特練員の中には、当然若手からベテランまでがおり、各層に主軸になる選手が存在する。力のあるチームであることは、誰しも疑わないが、チームワークが上手くいかないと結果は残せないと原田監督は語る。

「警視庁の剣道は芯を鍛える稽古です。試合勘などは持っている選手たちなので、剣道のシンプルなところ、つまり基本を大切に、磨きをかけていきます。変わったことはせず、質を高めていく。その上で本番では、戦い方や剣道が雑にならないよう指導します。それに必要なのは、和の心をチームに浸透させることだと考えています。和を尊ぶよう日々意識させております」

 本年の年明けには、特練員を集めたミーティングを行い、皆で稽古や試合に向かう心構えを共有したという。その内容を伺う。

「まずは『謙虚さはすべての美徳の基礎』というものです。警察大会で頂点に立ち、連覇を目指すチームの一員として自覚ある態度やふるまいを求めます。次に『先手必勝の四箇条』を確認しました。それは『一、先見性を持つ』ということです。先の未来を見据えて、スケジュールやコンデションの管理をしっかり行うというものです。そして『二、手綱を引き締める』では、日々慢心することなく、事故防止やコロナ対策を積極的に心がけるということ。続いて『三、必死に取り組む』とは、生死を顧みず全力を注ぐこと。剣道で言えば『捨てきる覚悟』につながります。最後は『四、正しく勝負にこだわる』ということです。警視庁剣道特練員としての矜持になります」

 そしてチームづくりでは「和醸良酒」という熟語を掲げた。その意味するところは「和の心は良酒を醸し、良酒は和の心を醸す」ということ。

「つまり蔵人たちは、杜氏のもと心と力を合わせ、息をそろえ、ともに酒の産声に感覚を澄ましながら、ひと冬を蔵で過ごします。そして蔵人たちはともに心を合わせて醸すのです。まさに和の心です。杜氏とはすなわちキャプテン、蔵人は特練員に当てはめて考えてみます。銘酒が醸させることは、全国大会優勝を意味し、支えてくれた家族の喜びや指導室、助教会の喜び、警視庁職員の誇りへとつながります」

 これらの教えは原田監督が自身で考え出した訳ではないと謙遜して語る。警視庁剣道に伝統として、連綿と伝わっているものだと言葉をつなぐ。原田監督が選手時代やコーチ時代、指導陣より薫陶を受けたことが基軸となっている。

指導面でも受け継がれる警視庁剣道の良き伝統

 警視庁の選手時代、団体戦では先鋒から大将までを務めた原田監督。その当時を振り返り、やはり鮮明に覚えているのは、警視庁の看板を背負い、初めて出場したデビュー戦の警察大会だという。原田監督は筑波大学出身。今でこそ警視庁の特練に多くの人材を輩出する大学だが、筑波大学出身で警視庁剣道の特練に入った初めての人材であった。

「私が警視庁入りした当時の監督は太田忠徳先生でした。コーチが中田琇士先生、浅野修先生、佐藤勝信先生が務めていらっしゃいました。そして初戦の思い出ですが、決勝戦では緊張のあまり、試合前に視野が狭まるような経験をしました。後にも先にもそんな経験はしたことがありません」

 原田監督はのちに全日本選手権の覇者となる実力者。しかし、全国警察大会にはまったく違った緊張感があったという。「その時『悟、気迫だ』という浅野先生の声が聞こえました。それでハッと我に返るような感じがして、集中して戦うことができました」

 警察剣道の厳しさ、組織の大きさ、社会人としての責任の重さを感じていたと述懐する。

「筑波大学4年生のとき、地元福島で国体がありました。福島県の候補選手となり、強化の一環として、警視庁を含め各県の警察特練へ出稽古にお伺いする機会をいただきました。その時に感じたのは、剣道に対する真摯で緊張感のある向き合い方でした。とても良い勉強をさせていただき、今日につながっております」

 そして警視庁の特練員となると、やはりその使命は日本一、つまり全国警察大会での優勝が最大の目標となる。直近となる令和4年の全国警察剣道大会では、8年ぶりの優勝を飾った。

「近年は優勝から遠ざかっておりましたので、監督として何とか奪還したい想いで臨みました」。この大会でキャプテンであった畠中宏輔選手が特練を引退した。「キャプテンの畠中はリーダーシップがあり、稽古でも自分自身を追い込むタイプでした。チームを引っ張る存在として、どんなことがあっても彼を大将として試合を戦いました」

 現在特練員は23名。キャプテンを中心にまとまるのが強いチームをつくると原田監督は語る。

「私のコーチ時代は内村良一先生がキャプテンでした。チームがとてもよくまとまり、その時にも優勝ができました。監督は石井猛先生と恩田浩司先生が務められましたが、その監督のイメージが自分の中に焼き付いています。あれこれと技術的なことを言わず、チームの心持ちに心血を注いでいたように拝見していました。今の私も同じ気持ちで特練員たちに向き合うようにしています」

 前途のように、選手たちに手向けた言葉でも語られたことだが、警視庁では選手たちの稽古のみならず、指導陣たちの教え方、チームの心構えについても、良き伝統が受け継がれているのだ。

流れを崩さない団体戦の布陣



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