インタビュー

寺本将司:貫き通した〝信念〟 第4回全日本選抜剣道七段選手権大会優勝

2019年10月1日

※この記事は『剣道時代 2017年5月号』に掲載されたものです。

4度目の開催となった横浜七段戦を制したのは、〝やはり〟なのか〝ついに〟なのか、大阪府警の寺本将司選手だった。「七段はこうあるべき」という固定観念にとらわれすぎてしまった過去3大会。信念を貫き、殻を脱ぎ捨てた寺本選手は、当たり前のように強かった。現役時代、剣道界に一時代を築いた寺本選手の今を訊く―。

てらもと・しょうじ/昭和50年熊本県生まれ。白坪剣道愛育会で剣道をはじめ、花陵中、熊本工大高、国際武道大と進学する。学生時代は大きなタイトルに恵まれなかったが、大学卒業後に進んだ大阪府警で素質が開花。チームの中心選手として活躍し、世界大会の日本代表にも選出された。第55回全日本選手権大会で日本一までのぼりつめると、2009年にブラジルで開催された第14回世界選手権大会では、主将として個人団体優勝を成し遂げた。現在は大阪府警察剣道師範として、大阪府警察学校で剣道の指導にあたっている。剣道教士七段

とらわれていた固定観念からの脱却

わずかな違いなのだろう。しかし、戦った選手はもちろん、剣を交えることのなかった出場選手、審判、果ては最高峰の戦いを観るために集まった観衆に至るまで、今日の寺本将司は何かが違うと感じていたはずだ。

「あの日は、心境的に現役時代に近いところまで自分を高めることができていたのかなと思います。集中力を継続させるためにムダな労力を避け、試合間の時間の使い方にも気をつかいました」

少しピリついたような印象を受けたのも、そんな心境の変化が影響していたからかもしれない。過去3大会で、寺本選手の最高成績は第2回大会の3位入賞。1回大会と3回大会は予選リーグで涙をのんだ。日本を背負って戦った遠くブラジルでの世界選手権、現役最強をかけて髙鍋進選手と相まみえた全日本選手権での勇姿を知っている者からすると、少々物足りない結果と言えなくもない。

「初出場のときは、私のなかに〝七段の戦い方はこうあるべき〟という固定観念が強くありました。それが悪いとは思いませんが、カタチから入っていた分、本来の動きができていなかったのかなと思います」

全日本選手権や世界選手権を沸かせた実力者の集う七段戦。警察官を生業とする選手たちは、ほとんどが六段のうちに、いわゆる現役を退く。そうなると出る大会も限られ、我々も彼らを見る機会が減ってしまうのが現状だ。だからこそ、あの有名選手が七段になってどんな剣道を魅せてくれるのか、いやがおうにも選手に対する期待は膨らむ。寺本選手も、六段から七段にかけて勝負にこだわった剣道からの脱皮をはかるなかで、理想と現実のはざまで苦しんでいた。

「自分のやっていきたい道があって、そのために毎日稽古も積んでいるわけですが、実際に試合となると昔の感覚が顔を出してしまう。第2回大会では3位入賞をさせていただきましたが、1回目も2回目も、自分のなかでは心も身体もまとまりきれていない、歯がゆい気持ちがありました」

七段戦での試合ぶりを見た友人、知人たちからは、〝現役のときのような試合を見てみたい〟と口々に言われた。しかし、自分はもう現役ではない。新たな〝寺本将司〟をつくりあげていきたいという強い気持ちが、現役時代のような勝ちにこだわる剣道を遠ざけていた。

「昨年くらいからですかね、自分のなかでそういった考えが柔らかくなってきたのは。信念をもって稽古を続けてきた結果、自分がこれまでやってきた勝負のあり方と、目指すところとの融合地点が見えてきた気がしていました。だからこそ、第3回大会はどうしても勝ちたいと思っていました」

第3回大会の予選リーグは、米屋勇一選手、鈴木剛選手、そして佐藤充伸選手と同リーグとなった。米屋選手と引き分けたのちの第2試合、鈴木選手に対して先に一本を奪ったとき、寺本選手は自身の動きが現役時代に近づいていることを感じたという。しかし、そこから二本を取り返されて敗戦。佐藤選手には勝利したものの、リーグを抜けることはできなかった。悔しい敗戦となったが、ただ、これまでの2大会とは違う手応えを感じることのできた大会となった。

「勝ちたいと思ってもなかなか勝てないのが剣道だと思いますが、昨年の大会を終えて、より徹底的に自分を見つめ直すことをはじめました。それは、理想と現実の融合地点が明確になり、そこへたどり着くためにはどうしたらいいかが分かってきたからではないかと思います」

現在、寺本選手は大阪府警察学校で学生に剣道を指導する立場にいる。現役時代のような詰めた稽古はもちろんできない。時間を見つけては一人で道場に立ち、地道に稽古を積んできたという。

「鏡の前で素振りをしたり、仮想敵を相手に攻めのパターンを研究したりしました。自分を見つめ直すという意味では、竹刀の握り方、構え、すり足、発声、呼吸法など、基本と言われる部分をより意識して稽古してきたように思います。現役時代は、どうやったら身体をダイナミックにつかって相手を圧倒できるかとか、竹刀をより速く振るためにはどうしたらいいかなどを考えることが多かったのですが、着眼点がもっと具体的になってきたと思います」



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