足さばき

足さばき徹底特訓(井島 章)

2023年9月11日

2023.6 KENDOJIDAI
構成=土屋智弘
撮影=西口邦彦

足を動かすだけが剣道の足さばきではない。関連する腰や拳、視線の位置など構えとの調和が重要となる。その上で呼吸や心との連動を図るのが大切。国際武道大学の開学以来、多くの剣道家を育てた井島教士に解説いただいた。

井島 章教士八段

いじま・あきら/昭和32年秋田県生まれ。本荘高校から日本体育大学に進む。日本体育大学助手を経て、開学した国際武道大学に赴任。女子剣道部監督、男子剣道部監督を経て剣道部長を務め、今春退職。現在は国際武道大学剣道部師範、日本体育大学非常勤講師、日本武道館研修センター武道学園講師などを務める。全日本選抜八段優勝大会、全国教職員大会、全日本東西対抗出場など。

 剣道においては「一眼二足三胆四力」の言葉通り、足の運用には重きが置かれます。しかし足さばきと言いますと、足を動かすことばかりを考えがちですが、それ以外の身体部分とバランスよくつながっていきませんと、真の足さばきを体得したことにはなりません。

 基本となる四つの足さばき、つまり「歩み足、送り足、開き足、継ぎ足」をたえず反復して習得するのが大切です。その際、先ほど述べた足さばきに関連する腰の位置や備え、構えた時の左拳の状態や収まり、足をさばく際の目の位置などを考えて行います。腰については左腰を入れるというよりは、相手の体へ自分の体を合せていくイメージで正対させます。そして左手の拳をしっかりと中心へ収め、腰と一体に動かすことが大切です。目の位置は上下しないよう、構えを崩すことなくスムーズに足をさばくことを心掛けます。

 足のさばき全般に関して注意すべき点として、できるだけ足の指に力を入れないことです。足の裏側にある湧泉を中心にして、足をさばいていく意識で行うとスムーズに動かせます。湧泉とは土踏まずの前の方の中央にあって、足の指を曲げたときに最もへこむところです。右足については力の加減を微妙に調整し、「攻め足」という意識でさばくことが大切です。瞬時に打突の機会や相手の動きに対応できる、また相手との攻め合いにおいても「溜め」ということにもつながります。

 また左足は右足に常につながっている、常に引き付けるものとして考えます。基本は右足が先に出て、左足が追従するやり方ですが、人によっては右足が出る時に、左足も出るという意識で行う方もいるでしょう。とくに若い方を中心とした最近の剣道に顕著だと思います。最初は基本通りの「足さばき」を徹底して体に覚え込ませることです。次に相手を伴いながら互いに足をさばきます。その際に四つの「足さばき」が臨機応変にできているか確認します。いわゆる足さばきの応用編です。

 では具体的にどういう稽古法があるかと言いますと、国際武道大学では、稽古法の一つとして学生たちに「足さばき」、特に前後の送り足を主として行なっています。その際、指導者が太鼓を使い、太鼓の合図で、前後の切り替えを促します。決められた数を行なうのでなく、第三者にきっかけをつくってもらうことで、瞬間的に足をさばくことを目的とします。これまで示したキーポイントを崩さないように、反復することです。

 錬度によっても、色々な稽古法を工夫することが大切です。加齢とともに足は動きにくくなりますが、それをどうカバーするのかも剣道では重要な点になります。多くの方が、素早く行なうことを求めがちですが、速さを求めるよりも正確性を求めることにより合理的な動きや足さばきの習得につながるのです。これは足さばきに限ったことではありませんが、正確に行なうことで身体に覚え込ませませる、いわゆる量より質という考え方です。

 ここまでは自分自身に対しての足さばきについて述べました。一方で剣道は対人的競技であり、相手が出てきた時の足さばきも大切になります。それは前後だけではなく、応じ技の際に伴う斜め方向への足さばきや開き足も状況に応じて対応できることが必要となります。

 応じ技自体は結果的に後の先となりますが、あくまで気は先で、相手を読む力、動かす力を養っていかなければなりません。それらを養いつつ、自分自身の足さばきを一体化させることが重要なのです。相手を読む・動かす、予知するということは非常に高いレベルと考えますが、ここを求めることで、相手とのやり取りや技を使い分けにもつながり、剣道の奥深さを会得する機会になるのではないでしょうか。

 このような内容を、互格稽古や試合、そして昇段審査等を通じて発現できないと正確な足さばきが身についたとは言えません。あえていうならば、竹刀を数多く振る以上に足さばきを徹底して行なうことでより効果を得ることにつながるものと思います。

 近年の昇段審査では、女性や高壮年の活躍が目立ちます。機会を捉えて技を出しても、的確な足さばきが伴っていないと、手打ちのように見えてしまいます。また正確にさばくことができず、打突後に相手と接触して姿勢を崩してしまう受審者もいます。これらは正確な足さばきが身についていれば、不測の事態を回避できるはずです。

 高壮年剣士は、若い時のイメージを追い求め続けると無理な動きをしてしまい、怪我につながる危険性もあります。その年代に応じた足さばきや足の踏み込みを常に確認して、稽古に励むことが必要と考えます。

 巧みな足さばきは何も若手剣士ばかりではありません。むしろ歳代、歳代の範士の先生方にもお手本とすべきところがたくさんあります。まさに足さばきと技の冴えが峻逸で、私の剣道修行の指針とさせていただいております。

構えや下腹と連動させる足さばき



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