観戦記=吉成正大
撮影=西口邦彦
現在、世界大会日本代表候補のキャプテンをつとめる渡邊タイ選手(熊本)が9回目の出場にして初の頂点に立った。
決勝の相手は、一昨年優勝、昨年準優勝と3年連続で決勝進出を果たした妹尾舞香選手(福岡)。圧倒的とも言える存在感の若手剣士の前に、今年もベテラン選手が立ちふさがった。気付けば本大会で2度の3位、世界大会で2度の団体優勝のベテランとなった渡邊選手がついに日本一の座へ。
3位には大阪の上段横山万優選手が初入賞、近藤美洸選手(東京)が昨年に続いての入賞となった
【決勝戦】手元の上がりを切り裂いた引き小手
渡邊タイ(熊本)コー妹尾舞香(福岡)
試合開始と同時に、はじけるように立ち上がった両者。左展開しつつ前に出たのは渡邊選手。プレッシャーをかけて攻め入ると、妹尾選手の手元の上がりに小手を放つ。拳だったがいいところ。しかし妹尾選手のディフェンス力は半端ではない。自分がどのようにさばけば打たれないかを、完璧なまでに熟知している。そのオーラがここまでの勝ち上がりで、何人もの選手を苦しめてきた。分かれあった妹尾選手には何者にも屈しないといった強い決意と覚悟が見て取れた。
そのオーラを纏ったまま妹尾選手が間詰め。渡邊選手がすかさず間を潰す。全剣連の強化合宿で手の内がわかっているのだろう。静かな会場に竹刀が振れ合う音だけが響く。間合を読み渡邊選手が跳び込み面。素晴らしい出足だが、剣先がわずかに及ばない。次の合は妹尾選手。圧をかけ渡邊選手が入ってくるところに右面を狙う。剣先が走っている。3分を回ったところ、渡邊選手がススッと間を詰め、面をフェイントすると妹尾選手の手元の上がりに小手を打ってさがる。乾いた音が響くが、やや薄かったか。時間間際、互いに詰め合った近間、渡邊選手が腕をうまく畳んで小手。しっかり部位を捉えたように見えたが、旗は上がらず。いいところだ。ややあって笛の合図。
延長初太刀、交刃の間合から渡邊選手が裏払い面。妹尾選手は何事もなかったかのように表鎬でかわす。三合目、間詰りからの妹尾選手の引き面に渡邊選手が追って面。これも、平然と妹尾選手が表鎬でかわす。まったく危なげがない。鉄壁のディフェンスだ。
しかし、次の合にドラマが起こる。交刃の間合からスッスッと間を侵してくる妹尾選手。渡邊選手がいつの間にかラインを背負っている。互いによけの形で接近した次の瞬間、手元を降ろさんとした妹尾選手の小手を巧みに打って渡邊選手がサーッと引きさがる。赤旗三本。新女王誕生の瞬間だった。
優勝インタビュー
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