インタビュー 全日本剣道選手権大会

棗田龍介、初出場・初優勝

2024年1月22日

KENDOJIDAI 2024.1

解説=吉成正大
取材=栁田直子、寺岡智之、土屋智弘
撮影=西口邦彦、笹井タカマサ、杉能信介

 剣道日本一を決する本大会は、25歳と23歳の若武者が決勝で激突。天皇杯を獲得したのは、今春、日体大を卒業し、広島県警察に奉職したばかりの棗田龍介選手(広島)だった。第68回大会の覇者松﨑賢士郎選手(茨城)を延長で破り、日本一に輝いた。広島県代表の優勝は71年の歴史で初の快挙。3位には第69回大会の覇者星子啓太選手(東京)と第62回大会の覇者竹ノ内佑也選手(東京)が入賞した。

攻め続けて崩して捉える

決勝●棗田龍介(広島)コー松﨑賢士郎(茨城)

https://youtu.be/wdSilmaKFL4?si=ib4JBKP_nGK350Lr

 広島県代表が決勝に進出するのは昭和32年の第5回大会の松尾廉二選手以来。実に66年ぶりだった。棗田選手の父棗田英雄氏は現在広島県警察主任師範で、まだ棗田選手が生まれる前に全日本選手権の出場経験がある。一方の松﨑選手は第68回大会の覇者。この時は新型コロナがまん延していた時期で、11月3日ではなく、翌年の3月に長野県で開催された。そういった意味では、松﨑選手にとっても日本武道館の決勝の舞台は初ということになる。

 コロナ以前のようなアリーナ席こそ設けられていないが、2階席の上段まで観客で埋め尽くされた会場に、決勝戦の開始と両者の名前がアナウンスされると、若武者二人に惜しみない拍手が贈られる。主審の「はじめ」の宣告にスックと立ちあがる両者。互いに左展開して、まず若い棗田選手が一声。応えて松﨑選手が一声。棗田選手がパンと表から力強く張る。松﨑選手がさらに左展開しつつ重心低く間を作り、軽く払ってからスッと出る。これに棗田選手が鋭く反応。表から被せるように面を放つが、松﨑選手は事も無げにこれを竹刀で応ずる。世代は近いが公式戦での対戦はない二人。松﨑選手にしても棗田選手の情報がない。まずはどういう風に反応するか探りを入れた形だろう。次の合は棗田選手が出る。トンと足を踏み鳴らし小手を牽制すると、スッと諸手を前に出しさらに面に色を見せると小手に切り込む。松﨑選手はこの動きを冷静に見つつさがり、部位に触らせない。続いても棗田選手が先を仕掛けて間を詰めるも松﨑選手が崩れず打突にはつながらない。さらに、棗田選手が松﨑選手の入りに照準を合わせるように面、それを余してさばく松﨑選手を厳しく追い込んで面。部位は捉えられなかったが、剣先が走り厳しい打突だ。棗田選手の構えは独特だ。左拳の位置がやや低く、右手首を極端なまでに内側に絞り込んでいる。一見すると打ちにくそうで打てる技も限定される気がするが、ここまでの勝ち上がりでも面小手胴バランスよく出ており、出ても引いても打てるオールラウンダーだ。長年にわたって培ってきた棗田流の中段なのだろう。さらにここから棗田選手が諸手突きを見せる。松﨑選手は何事もなかったかのようにスッと間を切ってこれをかわす。棗田選手の間合を見切ることに時間を使っているように感じられた。

 3分30秒を回ったところ、トンと足を踏み鳴らして攻め出た棗田選手が、松﨑選手が表よけするところに右面。捨て切った技に会場が湧きかえる。次の合、試合場中央で持ち合う両者。表抑えから小手面と渡る棗田選手に松﨑選手が小手返し面。両者決め切るがどちらも部位は捉えていない。さらに、松﨑選手がツッと剣先を下げた刹那、棗田選手が面。鋭い打突が松﨑選手の左面を掠める。松﨑選手の剣先が下がったときに面に来ることを棗田選手は読んでいたのだろうか。次の合、松﨑選手が逆に棗田選手の面を誘い出すように鋭い小手。ややあって時間となる。

 勝負が決まるのは延長1分15秒。棗田選手が面に色を見せるようにして鋭く小手に切り込むと、松﨑選手にしては珍しく手元が大きく崩れる。小手を返して面を放つ松﨑選手だが、一瞬早く棗田選手の剣先が小手を捉えていた。審判の旗を確認した松﨑選手が小さく天を仰いだ。

棗田選手の優勝は広島県勢初、日本体育大学勢初、水戸葵陵高校勢初、そして本大会初出場初優勝の快挙だった

一瞬の隙を逃さず冷静に乗る

準決勝●松﨑賢士郎(茨城)㋱メー星子啓太(東京)



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