インタビュー

上山中学校の挑戦

2025年12月29日

2025.12 KENDOJIDAI
取材=栁田直子
*本記事に掲載された画像の無断転載・使用を固く禁じます。

2025年8月、宮崎県都城市で行なわれた全国中学校剣道大会・女子個人戦において富島花音選手が沖縄県勢初の優勝を成し遂げた。沖縄がこれまで経験した全国優勝は、昭和62年の海邦国体(少年・成年)のみ。個人戦では初めてとなる。戦後80年、節目の年の快挙。富島選手、我喜屋丈顧問と生徒たちが歩んできた、挑戦の記憶をたどる。

小中学校の長いスパンで子どもたちを育てる

 沖縄県那覇市久米。観光名所として有名な国際通りからほど近いところに、富島花音選手が通う上山(うえのやま)中学校がある。同校剣道部は、5年前より我喜屋丈顧問が赴任して以来みるみる実力をつけ、全国大会をめざす強豪へと変わった。

「私は学生時代、日本一になりたいという思いをもって剣道を続けてきました。教員免許を取得し、沖縄へ戻ってきてからは、今度は教え子たちと共に日本一をめざそうと、どの赴任先においてもそれを目標として来ました」と、顧問の我喜屋丈氏は語る。我喜屋氏が上山中に赴任した5年前、富島選手は同じ地域で活動する少年剣道・天妃剣道教室で本格的に剣道を始めようという時期だった。かねてより天妃の子どもたちは希望者を募って上山中の稽古に参加していたため、自然と富島選手も我喜屋氏からの指導も受けるようになった。

 上山中学校と天妃剣道教室がタッグを組み、長期スパンで小・中学生を一緒に育てるという環境。この環境こそ、富島選手が日本一になれた大きな要因の一つだ。新型コロナウイルス流行の影響があって、富島選手が剣道を始めたのは小学5年生からと遅めだった。しかし、5年間というスパンで我喜屋氏や天妃剣道教室の渡口真悟氏から指導を受け、みるみる成長。上山中副顧問である平安政喜氏、3人の外部コーチ(渡口氏、國分辰男氏、我喜屋世梨華氏)、協力者・山原正哉氏と豊富な指導陣もそろい、万全な体勢が整っていた。小学6年生では全国道場少年大会にも出場できた。

「初めて出会った時は剣道具をつけて間もないレベルでしたが、体も大きく、また、稽古を重ねる内にパワーやキレにも秀でたところを見せるようになりました。運動能力が高い子だったので、そこを生かせることができればと考えていました」(我喜屋氏)

「真面目で、目の前の課題にしっかり取り組むところがありました。剣道が好きという面も大きいと思います。ですから真面目に、進んで稽古をします。そのような土台があるので、どこかで覚醒するだろう、と」(渡口氏)

 天妃剣道教室の仲間たちと中学校でも同じ剣道部で活動できることも大きい。上山中学校剣道部は現在、3学年合わせて男子10名、女子8名が在籍している。今年の沖縄県大会では男子が団体2位、女子は2年連続優勝、個人戦も富島選手が準優勝した。

 天妃時代からの教え子が多いため、先生の指導の意図を部員全体が把握しやすい。初心者の生徒たちも、経験者たちの動きを見様見真似で覚えていくので飲み込みが速い。この流れが、部全体のレベルアップにもつながっている。稽古の質を高めることで限られた時間(下校時間)、環境(離島県)をカバーし、上達につなげている。実際、この数年でみるみるうちに成長し、「全国で戦う実力」がついてきた。

「目標は優勝、とはっきり伝えています。厳しいけれど決勝でも負けても1回戦負けでも同じ。そうした強い気持ちで臨むことが大切です。しかし、たとえ結果が出なかったとしても、剣道を行なう目的は『剣道を通じて何を得るか』にあります。『もしかしたら結果以上に大事なことを得るかもしれないよ』ということも、生徒たちに伝えています」(我喜屋氏)

 この言葉を受けて、生徒たちも必死に稽古に取り組む。先生の教えを実践しようと意識を高く持つ生徒が多くなると、雰囲気がぐっと良くなるという。

「男子はこの1年、準優勝が多いチームでした。しかし、『負けたことに負けない』子たちでした。気持ちを切り替えて次に生かそうとしていました。そういったひたむきさが、女子にも良い影響がありました。女子の県大会優勝、富島の個人優勝につながったのかもしれません。富島の優勝は、皆の力の結集でもありました」(我喜屋氏)

足を使う稽古で剣道力をつける

 上山中学校では平日4日間および土日の活動を基本とし(木曜日休み)、朝稽古(平日・朝7時から30分)、放課後の夕稽古(下校時間に合わせて実施。稽古時間は季節によって異なり、2時間から3時間で行なう)の1日2回行なっている。

 部員の中には中学生から始めた初心者も多い。その生徒たちも含めて部全体でレベルアップするために、意識改革を行ない、「自ら変わる努力ができる」ように導いていくという。具体的には、

◎基本的な生活習慣の確立
◎精神力の向上
◎保護者も子供と一緒に頑張る
◎準備(身体)の前の準備(心)を意識

といった点を徹底している。

また、「目標は優勝」を掲げているが、勝利至上主義になってはいけない。勝利だけを追い求めるのではなく、剣道を通じて何を学ぶかを考え、目標に向かう過程を大切にすることを伝えている。

 このような考え方を保護者も含めて共通理解をもち、生徒・教師・保護者が三位一体となって目標に向かって努力する。「保護者の方には、自由に部活動を見ていただくようにしています。私の意図や生徒たちの努力の過程を見ていただくことも大切なことだと思っています」(我喜屋氏)

 稽古内容は基本中心。とくに、中学生の時期は剣道の土台となる基本を学ばせることが重要だと考えている。

 そのため、全体的に足をさかんに動かすことを念頭にメニューが組み込まれている。

◎素振り
◎足さばき
◎追い込み
◎打ち込み稽古
◎地稽古
◎切り返し、掛かり稽古
◎跳躍素振り

取材日はおおよそこのようなメニューが組まれたが、当然時期によっては試合稽古が取り入れられるなど、若干の変更はある。ただ、「足をつかう」ことは年間を通して実施される。足をつかうことは初心者にとっても大変有益だ。

「試合は展開力が全てだと思っています。試合では取った後、取られた後、タイの状態、様々な状況が考えられます。気力体力を維持するためには足が一番大事だと思います。ですから、休憩時間以外は基本的につねに足を動かす稽古を取り入れ『足を使う、息を上げさせる稽古』をしています」(我喜屋氏)

 打ち込み稽古では、しっかり構えて気を据えて、気で崩し、打たれてもいいからしっかり中心を割って打つ稽古を心掛けるように伝えている。

「それが少し浸透し始めているのか、竹刀操作のテクニックに頼った攻め方ではなく、自分なりに攻め崩すかたちを作って打突する稽古を皆実践してくれています」(我喜屋氏)

 稽古以外では遠征にも力を入れている。年間を通して5月福岡、6月大分、12月兵庫、3月佐賀と、保護者の理解を得ながら実行し、力をつけてきた。この遠征によって県内でも1、2位を争う実力が身に付いたという。

常に工夫研究
努力を重ねた富島選手



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