岩立三郎:松風館奥伝 連載

岩立三郎 剣道レッスン:松風館奥伝9、生涯剣道

2020年6月8日

生涯剣道
剣道は山々雲
我以外皆師を胸に日々向上をめざすこと

プロフィール
岩立三郎(いわたて・さぶろう)/昭和14年千葉県生まれ。千葉県成田高校を卒業後、千葉県警察に奉職する。剣道特練員を退いた後は、関東管区警察学校教官、千葉県警察剣道師範などを歴任。昭和53年から剣道場「松風館」にて剣道指導をはじめ、現在も岩立範士の指導を請うべく、日本はもとより海外からも多数の剣士が集まっている。
現在、松風館道場館長、尚美学園大学剣道部師範、全日本剣道連盟審議員、全日本剣道道場連盟副会長、全日本高齢剣友会会長。剣道範士八段。

健康であること
過ぎたるは及ばざるがごとし

「剣道は高き山をば登ごと一山越せば前にまた山」と範士八段羽賀忠利先生はご著書『剣道の詩』に記され、剣道修行の道に終点はないことを教えています。

剣道は何歳からでも始められ、何歳になっても継続でき、何歳の人(相手)とでも稽古ができるものです。その魅力は多岐多様であり、それぞれの目的に合った課題を追求し、自己実現できる無限の広がりと深まりを持っています。それが剣道のもっともすばらしい特徴と思うのですが、竹刀を握り、道場に立たないことには剣道はできません。よって生涯にわたり剣道を続けるにはまず健康であることが大切です。

生涯剣道を実践するにはまず心身ともに健康であること

松風館には九十歳を超えた髙﨑慶男先生が稽古に来てくださります。いまも一時間近く元に立ち、門弟に稽古をつけてくださいますが、一拍子でストンと面を打つことができます。加齢とともに筋力は弱り、どうしても手足の動きが合わなくなりますが、それを難なくこなしてしまう先生の稽古姿は私の目標でもあります。

剣道は稽古をしなければはじまりませんが、稽古のやりすぎはいけません。医師であり、生前、ご指導をいただいた茨城の大袮一郎先生は高齢者になってからは「休み休み稽古をする。連続して稽古をしない。疲れているときに稽古をしても合理的ではない」とおっしゃっていました。

若い年代は身体が動きますので打つべきところで身体が動くようにひたすら打ち込み稽古をして身体で覚えることが大切です。

しかし、このような稽古は加齢とともにできなくなりますし、無理して行なおうとすると必ずケガをしてしまいます。

私が健康維持に実践してきたのが暴飲暴食を控えることとランニングです。暴飲暴食は説明するまでもありませんが、飲むことも食べることもほどほどにすることが大切ではないでしょうか。

またランニングは足腰の力をつくる土台づくりには必要不可欠です。走り過ぎるとケガにつながりますが、ランニングは一人でできる最適なトレーニングです。

目標を持つこと
今日できることに全力を尽くす

私は十五歳で剣道をはじめ、七十五歳になるまで大きな病気やケガもなく剣道を続けてくることができました。

「行く先は悟りか迷いか判らねど後ふりむかず剣の修業を」と元国際武道大学学長の岡憲次郎先生(範士八段)は修業のあり方をこのような道歌で表現されましたが、私も岡先生の道歌が心に大きく響き、指針のひとつにしています。

剣道はただ稽古をして汗を流しても満足感が得られるものですが、それでは剣道の魅力のわずか一部しか実感できません。目標を設定し、しかるべき指導者に教えを受けながら実力を伸ばしていくことに大きな魅力があると思います。



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