蒔田 実の剣道授業 連載

蒔田 実の剣道授業 :3時限目 仕かけ技を身につける

2020年12月7日

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2009.01 KENDOJIDAI

昭和59年、国際武道大学の開学と同時に助教授として赴任。現在、同校の副学長をつとめる蒔田実教士。剣道指導者を養成する専門大学の指導者として教壇に立ち、教え子は寺本将司選手(第55回全日本選手権大会優勝)、若生大輔選手(第56回全日本選手権大会準優勝)など平成の剣道界で活躍している。競技者としても世界選手権大会優勝、全剣連設立50周年記念八段選抜優勝大会で準優勝を果たすなど輝かしい実績を残す。その蒔田教師が指導体験、競技体験のすべてを伝える。

1時限目 剣道稽古の目的
2時限目 攻めと打突を連動させる
3時限目 仕かけ技を身につける
4時限目 応じ技を身につける
5時限目 素振りを実戦に直結させる
6時限目 昇段審査の心得

蒔田 実(まきた・みのる)

昭和23年大阪府生まれ、PL学園高から東海大に進み、卒業後、日本運送(現フットワークエクスプレス)に入社。昭和59年の国際武道大学開学と同時に同校の助教授となる。世界選手権大会個人優勝、全剣連設立50周年記念全日本選抜八段優勝大会2位、全日本選手権大会、全日本東西対抗、国体などに出場。現在、国際武道大学副学長、剣道部師範、剣道教士八段。

3時限目:仕かけ技を身につける
動こうとした兆しをとらえる

仕かけて打つためには攻めて相手を崩すことが大切です。剣道は「勝って打て」の教えがあるように、攻めが大切です。攻めがきいている状態で技を出さないと無駄打ちになるだけでなく、相手に隙を与えることにもなります。

剣道の試合の大半が仕かけ技で決まっていることからもわかるように、充実した気を土台に仕かけていく術を身につけなければ上達は望めません。わたしが仕かけていく際、もっとも注意していることは、前章でも解説したように攻めながら相手が崩れようとしているところを打ち切るということです。

「攻めながら」の「ながら」にあたる部分が「ため」であり、この「ため」で仕かけて打つのです。剣道の隙はすべて「打とうとするところ」「剣先が上がろうとするところ」など、現在進行形です。そのため、攻めから打突につなげる過程も現在進行形でなければならないと考えています。

喉元を攻めて打つ:打ち込む直前に中心を取る

喉元への攻めは、剣道の基本スタイルです。相手の反応によって「面・小手・胴・突き」のすべての技を出すことができます。どんなタイプの相手にも効果的な攻めです。喉元を攻めると相手は剣先が開く、思わず出てくるなどの反応を起こします。剣先が開けば面か突き、出てくれば出ばな面、小手などの打突機会が生じます。

喉元を攻める際は、相手の喉元に剣先をつけ、右足を出しながら打ち間に入ります。このとき、交刃の間合に入ったときは中心を取らないようにしておきます。最初から中心を取ってしまうと、相手が「打たれるかもしれない」と警戒し、間合を切るなど防御態勢をとってしまいます。これでは打突の機会をつくれません。

そのため、こちらの竹刀を相手の鎬にそってすり込ませるようにし、いざ打ち込もうとする直前に中心を取るようにしています。このようにすると、打ち間に入ったとき、相手に「打たれる」「危ない」といった恐怖感を瞬間的に与えることが可能になります。右足を出すときは、左腰で右足を押し出すようなイメージを持っています。むやみに右足を出してしまうと、必要以上に足幅が広がり、体勢が崩れてしまいますので、左腰を意識するのです。

喉元を攻めて面を打つ

人間は「開いたら閉める」ということが自然と身についている。開こうとするところを狙い、面を打ち込む

剣先が開いたところに面を打つ場合は、開こうとするときに打ち込むことが大切です。人間は「開いたら閉める」ということが自然と身についています。そのため、相手が剣先を開いた瞬間に打ち込んでも、打突部位をとらえようとしたときには剣先が閉じてしまっています。竹刀で受け止められることはもとより、応じ技で反撃される危険性もあります。

一方、出てくるところも、出ようとしたところを狙います。出てきてしまえば出ばなは打てません。やや剣先をゆるめ、相手が打ちたくなるように仕向けておき、技を引き出します。相手が間合を詰めてくるので、剣先を開いたところを打つ間合よりも近い間合で踏み込みます。小手の場合、とくに体勢が崩れやすくなるので、面を打つときと同じような気持ちでしっかりと打ち切ることが大切です。

喉元を攻めて小手を打つ

喉元を攻め、これに耐えられなくなった相手が手元を上げたところに小手を打つ。間合が近くなる分、近い間合で右足を踏み込む

へそを攻めて打つ:相手の右拳を突く感覚

攻め合いのなかで剣先を押し返す、下げるといった反応を示す相手にはへそを攻めるようにします。相手のへその延長線上にある鍔元に剣先をつけることで、相手にこちらの剣先を押し返したいと思わせるのです。相手の気持ちを鍔元に集中させます。へそを攻めるときは鋭く速い送り足で一気に打ち間に入るようにしています。

このようにすることで、相手がこちらの剣先を押し返すよりも速く打突部位をとらえることができます。このとき、注意しているのは踏み込む幅です。へそを攻めるときは送り足で一気に打ち間に入るため、相手との間合の遠近によって踏む幅が異なります。踏み込む幅を調整しないと打突部位に届かなかったり元打ちになったりしてしまいます。高足に注意しながら股関節で踏み込む幅を調整しています。

へそ攻めは、相手のタイプをよく見極めることが大切です。一気に打ち間に入るので、やり直しがききません。出ばな技を得意とする相手にはリスクが高い攻め方です。面を打つ場合はこちらの入りに対し、引いて防いでくるようなときです。相手は間合を切ってしのごうとしていますので、居ついた状態になります。充分に間合を詰めて打ち切ります。

諸手で突く場合は、捨て切って突ききることを意識しています。攻防のなかでの観察で自分が感じたこと(相手に剣先を下げたり、押さえたりする癖があること)を信頼し、出ばなを打たれたら「相手が一枚上だった」と覚悟し、間合に入っていくことが大切です。打突へスムースに移行するためには、左足をすばやく引きつけることが大切です。

右足を出した瞬間、左膝を押し出せば、引きつけがすばやくなり、その勢いをもって突くことができます。急いで届かせようとすると手打ちになり、体勢も崩れやすくなります。このような打ち方では一本になりませんので、腰始動で技を出すようにします。右足を出したら左足も送り、いつでも技が出せるようにしておくことが重要ですが、あせると右足のみの移動になってしまいますので要注意です。

へそを攻めて面を打つ

相手が引いて防ぐようなとき、へそを攻めて間合を詰め、そこから面に伸びる

へそを攻めて諸手で突く

へそを詰めて間合を詰め、左足を素早く引きつけて諸手で突く。右足を出した瞬間、左膝を押し出すようにすると、突きに威力が出る

眉間を攻めて打つ:膠着状態を打開する

間合が詰まった瞬間に剣先を上げたり、左拳を上げたりするような相手には眉間を攻めるようにしています。緊迫した攻防のなかで打ち間に入りながらサッと剣先を眉間につけ、相手の視界から剣先を消します。剣先をつけることを意識しすぎると両腕に力が入りすぎてしまうので、手首を柔らかく使いながら相手の物見をめがけてあげていくようにしています。面金の縦のラインに沿っていくようにします。

相手の剣先が上がれば面、手元が上がれば小手を打ちますが、わたしはそこからかついで小手を打つ場合が多いです。かつぎ技は多用する技ではありませんが、膠着状態を打開するときなどには効果的です。相手の懐には剣先を上げながらすり足で入っていきます。右足を滑らせながら「そこからは打ってこないだろう」という相手の気持ちに乗っていくようにし、そこからかついで小手を打ちます。

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