稽古方法 素振り 自宅稽古

本番を想定した素振りが上達をもたらす

2020年4月13日

2018.6 KENDOJIDAI

原田 悟(はらだ・さとる)教士七段
昭和48年福島県生まれ。福島高から筑波大に進み、卒業後警視庁に奉職。全日本選手権優勝2位2回3位3回、全国警察大会団体優勝3回、世界大会出場など。現在、警視庁剣道師範。

本番を想定した素振りが上達をもたらす

 なぜ素振りを行なうのかと言えば、ただ腕力をつけるのではなく、実戦につなげていくためであると思います。では、実戦につながる素振りとはどういうものかと言えば、打突の好機で的確に打突するための要素、例えば手の内や体さばきなどを養うものでしょう。

 現在、私は指導者の立場にあります。素振りをする量は特練員時代に比べて減りましたが、素振りの大切さをあらためて実感する経験をしました。昨年1年間、前警視庁剣道主席師範の佐藤勝信先生からご指名をいただき、武道専科という警視庁の術科指導者(助教)を育成するための剣道教養の指導者(武道専科担当教師)となりました。武道専科は、警察武道の目的を正しく理解させ、優秀な指導者を育成することを目的につくられたものです(機動隊の武道小隊に所属する隊員たちの中から、受験を経て武道専科生が選抜される。昨年度・第52期は6名が合格し、2名の聴講生である特練員とともに1年間剣道指導者になるための授業を受けた)。

 警視庁にはおよそ4万3千人の警察官がいます。被疑者の制圧逮捕に必要な逮捕術およびそれらの基礎となる柔剣道を修得させるために、指導者の卵である武道専科生たちは基本から徹底的に見直しをします。

 その稽古内容は、朝(切り返し)、午前(素振りなど基本訓練と指導稽古)、午後(拳銃、逮捕術、居合道、警杖などの訓練)と、基本を一から見直すものです。この毎日の稽古の中で、午前中40分ほどの時間を割き、素振りの時間に充てています。鏡の前で6人が並び、前進面、前進後退面、下段からの素振り、腰割りを100本ずつ行なうと、大体時間になります。

 専科生たちは学生時代から剣道を学び、奉職後は武道小隊でも剣道を続けていた熟練者たちです。夏場は彼らも汗を滝のように流しながら素振りをしました。大変に体力面で負荷がかかるものですが、彼らもやり切ってくれました。

 彼らを指導するにあたって、自分の稽古の経験、試合の経験を照らし合わせ、どこが指導のポイントになるのかを考えましたが、その際あらためて基本の大切さ、先生方がご指導してくださったことの大切さを感じました。

 学生時代までは自分なりに、素振りについて取り組んでいましたが、奉職後は警視庁の先生方から構え、体のさばき方、足の運び方、手の内、ありとあらゆる要素を一から教えていただいて素振りに対する認識が変わりました。振り方ひとつにしても、右手の位置は肩の高さ、左はみぞおちの位置、と、はっきりと言葉で指導をしてくださったので、「正しい基本」のイメージに向かって稽古をしている実感がありました。先生方が教えてくださったことを正しく実践し、体に染みつくまで反復訓練すれば、おのずと正しい剣道(自己流ではなく、警視庁の剣道)が身につくのではないかとも思っていました。

 それらの考えや体験談を、専科生たちにも教えたいと思い、話をしましたが、皆よく理解してくれました。体に正しい剣道・基礎的なことを染みつかせることが、稽古の目的である「打突の好機が訪れた時、的確に打突をする」につながると思います。今後もそのようにわが身を顧みながら、指導にたずさわりたいと考えています。

正しい構えを認識した上で素振りを行ない体得する

 まず、素振りを行なうにあたって大切なことは、正しい構えをとることだと考えています。構えが歪めば、素振りも歪み、正しい振り方が身に付きません。ただ、一口に「正しい構え」と言っても、受け取る側により素振りで大切なことを伝えやすくするため、「何を大事にしたら正しい構えに近づけるのか」ということを伝えるようにしています。

 堀田捨次郎先生(大日本武徳会剣道範士・警視庁筆頭師範など)が、中段の構えについて「姿勢正しく、身体攻防応変が自由で、少しの隙も無く、心広く体豊かなるを要する」という言葉を残されています。その教えを理想とし、念頭に置きながら構えをつくるようにし、指導においてもそのような言葉がけを心がけています。

 稽古をする中でも、状態の良さ・悪さについて「構えのおさまり」が影響しているのか、と感じる時があります。足構えや姿勢、重心の位置が影響しているのかもしれません。そのため、鏡の前で自分を見るというのもとても大切です。稽古前に自分の構えをチェックするように指導の際にはよく言っていました。

正しい打ちを身に付けるには、まず正しい構えを身に付けること。鏡で構えのチェックをすることが望ましい

素振り稽古で実戦に通用する体をつくる

 構えを正すことを踏まえた上で素振りを行ないます。専科生たちに指導をした際は、竹刀ではなく、木刀を用いました。素振り用の木刀ですので、竹刀よりも若干重くなります。これによって筋力を鍛え、体をつくるとともにしっかりとした手の内をつくります。

 ここで先ほどご紹介した4つの素振り(前進面、前進後退面、下段からの素振り、腰割り)について説明をします。

前進面

中段の構えから、「一」の号令に合わせてすり足で前進すると同時に「面」と発声しながら面の位置まで振り下ろす。振り下ろしたらまた左足からすり足で一歩下がると同時に中段の構えに戻る。

 手首の力で振るのではなく、肩甲骨周りの筋肉を意識し、大きく振り上げるように心がけています。振り上げた際、左小指の力を緩めると剣先が頭の位置よりも下がってしまいますので、それを戒めるようにしています。また、戻ったときの足幅にも注意しました。それはすぐ打てる足を意識するためで、打つ前と同じ態勢になることを大切にしました。



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