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一人でできる最強の家庭トレーニング

2020年7月20日
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2020.7 KENDOJIDAI

来たるべき稽古再開の日に備えて、家庭でもできるトレーニングを紹介する。スポーツバイオメカニクスの第一者で、長年、全日本の強化トレーニングコーチを務める高橋教授に、すぐに始められ無理なくできるメニューをお聞きした。狭いスペースでも簡単にできるトレーニングを継続して、稽古再開時の怪我を防止し、スムーズに動ける身体の維持に努めよう。

高橋 健太郎(たかはし・けんたろう)

関東学院大学教授。昭和47年群馬県生まれ。巣鴨高校から横浜国立大に進み、同大学大学院修士課程修了後に日本体育大学大学院博士課程修了、学術博士。平成18年より全日本剣道連盟強化訓練講習会トレーニングコーチを務める。群馬工業高専教員を経て、現在関東学院大学教授。同大学剣道部長。剣道教士七段。

現時点では、剣道の稽古も含め、対人を伴うトレーニングは避ける風潮となっていますので、今回は一人で行えるトレーニングについて解説します。持久力や体力維持では、ジョギングやウォーキングを行なった方が良いのですが、そうした環境がある方と、そうでない方がいらっしゃると思いますので、自宅の部屋でもできる簡単に始められるメニューをご紹介します。

稽古環境がままならない昨今、人は何もしないと、自然とラクな方へと身体が順応して行ってしまいます。太古の昔からDNAに組み込まれているように、一旦食事をしたら、その後なるべくカロリーを消費しないように、身体を休ませようという本能があります。

食べ物が潤沢でなかった時代のことを考えますと、飢餓などに備え、そうした仕組みがあるのは生命維持にとって必要なことであったのでしょう。しかし現代のように、食事環境が整い、三食を十分に食事ができている場合、身体を動かすなど何もしないでいると、カロリーオーバーとなりがちです。

さらに筋肉や心肺機能も落ちて行きます。意図的に負荷をかけるトレーニングが必要な所以です。

現在、全日本剣道連盟のホームページにも、健康維持のための散歩や適度な運動は、体内時計を動かすのに役立ち、免疫力のアップの観点からも推奨されています。私は長年、全日本剣道連盟強化訓練講習会トレーニングコーチを拝命しておりますが、稽古ができない今、ナショナルチームのメンバーには、SNSを通じて、トレーニングメニューを配信しております。

内容は、今回誌面でご紹介するメニューなどの6~7種と、腿上げなどを組み合わせた「サーキットトレーニング」を日々励行することです。「サーキット」は、数セットを繰り返しますが、筋トレと有酸素運動を組み合わせ、休憩なしに続けることで、短時間でも、持久力や筋力・瞬発力・フィジカルの強化にも役立ちます。

剣道を長く続けている方は、技を忘れないと言います。打つべき機会や間合は頭の中に刻まれているものです。しかし、「ここで行かないと」と感じても、実際に身体が動きませんと、技には繋がりません。そこで相手と竹刀を交えられない間は、筋力トレーニングが必要になります。

また、稽古に復帰した際に、息の上がるのが早くなったりするのは、心肺機能や持久力が落ちるためです。稽古の再開の際にすぐに対応できるようにするためには、正しく質の高いトレーニングを求め、準備しておくことが必要です。

今回は中高年でも無理なくできるトレーニングについて解説します。体幹・上肢・下肢・竹刀を使ったものと分類して紹介をします。私が日頃指導する学生たちには、稽古ができない今、とにかく竹刀を毎日握り、振る回数を多くするように伝えています。また筋力トレーニングに関しては、毎日10分でもいいので、隙間時間を見つけて、身体を動かす習慣をつけるよう指導しています。

三日坊主で終わらせないためにも、月曜は上肢の、火曜は体幹の部分をと、メニューを日々変えてもらっても構いません。

留意点ですが、いずれのトレーニングメニューは、ストレッチも兼ねているので、関節の可動域などを感じながら行うことが肝要です。稽古再開時に怪我を避ける意味でも、日々行うことが大切となります。その日の体調に合わせて、無理をせずに、隙間時間を活用することを心掛けてください。

サーキットトレーニングは100~120ほどの動きを1セットとし、連続して10セットほど行う。連盟の強化では、30回の腕立てや腹筋なども入れながら組んでいる。

今回初級者にもオススメする一例として、スクワット10回→腿上げ10回(手を肩の高さに上げ、左膝を右手に、右膝を左手に当たるまでに上げる)→ランジ10回→腿上げ10回→カーフレイズ10回→身体の正面に伸ばした腕を、床との水平を保ったまま後ろへ行けるところまで動かす運動10回→腿上げ10回→水平に開いた両腕を耳に接するまで上げ、元の位置にまで下ろす運動10回→腿上げ10回→バーピー10回。以上を1セットに連続して10セット行う。

体幹を鍛えるための運動7項目

1 : シットアップ

仰向けになり、膝を90度に曲げる。腹部に手を当て、自分の臍を見るように身体を起こす動作を20回繰り返す。それ以上身体を起こす必要もないが、手を当てることで腹筋にしっかり力が入っているかを確認し、そこに意識を集中する。

2 : シットアップ その2

足を上げた状態で、さらに上部まで足先を上げる動作を20回繰り返す。上げ幅は10cm でもよく、目安として目標物を定めて行う方法も良い。手は体の脇に置いて行っても良いが、上級者は腹部に置いて行う。

3 : 腹斜筋の運動

両足を上げた状態から右へ両膝を床面のギリギリまで倒し、再び中央に上げ、さらに左側へ同様に倒す動作を20回ほど繰り返す。腹斜筋を主に鍛える運動で、手は腹部に置き、しっかりと力が入っているかを確認する。上級者は膝を曲げずに行う。

4 : 交差運動

足を上げた状態で、左右の足を交互にリズムカルに交差させる動作を、20~50回繰り返す。腹筋や腹斜筋を鍛えるのに役立つ。

5 : 背筋運動

腹部の1点に中心を置き、身体を反るように、両足・両手を上げて停止状態(アイソメトリック)をつくる。この状態を30秒間維持する。背筋を中心とした背筋群を鍛えられる。

6 : 背筋運動 その2

5と同じように腹部の1点に中心を置きながら、右手・左足、左手・右手というように交互に上げて行き、動きをつける。手足を1回1回、床につけてもいいが、上級者は浮かせたまま行う。

7 : ダイアゴナル

四つん這いになった状態から、右手と左足を上げた状態を維持する。左手・右足と逆もやる。30秒間ずつ、それを3セット行うとよい。

上肢を鍛えるための運動4項目

1 : 腕まわりの運動

水平に開いた両腕を耳に接するまで上げ、元の位置にまで下ろす運動を30回ほど行う。速度としては、123で上げ、123で下す。ダンベルを使うイメージではあるが、写真のようにペットボトルでも代用できる。重さを変え、負荷を調整するとよい。

2 : 腕・胸の運動

身体の正面に伸ばした腕を、床との水平を保ったまま後ろへ行けるところまで動かす運動を30回ほど行う。高さはキープしたまま行うのがポイントとなる。僧帽筋、大胸筋、三角筋などを鍛える運動。

3 : 肩の運動

頭上まで上げた腕を肩と水平の位置まで下ろす運動を30回ほど繰り返す。ストレッチも兼ねているので、肩の可動域を十分に使うことがポイント。

4 : 上腕二頭筋の運動

手の平を上に向けた状態でダンベルなどを握り、肘を支点に腕を曲げ、上腕二頭筋を鍛える。動かすリズムとしては、123で上げ、123と同じスピードで下す。

下肢を鍛えるための運動4項目

1 : スクワット

両足を肩幅に開き、顔を起こしたまま、膝を90度くらい曲げて臀部を後方に下げる。その姿勢を10秒ほどキープし、姿勢を起こす。その動きを10回ほど行う。

2 : グッドモーニング

スクワットのように臀部を下げた状態から、上体を123で前に倒し、123で身体を起こす動作を10回ほど行う。胸を張り、下を向いたり、背中が丸まらないように注意する。

3 : カーフレイズ

直立した姿勢から踵の上下運動を30回ほど行う。

ふくらはぎを鍛える運動で、アキレス腱を損傷した場合のリハビリなどにも用いられる。

4 : マウンテンクライム

床に手をつき、腕立て伏せのような状態から足の入れ替えを30回行う。なるべく臀部を上下動させずに行うのがポイントで、摺り足の感覚で行うとよい。道場での雑巾掛けの動作に類似する。

竹刀を使った運動5項目+応用

1 : 手首の運動

中段に構えた状態から中心線の先へ目標を決め、それに向かい竹刀を回す運動。右回り、左回りと各50回行う。手首を柔らかく、小さく回すのがポイント。椅子に座って行っても良い。

2 : 手首の運動2

椅子などに座った状態から、竹刀が自分の肩付近を通るように左右に30~50回まわす。素振り同様最後は打突の瞬間のように手の内を締める。左手は中心から外さないように。

3 : 返しの運動

椅子などに座ったまま、2ほどは回さずに竹刀を上げて、手首を返して胴を打つ動作を繰り返す。相手の打突を受けて返す、返し胴のようなイメージを左右で、30~50回繰り返す。しっかりと手首が返っているか、手の内を意識して行う。

4 : 足さばき

中段の構えを執り、前後左右とすり足で足の運用を30~50回行う。竹刀がなくとも良い。足の引き付けを意識して行うのが大事。

5 : 腰を落とす運動(ランジ)

中段の構えを執り、竹刀を振らなくていいので、足を一歩進めるとともに腰を落とし、また元の位置に戻る動作を、左右の足で30回ほど繰り返す。上体が前かがみにならないこと、腰を落とした状態から、右足と左足でしっかりと押し返し元の位置に戻ることに留意。

6 : チューブを使った運動

足にチューブをかけ、横に3歩動き、3歩戻る。常に肩幅に開くことを留意し、肩幅の広さから肩幅の広さへと移行する。行って戻るを20回ほど繰り返す。チューブゴムの重さを意識しながら行うのが大切。

7 : チューブを使った運動 その2

両手・両足にチューブをセッテイングし、先ほどのスクワットと同じポジションになるよう腰を落とし、そして上げる動作を繰り返す。負荷を感じながら行うのがポイント。

指導・解説=高橋健太郎(関東学院大学教授)

構成=土屋智弘

撮影=西口邦彦

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