2020.7 KENDOJIDAI
自宅待機が続いている子供たちに、現場指導者は、さまざまな工夫を凝らしてメッセージを送り、剣道に対する意欲を維持している。
少年指導者座談会
稽古から遠ざかっても剣道から気持ちを離さない
新型コロナウイルス拡大の影響で、少年剣士の稽古も自粛が続いている。自宅学習が余儀なくされる中、剣道指導者たちはどのように子供たちの心をつなぎとめているのだろうか。
槌田和博
つちだ・かずひろ/昭和46年熊本県生まれ、49歳。7歳で熊本直心会(坂本誠也先生)に入門。高校は熊本県立阿蘇高等学校(現・阿蘇中央高校)で、泉勝寿先生の元、剣泉寮で3年間の合宿生活を経て、現在の株式会社三千和商工に入社し、来年で入社30年目を迎える。会社では実業団として剣道を継続し、関東実業団大会3位、地元では戸塚道場の少年指導をし、全国道場連盟大会3位(中学生)などに導く。剣道五段。
萩原純二郎
はぎはら・じゅんじろう/昭和47年佐賀県生まれ、48歳。昭和54年佐賀清流館に入門(小松八郎先生)、昭和60年佐賀大和中入学(吉木知也先生)、昭和63年佐賀北高校(白水敏光先生)、平成3年横浜刑務所刑務官拝命、平成15年30歳の時から斉信館剣友会の指導を開始する。全日本少年少女武道(剣道)大会優秀賞1回、優良賞2回。剣道錬士七段。
赤木憲人
あかぎ・のりひと/昭和60年神奈川県生まれ、34歳。5歳で片倉北辰館西木道場に入門(故西木忠司先生)、横浜市立六角橋中学校(小椋歩先生)、横浜商科大学高校(川村敏巨先生、漆原潔先生)、東海大学体育学部武道学科(網代忠宏先生、吉村哲夫先生)、大学卒業後、西木道場で少年指導を始める。神奈川県剣道道場連盟剣道大会優勝など。現在、横浜市立岡村小学校勤務、剣道錬士六段。
全世界で稽古自粛
道場は戻る場所を実感
―本日はお忙しいなかお集まりいただきありがとうございました。緊急事態宣言が出されて以降、子どもは、剣道の稽古はもちろん、学校にも通学できない状況が続いています。先生方が稽古中止を決断されたのは何時頃でしょうか。
槌田 2月29日が最後の稽古でした。安倍首相が2月28日の夕方、3月2日から休校要請を出しました。稽古場所は学校施設をお借りしているので、理事長と相談の上、道場としての活動を中止することに決めました。
萩原 学校施設での稽古は2月28日から休みにしました。ただ、斉信館の場合、我々指導者の勤務地である横浜刑務所の道場も借りていますので、3月は3回ほど稽古をして、6年生を送る会も簡易ではありましたが、実施できました。
赤木 西木道場は私設道場なので3月は周囲の様子を見ながら週1回の稽古としていました。4月になり、緊急事態宣言発令後は中止にしています。
―道場によっては約2ヶ月、子どもと顔を合わせていない状態が続いていますが、連絡を取ることもあるのでしょうか。
槌田 子どもたちとは、強制ではないですが、規則正しい生活を推進するために計画表を作成するようにしました。保護者経由で現状を確認するとおおむね守ってくれているようです。
時間とともに、緩みが出てきたようなので、保護者にフォローをお願いしましたが、想定以上に計画表通りに動いてくれています。子どもがタイヤ打ちをしている姿を保護者がSNSにアップしたものについては、こちらから確認もできます。
素振りのやり方については、あらかじめ私が3パターンの素振りを動画撮影し、戸塚道場のコミュニケーションアプリにあげ、稽古方法を伝えています。それをテレビ電話につなぎ、子どもの素振りをチェックするということをルーチンにしています。
萩原 うちは一切そのような指導はしていません。このような状況下なので、健康に留意しつつ、身体を大きくするということを優先に、しっかりと身体のケアをするように伝えています。自分が子どもの頃、出身道場の稽古はとても厳しいものでした。たまに稽古が休みになると最初は嬉しいですが、そのうち身体がうずうずしてきて自ら動きたくなるので、そういうことを期待して、こちらからは特に何も指示していません。
―保護者とも連絡なしですか。
萩原 ずっと稽古ができていないので、4月に入ってから保護者に様子伺いの観点で連絡をし、子どもの様子や子どもの取り組みについて伺いました。子どもからのリクエストで打ち込み台を作った保護者が2組いました。
―自作できるのですか。
萩原 通販などでタイヤを手に入れ、工夫して組み立てたそうです。いまはホームセンターで工具の貸し出しもあるので、安価な材料費のみで作成可能らしいです。こんな状況なので、保護者は、かつて子どもが稽古や試合で頑張っていた姿に思いをはせ、 「応援したい」という気持ちになるようです。その表れが、打ち込み台作成などにつながっているようです。親子の絆は深まっていると思います。
槌田 あえて萩原先生が発信しないことで、保護者は色々と思索したのでしょう。うちの道場も、親子の絆が密になったと感じています。
―赤木先生の道場は3月まで稽古を続けていましたが、配慮したことを教えてください。
赤木 参加者を小人数にして時間を分けました。いつもは小学生の部、中学生以上の部と二部構成だったのを、小学校低学年、小学校高学年、中学生、高校生以上と四つに分けました。ほとんどの高校生、大学生が稽古をする場所がなく、出身道場に大勢が戻ってきてくれました。休校要請が出された翌週が一番参加者が多かったです。道場の換気に苦労しました。
―道場の素晴らしいところですね。高校、大学、一般と成長しても、剣道の原点、帰る場所があることは尊いことです。
赤木 今までは子どもたちと試合に勝つため、強くすることを中心に指導していました。しかし、今回の騒動で高校生、大学生が道場に戻ってきて稽古をしている姿を見て、こういう場所を残すことの重要性を再確認しました。
―赤木先生も西木道場のご出身ですね。指導をするにあたり、 〝戻る場所〟という意識はありましたか。
赤木 お恥ずかしい話ですが、そのような意識はあまりありませんでした。道場の子どもたちの役に立ちたいという気持ちだけで指導に携わるようになりました。せっかく剣道を続けてくれている後輩たちが少しでも剣道が好きになり、強くなってほしいという気持ちでした。そこから稽古を見るようになり、練成会なども企画するようになりました。今回、みなが道場に戻って稽古してる姿を見て、道場の存在意義を再認識しています。
槌田 規則正しい生活を推進するために計画表を作成するようにしました
萩原 子どものリクエストで打ち込み台を作った保護者が2組いました
赤木 高校生、大学生が戻ってきて、こういう場所の重要性を再確認しました
稽古から離れる剣道から更に離れる危機
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