2023.3 KENDOJIDAI
撮影=笹井タカマサ
安藤翔
世界大会団体個人優勝など、出場選手の中でもダントツの成績を持つ、押しも押されもせぬ名選手。「いつ賜杯を獲るか」と常に期待されていた安藤翔選手だが、ついに昨年は全日本選手権出場10回目となった。
昨シーズンは北海道警を退職し、母校国士舘大学の教員となるなど環境の変化があったが、昨年の全日本は安藤選手にとって気持ちを充実させて臨めた大会になったという。
「著しく環境が変わった中で、気持ちにも変化があり、初心に返って剣道に向き合えたことがよかったのかもしれません」
一流選手が鎬を削る警察剣道の世界から、指導者の世界へ。学生と日々稽古を行い、基本稽古に取り組む中で自分の剣道を見つめ直すことができた。
「これまでとは違ったかたちで自分の剣道を見つめ直すことができたことは、大きな収穫だったと思います。だからこそ、自信をもって試合に臨むことができました」
気持ちの充実が、安藤選手にこれ以上ない力を与えたのだろうか。
「今までの全日本選手権では、なかなか1回戦から充実して戦うことができませんでした。緒戦敗退の経験も4回あります。それが、今回は声もよく出ているのがわかりましたし、また、観客の皆さんの応援(拍手)もすごく力になりました。まるで鼓舞していただいているような…」
「今まで出た全日本の中で一番出来がよかったのでは」と、後から言われるほどだったという。「私はこれまで、1日の試合の中で何か調子が崩れた時、引きずってしまって切り替えていくことをとても難しく感じていました。そのために緒戦を大事にしていたのですが、今までにないほど思い切ってできました」
緒戦から圧巻の二本勝ち。その日の剣道に手ごたえを感じたという安藤選手。その後もすべて時間内で決着させ、初めて決勝の舞台へ。対戦相手は、全剣連強化訓練講習会でも顔を合わせている村上哲彦選手(愛媛県警)だった。
「今振り返ると、準決勝までの勢いそのままに決勝に入ってしまったのがよくなかったのかもしれません。もう少しじっくり、大事に攻めていけばよかったと思います」
最初に出した小手に手ごたえがあった。「行ける」と思って間合に入り過ぎたのが仇となった。試合開始から1分20秒が過ぎた場面で面を打たれた。
「(一本目の面を打たれた時)、動揺していたのでしょう、実際には序盤で一本を取られたのに、体内時計では『あと1分くらいしかない』と感じていたほどでした。これまでしっかり下腹に気持ちをおろして戦っていたのが、肩で呼吸をしてしまっていました。悪い時の自分が出たかな……」
まさかの敗戦。あと一歩まで迫った天皇杯だったが……。
「二本目を取られて試合が終わった時、『もう全日本選手権を優勝することはできないのか、ここまで縁がないものか』と感じました。正直、立ち直れたのもここ最近で、それまでは気持ちが後ろ向きだったと思います」
これまで10回挑戦してきた全日本選手権で、初めて得た「気持ちの充実」という手ごたえと、「勝てなかった悔しさ」。2つの思いが交差している。
「今回学んだことは沢山あるのですが、自分の可能性はどうなのか……。優勝ができたら感じられたのでしょうが、まだまだ先のことはわかりませんが、やるしかないですね」
教員になって得た手ごたえ
求める気持ちが生まれた
昨年の全日本選手権で得た「手ごたえ」は、トップをめざす警察剣道を辞し、指導者という道を選んだ中で稽古してきたことが影響しているという。
「とくに、しっかり準備ができたから自信をもって試合ができたことが印象に残っています。警察官時代は試合を念頭においた調整方法を行なっていました。しかし、学生との稽古の中でも十分に準備を行なうことはできましたし、とくに基本打ちや追い込み稽古を行なうことで体が動ける感覚というのもありました」
また、学生との稽古を行なう中で得た「気づき」もあった。
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