出ばな

出ばな技を習得せよ(林田匡平)

2025年2月24日

2024.12 KENDOJIDAI

構成=寺岡智之
撮影=西口邦彦

全日本選手権2位、日本代表経験もある教職員の雄・林田匡平選手。近年は “脱力”をテーマに稽古に取り組み、誰もが驚く面技で各種大会を賑わせてきた。「脱力と肩を使うことを意識した結果、出ばなをとらえる機会も増えてきたように思います」。そう語る林田選手に、自身の経験から感じる出ばなのポイントについて語ってもらった―。

林田匡平六段

はやしだ・きょうへい/平成6年生まれ、長崎県出身。島原高校から筑波大学へ進学し、卒業後は福井県で高校教員の職に就く。教職員剣士のトップランナーとして、これまで全日本選手権大会2位、全国教職員大会個人優勝など活躍。現在は丸岡高校の教員として、選手と指導者の道を両立しながら自身の剣を磨いている

コロナ禍を契機に剣道を見直し
脱力をテーマに稽古に取り組んだ

 私は現在、福井県立丸岡高校の教員として子どもたちの指導に携わりながら、競技者としても日本一を目指して稽古に励む生活を送っています。今回のテーマである「出ばな」は私が求める剣道と切っても切り離せないものであり、現在も試行錯誤を重ねているところです。私は感覚的に剣道をするところがあるので言葉でうまく表現できるか分かりませんが、これまでの培ってきた競技者と指導者の経験から感じる出ばなの重要性やポイントについて、お話しさせていただければと思います。

 私は島原高校や筑波大学で剣道を学んできましたが、学生当時は育ちが九州であることから、勝負にこだわった剣道をしていました。今も競技者として日本一を目指しているので勝負へのこだわりを捨てたわけではありませんが、近年はそれまでの剣風をガラリと変えて大会に臨んでいます。そのきっかけはコロナ禍でした。

コロナ禍直前の2018年、私は日本代表として世界大会に出場する機会に恵まれましたが、実際は現地で試合場に立つことはありませんでした。自分の剣道に限界を感じている時期でもあり、なにかを変えていかなければ上には行けない、そんな葛藤を抱えているときにコロナ禍が訪れました。私は剣道ができないこの期間を良いタイミングととらえ、自分の剣道を見直すことに決めました。構えや竹刀の遣い方︑打突のタイミングなどすべてです。そのときに気づいたのが〝脱力〟の重要性でした。

 変更した点で顕著なのが右手の握りです。それまでの私は親指と人差し指で竹刀をしっかりと握り、竹刀操作をしていました。この方が相手の動きに応じてさまざまな変化ができると思っていたからです。しかし、よくよく自分の剣道を顧みると、この握りは〝うまく当てる〟ことに主眼が置かれ、本当に力のある選手には通用しないということに気づかされました。代表合宿に参加していたこともあり、強豪と言われる選手の握りを参考にして自分で考えていった結果、「竹刀は握らない方がいい」という結論に達しました。この考え方が私の剣道を大きく変えたと思います。

 現在は両手ともに柄を包む程度で、引っ張られればスポッと抜けてしまうぐらいの力で竹刀を握るようにしています。相手に合わせて打つことは難しくなりましたが、その分、面技への比重が高まり、これまでとはまったく違う手応えで面が打てるようになったと感じています。それ以外にも、脱力をしたことで相手が打突してきた際の防御対応も容易になったほか、力みが取れて試合で疲れることも少なくなりました。マイナス面よりもプラス面の方が多く、この剣道を磨いていった結果、全日本選手権で決勝まで勝ち上がることができました。この大会で取った技のほとんどは面であったと記憶しています。

肩を使って切る打突を意識すること
いつでも打ち出せる準備を怠らないこと

 剣道が面技主体になったことで、自然と相手の出ばなをとらえることに対する意識も高まっていったように思います。出ばなの機会を見出すには先をかけることが大切だと言われますが、先をかけた攻めを実践するには、まず構えが大切だと考えています。むしろ、充実した構えが執れていればいつでも打ち出せるわけですから、自然と先がかかった状態になるとも言えます。脱力を意識して構えると、相手の動作や心の動きがよく見えてきます。これは出ばなの機会を得るとても重要なポイントでしょう。

 打突動作においては、肩を使うことを意識しています。これも脱力とつながりますが、握りに力が入っていると、どうしても手首を使った当てる打ちになってしまいがちです。力を抜くことで肩が自然と使えるようになり、いわゆる相手を〝切る〟ような冴えのある面打ちが実践できると考えています。

 出ばなを打つには相手の心を動かし、相手を誘い出すことが必須になります。私は表裏の面を中心に攻め合いを行ない圧力をかけていきますが、それだけでは出ばなの機会はなかなか訪れません。ときには自ら退いたり、あるいは右足の攻めを使って打ち気を見せるなどして、相手の心を崩すことを意識しています。このとき左足は動かさず、相手が出てくると感じたときにはすぐさま打ち出せる準備をしておくことも大切です。

 私は面技が打てなければ、どんな選手でも最後は壁にぶつかってしまうと感じています。丸岡高校の部員たちにも面技を主体とした剣道を指導していますが、それも長く剣道を続けてもらうための大事な要素であると考えているからです。さらに言うなら、出ばな技を修練することは段位審査にもつながっていくと思いますので、とくに社会人の方々は目先の勝敗にとらわれず、日々の稽古で出ばなを打つことを意識してみるとよいでしょう。出ばなは感覚的な要素が強く、約束稽古を重ねるだけではなかなか上達することができません。とくに地稽古において、相手と竹刀を通じたやりとりをする中でその感覚を身につけるのがよいと思います。

構え
右手の力を抜いて脱力して構える

 構えは出ばなをとらえるためにとても大事な要素であると私は考えます。その理由は、充実した構えが執れていると、打突の好機を逃さず瞬時に打ち出すことができますし、さらに攻め合いにおいては自然と圧をかけることができるからです。

 私は近年、脱力をテーマに稽古を重ねてきましたが、一番意識したのは右手の握りです。右手に力が入ると打突に出る際にどうしても竹刀が立ってしまい、相手に起こりを悟られてしまいます。出ばなの機会はわずかですから、これでは瞬時に相手をとらえることができません。右手の力を抜いたことによって、余計な動作なくまっすぐ面を打ち抜くことができるようになりました。さらに、打突自体も強く冴えのあるものになり、一本になる確率も上がったと感じています。

 下半身については、左足の母指球に体重を乗せ、左腰を意識して構えています。

瞬時に打突動作に移るためにはつねに左足の準備ができていなければなりません。そのためにも、構えて攻め合う際には止まることなく、つねに動きながらも打ち出せる足をつくることを意識しています。

脱力して構えることで面に冴えがでるようになったと林田選手は言う。力みがとれたことで防御対応も容易になり、試合で疲れることも少なくなった

脱力の根幹となっているのが右手の握り。ほとんど指には力を入れず、柄を包むようなイメージで握っている。この握りによって上半身の力みがなくなり、構えが充実するようになった

打突動作
肩を使って切る打突を実践する

 出ばなをとらえるために、私がもう一つ意識しているのが打突動作です。瞬時に相手をとらえる出ばな技は、どうしても打突が軽くなる傾向にあります。そこを補い、さらに理にかなった竹刀操作を実践するためにも、私が意識しているのが肩を使うことです。

 前述した脱力へのこだわりは、そのまま肩を使うことへとつながります。上半身が力んでいると手先だけで当てるような打突になってしまいがちです。肩を使うことによって体全体の力が打突に集約されて、相手を〝打つ〟のではなく〝切る〟ような打突が実践できると考えています。

 肩を使った打突で意識したいのは左手の位置です。左手をあまり動かさず、突きと同じような感覚で手元を前に出していき、最後に剣先を落としていきます。力んで左手の位置がぶれてしまうと、脱力しているときより動作自体が遅くなり、出ばなの機会をとらえることができません。

 以上のようなことを意識しながら、私は表の面と裏の面を中心に攻め合いを行ない、相手に圧力をかけて隙をつくり出しています。

打突に移る際には肩を使うことを意識している。脱力して構えることで自然と肩を使 った打突動作になる

表からの面



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