剣道の技 手の内

「力が入る」を克服する(井島 章)

2023年6月26日

2022.9 KENDOJIDAI

上虚下実とは誰しも説くところだが、それを意識しただけで、力が抜けるわけではない。大技から小技へ、段階と錬度を経たのちに力は自然と抜けていくもの。力を入れる、抜くといった総合的なバランスが必要だと井島教士は指南する。力を抜くための稽古方法を解説いただいた。

井島 章教士八段

いじま・あきら/昭和32年秋田県生まれ。本荘高校から日本体育大学に進む。日本体育大学助手を経て、国際武道大学に赴任。女子剣道部監督、男子剣道部監督を経て、現在、同大学教授、剣道部長。全日本選抜八段優勝大会、全国教職員大会、全日本東西対抗出場など。

「力が入る」を克服するというテーマですが、まずは力が入ってしまう状態を考えます。一般的に自分が相手を攻めようとする時、打とうとする時に力が入ってしまいがちです。余分な力が入るということは、相手にこちらの起こりや意図を教えることになってしまいます。その結果、出ばなを打たれるなど隙を与えることにつながります。相手に攻めや技の発現を悟られないようにするには、できるだけ力が入るところを察知させないことです。構えや攻めの中で力を抜くのが大切になる所以です。

 力を入れないためには、正しい姿勢、構え、身体の運用はもちろん、呼吸との関連性が非常に重要です。臍下丹田による呼吸で、下腹に気を溜めるおさめることができれば、力まないで攻めることができると考えます。逆に気が丹田におさまらず、呼吸が胸式となり、上の方に上がってしまうことで上体の力みにつながり、そして相手に隙を与えることにもなります。錬度が低い時は、ハッとしたところを相手に打突されることがよくあると思います。それはまさに呼吸が上がった状態になり、力みや居つきで相手の動きに対処できないことによって打たれてしまうのです。

 また、理想的な呼吸をするためには、左の拳・左の膕・左の踵などが正しくおさまっていないといけません。身体の軸がしっかりとしていないと、姿勢が崩れて、呼吸の乱れにつながります。したがって、自然体による正しい構えや姿勢が剣道の根幹を成すものであるということになります。また、一方で意識し過ぎると、自分の構えに自分が構えられてしまうような状態になってしまい、元も子もありません。上手な人はその加減を常にコントロールをしているのです。どのような時でも技が出せ、同時に相手をさばくことができる状態が理想的と考えます。

 具体的には構えの点検から始めます。先ほども述べたように、左側の手の拳や腰・膝・膕・踵を意識します。

 左手の拳はしっかり中心へおさめ、腰と一体になりながら動かすことが肝要です。

 左腰は腰を入れるというよりは、相手の体へ、自分の体を合せていくイメージで正対させます。左拳と協働しないと、半身のような構えになってしまいます。とくに胴を打つ場合などに意識すると理解し易いでしょう。手で打つのではなく、腰で打てと指導されますが、左の腰を入れることによって物打に力が伝わっていきます。

 続いて左膝ですが、これも相手に向けることが重要です。膝の方向が外れてしまうと構えも崩れてしまい、相手に向かう力も十分に伝わっていきません。左の膕は張らず緩めず、力を溜めるよう意識します。よく「力を入れろ」と指導する方もいるかも知れませんが、伸ばし過ぎると足が突っ張ってしまい上手く動くことができません。

 さらに左の踵は、呼吸にもつながる重要な部位です。先ほどは呼吸を丹田におさめると述べましたが、さらに踵まで下すようなイメージを意識することで、力の抜けた安定した構えになるのです。

 また着装においても、袴の紐や垂の紐の結び目を下腹にしっかりと結ぶことが大切です。下腹の力と結び目が一体となっていれば、着装が乱れることもありません。

正しい構えと正しい呼吸が合致して力の抜けた自然体の構えや攻防が可能となる

竹刀を大きく振り力のバランスを見極める

 無駄な力みを取る打突方法について考察します。剣道の技術体系でみていくと、大技を徹底してやることが、重要だと思っています。大技の段階では力加減などはさほど調整することなく、基本に則り、大きく、速く強く打つということを主眼とします。要するに、あまり細かいことを考えず、まずは力一杯に竹刀を振ってみることです。次に、身体の各部分をできるだけ大きく動かし、徐々に力の強弱や力を入れるべきところと、抜くべきところを覚えていきます。

 普段稽古等で使われている小技の段階から始めるのではなく、大きな技を使って調整していく。それをやっていかないと小さな技に進むことができません。このことを理解されているようで理解されていない方が多いようにも感じます。とくに剣道を大人から始めた方では頭の意識が先行するのか、なかなか修正が大変です。

 一方で小さな子どもたちは、指導者に言われるがままに大きく力一杯に振ろうとします。そこから小さく振って小技に移行していくので、自然に力加減を覚えていくのです。

 同様に竹刀を振るための身体の使い方を改めて知る必要があります。身体のどの部位に力を入れ、どう振るのがよいかということです。しかしながら、部位にとらわれ過ぎてもいけません。私が学生たちに指導している内容には、剣道の技術は一つのもので何かが成り立っているのではなく、複数のものを一つにまとめていく考え方が重要であると伝えています。竹刀の振り方では、握りとなる指や拳、上腕や肩等の動きを連動して、一つの振りにつなげていきます。このように、剣道において必要な考え方は物事を統合・総合しながら自得していくということです。

 同様に呼吸の例では、丹田に呼吸をおさめる・下ろすと述べましたが、同時に左手・左の膕・左の踵へと繋がっていくということを理解しなければ、構えの強さにはつながりません。

 以上のことから、剣道には身体のバランスが多く求められます。基本は右手・右足を前に出しての身体動作となりますので、ややもすると半身のような体勢になってしまいがちです。しかし左右の足や上体などを整えることで、相手に正対した構えや打突につながります。打突ではよく左手が大事だと言われていますが、要は左手と右手のバランスが揃わないと正しい打突や強度にはなりません。

 力を入れるのは瞬間瞬間です。力を入れるところも、逆に抜くのもセットとして理解をしないと、力みは取れません。したがって、無理をする必要はないので、それぞれの体力・体格にあったところで、まずは竹刀を大きく振り、そこからバランスを見極めていくことが肝要です。バランスが取れるようになれば、自然と力が抜けてくることにつながると思います。

基本技も大技から小技へと移行する



残りの記事は 剣道時代インターナショナル 有料会員の方のみご覧いただけます

ログイン

or

登録

登録


Subscribe by:

You Might Also Like

No Comments

Leave a Reply