2023.8 KENDOJIDAI
レポート=寺岡智之
撮影=西口邦彦
2024年7月4日(木)~7日(日)の4日間、イタリア・ミラノにおいて第19回世界剣道選手権大会が開催される。大会を1年後に控え、日本代表の座をかけた選手選考も最終コーナーに入った。選手団を統べる団長、総監督、監督、そして選手たちの世界大会にかける想いを聞いた。
イタリア大会まであと一年
2021年に開催予定だったフランス・パリ大会がコロナ禍により中止となり、6年ぶりとなる世界大会が2024年にイタリア・ミラノにおいて開催される。大会まであと1年となり、その代表選考を踏まえた強化訓練講習会も佳境だ。男女それぞれ10名というわずかな枠をめぐって、合宿内では熾烈な争いが繰り広げられている。
強化合宿では部内戦による順位付けも行なわれるが、それと同等以上に大事にされているのが、日本の伝統文化である剣道を世界の舞台で示せるかといった部分だ。強さは当然のことながら、日本が求める美しく正しい剣道を実践できる剣士こそ、日の丸を背負う選手にふさわしいというのは、首脳陣以下共通の認識となっている。
男子首脳陣は、東良美監督(範士八段)を筆頭に、寺本将司コーチ(教士七段)と内村良一コーチ(教士七段)が脇を固める。日本代表として台湾大会での敗戦、ブラジル大会での王座復帰を経験している両コーチが指導に携わっているのは、候補選手にとっても心強いだろう。
現在の候補選手に目を向けてみれば、当たり前のことながら、異論の余地もない現役最高峰の選手が名を連ねている。
前回大会で日本の大将を務めた安藤翔選手(国士舘大教員)は、合宿ではキャプテンを務める。まだ全日本選手権こそ優勝を果たすことができていないが、その他全国大会では世界選手権個人優勝を含めタイトルを総なめ。次回大会でも日本の中心に座ることが予想される。
前回大会出場者の中では、竹ノ内佑也選手(警視庁)や星子啓太選手(警視庁)もおそらく代表に名を連ねてくるだろう。激しいプレッシャーの中、勝利を収めたインチョン大会での経験は、次回大会でも大いに役立つはずだ。
さらには現・日本チャンピオンである村上哲彦選手(愛媛県警)や、國友鍊太朗選手(福岡県警)、松﨑賢士郎選手(筑波大学大学院)の存在も大きい。3選手ともその剣風が非常に高く評価されており、世界各国の選手のお手本となるような存在だろう。
若手では今春国士舘大学を卒業した岩部光選手(国士舘大学職員)や、前回の全日本選手権で3位入賞を果たした池田虎ノ介選手(筑波大学4年)も候補選手として合宿を盛り上げている。
誰が日の丸を背負ってイタリアで剣を振るうのか。今後も注視していきたい。
選手団団長兼総責任者
濱﨑滿範士八段

ーイタリア大会にかける思いを聞かせてください。
濱﨑:このたび団長兼総責任者という立場を仰せつかり、大変光栄であるとともに身の引き締まる思いです。団長は全体を統べる立場ですから、総監督はじめ監督、コーチ、そして選手一同が持てる力を充分に発揮できること、そして日本剣道の真髄である勝って打つ、正しく美しい剣道が実践できるよう、尽力していきたいと考えています。
ー世界と日本の差が縮まってきていると言われます。
濱﨑:各国、それぞれの見方はあると思いますが、私は日本代表が日本らしい剣道をしてくれれば、それでいいと思っています。もちろん、世界各国の剣道愛好者に感動を与えられるような試合ができれば、自ずと結果もついてくるはずです。
ー日本らしい剣道と勝つことは一致しますか?
濱﨑:ブーイングが出るような守備一辺倒の剣道では、世界一になることはできないでしょう。相手を攻め崩して打つ剣道、これが一番強いと私は考えていますし、それが実践できれば勝利につながっていくと思います。
ー選手選考も佳境ですが、日の丸を背負う選手たちに求めていることを聞かせてください。
濱﨑:代表選手になるには強くなければなりませんし、日本の選手として所作事などもきちんとできていなければダメでしょう。そういった部分もこの強化合宿では取り組んでいます。日本剣道を示せる、世界の模範となれるような選手を選んでいきます。
ー残り1年、自信のほどはいかがでしょうか。
濱﨑:もちろんあります。輪を以って事に臨み、輪を以って戦って参ります。
総監督
古川和男範士八段

ー総監督として、どういうお気持ちで強化合宿等に臨んでらっしゃいますか?
古川:全日本剣道連盟からご指名いただきましたので、いま、乱れつつある日本の伝統文化である剣道を正し、世界の見本となるような剣道で勝ち進んでいけるよう、選手たちを鍛えていきたいと考えています。
ー強化合宿で選手たちに伝えていることを教えてください。
古川:強化合宿は厳しいメニューが組まれていますが、期間としては数日間です。大事なのはそれぞれの所属に戻ってからで、そこでの「間稽古」をしっかりと積んでくれと選手たちには伝えています。その上で、トップアスリートとしてもう一度カラダづくりから見直しなさいとも言いました。ケガをしないカラダがあってこそ、詰めた稽古が可能になりますから、最低限、そこは意識してもらいたいと思っています。
ー古川先生はブラジル大会のコーチも務められましたが、そのときと今回では違いがありますか?
古川:あのときは台湾大会で苦渋を飲み、絶対に負けられないという気持ちが日本選手団全体にありました。違いという意味では、日本大会、韓国大会と勝ってきている現在はその危機感がありません。外国勢は日本の選手と試合をしたい、一本を取りたい、1勝したい、そして団体戦で日本に勝ちたいという夢をもって稽古を重ねているはずです。その気持ちに負けないように、我々も強い意志をもってイタリア大会まで歩んで行きたいと思います。
ーどんな選手を日本代表としてイタリアに連れていきたいと思っていますか?
古川:みんなから応援されるような選手です。強さはもちろん、稽古への取り組みや普段の生活態度に至るまで、誰もが認めてくれるような選手こそ日の丸を背負うにふさわしいと思いますし、そういう選手が結果を出してくれると考えています。
男子監督
東良美範士八段

ー日本代表監督として、イタリア大会に向けた思いを聞かせてください。
東:コロナ禍以降、日本も含めて世界の剣道は大きく変わったと感じています。そんな中で、日本の伝統文化である剣道を改めて披露するのが世界大会であり、そのために気迫に満ちた正しい剣道が実践できるよう、いま、選手たちとともに稽古に励んでいるところです。
ー近年は競った試合になることも多い世界大会ですが、そこでも正しい剣道で勝つことが大切ということですね。
東:もちろんです。世界と日本との距離はどんどんと縮まってきていますけれども、その状況においても日本らしい中心を攻めた理合ある剣道で勝つこと、これが宿命だと考えています。強化訓練では基本から徹底的に鍛え直していますし、選手たちもそこは心に留めながら稽古に臨んでくれていると思います。
ーパリ大会が中止になって以降、強化合宿の回数もなかなか増やせない現状がありますが、大会に向けて不安はありませんか?
東:たしかにこれまでに比べて合宿の回数は少ないですが、ここから1年が、技術的、精神的に詰めていく、厳しい修行であると考えています。これからは強化訓練で学んだことを充分に発揮して、全日本選手権などの大会で好成績を残してもらいたいです。大きな大会で結果を出せる精神力がなければ、世界大会で起用することはできませんから。
ー世界の舞台でも臆せず戦える精神力が、選手選考のポイントにもなりますか。
東:そうですね。井の中の蛙ではいけません。肉を切らせて骨を断つくらいの度胸をもった選手が、負けることの許されない世界大会においても結果を残せるはずです。自分を信じ、訓練でやってきたことを出し切れる選手です。日の丸を背負う覚悟、これが大事でしょう。覚悟をもった選手が10人そろえば、必ず勝利を得られると確信しています。
男子キャプテン
安藤翔六段

ー新生JAPANは順調に進んでいますか?
安藤:コロナもあって前回より合宿の回数が減っています。大人数の食事を避けなければならず、選手間のコミュケーションはまだ足りない部分はありますが、稽古自体は一人ひとり高い意識で取り組めているのではないかと思います。年齢の上下は関係なく、常日頃からお互い声をかけあって高め合っているので、雰囲気自体はすごく良いと感じています。
ー今回の強化訓練ではキャプテンを務められています。
安藤:これまではまだ若手という感覚で、自分のことだけ考えて一生懸命やればいいと思っていました。いざキャプテンになるとまわりもしっかりと見なければならず、本当に大変だなと実感しています。ただ、他のメンバーたちがとても気遣ってくれるので、その面では助かっています。当たり前のことですが、この合宿には実力者が集まってきています。私のような年齢が上の選手も年下の選手に学ぶところは多いにありますし、年下の選手も年上の選手から何かを学ぼうと、貪欲に話を聞いてきます。強化選手全員、当たり前のことを当たり前にやりながら、さらに自分で求めてキツい稽古に取り組んでいるので、私もキャプテンと言えど、気が抜けない気持ちです。
ーイタリア大会まで1年となりました。優勝への道筋は見えてきたでしょうか?
安藤:いえ、まだまだです。今回は世界大会経験者が少ないので、前回大会に出場した私や竹ノ内、星子などが経験してきたことを他の選手に伝えていかなければなりません。ただ、私たち選手は「世界一になるしかない」という気持ちで稽古に臨んでいます。その気持ちだけは団長以下選手スタッフ全員、同じです。ー前回の韓国大会はギリギリの勝負を安藤選手の勝利で制しました。安藤選手自身、前回大会より成長は感じているでしょうか。
安藤:今の段階では、まだ前回大会に追いつけていないかもしれません。これからもっと、自分に厳しくやっていく必要があると思っています。前回のような接戦でまわってきたときの本当に苦しい戦いというのは、今のままでは乗り越えられないんじゃないかなと感じています。年齢も前回より6歳あがっていますから。でも、負けられないんです。ー優勝、期待しています。
安藤:ありがとうございます。さらにチームが団結して、高い意識でイタリア大会に臨めるよう頑張っていきます。
竹ノ内佑也六段

ー大会まであと1年。世界大会回経験者として自分にできることは何だと思っていますか?
竹ノ内:まずはこういった強化合宿での雰囲気づくりですかね。約10年、日本代表候補として呼んでいただいているので、強化合宿でどんなことが求められるのかは分かっているつもりです。大学生で日本代表になって、もう今回のメンバーでは中堅ですから、安藤キャプテンの指示をしっかりと後輩たちに伝えていくのが役目かなと感じています。
ー今回も日本代表に名を連ねる自信はありますか?
竹ノ内:どうでしょう。今まで入っていたからといって今回選ばれるわけでもないですから。ただ、世界大会の厳しい舞台を経験しているのは強みだと思いますし、自分の中では世界で戦える自信は誰よりも持っています。
ーこれまで世界大会や全日本選手権などで見せてきた、竹ノ内佑也という選手の勝負強さは、イタリア大会でも鍵になってくると思います。
竹ノ内:本大会では自分の持っている力をすべて出し切れるように、強化合宿で少しずつ地力を積み重ねているところです。また団体戦のメンバーに入って戦いたいので、そのためにもこれから行なわれるさまざまな全国大会で結果を残していきたいと思います。
ーふたたびの世界一、叶いそうでしょうか?
竹ノ内:優勝するしかありません。
林田匡平五段

ーいま、どんなことに取り組んでいますか?
林田:強化合宿ではいろいろな剣道を試しながら、実力の向上を図っているところです。これまでできなかったことを日ごろの稽古で修正して、この合宿で試すようにしているのですが、ある程度うまくいっている感覚はあります。強化合宿はとても刺激があって、地元に戻ってからも次の強化合宿までそのモチベーションを維持しつつ、良いスパンで稽古ができているので手応えを感じています。
ー前回大会は日本代表に選ばれながら、出場機会に恵まれませんでした。イタリア大会では代表に選ばれる自信はありますか?
林田:前回の強化合宿は全然うまくいかなくて、部内戦も全敗に近いような内容でした。ただ今回はかなり勝率も良かったので、自分が取り組んできたことが間違いではなかったのかなと思っています。この勢いのまま、日本代表に選んでいただけるように頑張っていきたいです。
ーもし日本代表に選出されたら、どんな役割を果たしたいですか。
林田:優勝が命題であることは百も承知ですし、プレッシャーがあることも分かっていますが、団体戦に出て日本の優勝に貢献したいと思います。
ー高校教員として唯一の日本代表候補です。教員でもやれるんだというところを示してもらいたいと思っています。
林田:そうですね。そのプライドはもちろんあります。今は大学生とかその下の年代のトップ選手はほとんどが警察官の道に進んで行きますが、教員を目指してほしいという思いもありますし、後に続いてもらえるように私が頑張らなければという気持ちです。
星子啓太五段

ー前回大会は最年少で団体戦の選手として活躍されました。イタリア大会に向けてはどのような意識で臨んでいますか?
星子:目指す場所としては、チームの中心を担える選手になることです。次回大会にははじめて世界大会に出場するという選手も多くなると思うので、自分が韓国大会のときに安藤キャプテンや他の先輩たちにしていただいたように、先輩後輩関係なく支えられる余裕があるくらい、強くなりたいと思っています。完全優勝はもちろんですが、そういったところまで気配り、目配りができる選手になっていきたいです。
ーこれまでの強化合宿で学んだことを教えてください。
星子:やはり日本代表としての誇りというか、日の丸を背負うことの重みを毎回感じています。年齢は上から下までかなり離れていますが、キツい稽古をチームワークで乗り越えていくことによって、自然とチームとしての和ができてくるのだと思います。自分は世界大会経験者でもあるので、次のチームを引っ張っていけるように、先生方や選手たちからさまざまなことを学んで行きたいと思っています。
ーイタリア大会ではどのようなポジションで戦いたいですか?
星子:団体戦の5名には確実に入って、個人戦とのダブルエントリーも目指すところです。どのポジションでも流れを変えられる、引き寄せられる選手になっていきたいです。
ー現状、部内戦でもかなり勝率がいいと聞いています。本大会での活躍が期待される立場ですが、あと1年、どう過ごしていきますか?
星子:「あと1年もある」と考えるのか、「もう1年もない」と考えるのか、そこが大事だと思っています。昨年、全日本選手権で1回戦負けをして、そういった意味では焦りもありますけど、毎回の強化合宿や警視庁での日々の稽古を無駄にせず、着実に強くなっていきたいです。まずは今年の全日本選手権での優勝を目標に、その他出る大会はすべて勝つ気持ちで取り組んで行きます。
男子日本代表選手候補
野村 洋介(のむら・ようすけ)
平成2年生まれ、33歳。錬士六段。本庄第一高校→神奈川県警察
安藤 翔(あんどう・しょう)
平成2年生まれ、32歳。六段。東海大第四高校→国士舘大学→北海道警察→国士舘大学教員
國友鍊太朗(くにとも・れんたろう)
平成2年生まれ、32歳。錬士六段。福岡舞鶴高校→国士舘大学→福岡県警察
足立 柳次(あだち・りゅうじ)
平成2年生まれ、32歳。錬士六段。高千穂高校→筑波大学→埼玉県警察
合屋 龍(ごうや・りょう)
平成4年生まれ、31歳。六段。福岡高校→鹿屋体育大学→京都府警察
土谷 有輝(つちたに・ゆうき)
平成4年生まれ、31歳。六段。金沢高校→国士舘大学→大阪府警察
村上 哲彦(むらかみ・てつひこ)
平成4年生まれ、30歳。五段。新田高校→松山大学→愛媛県警察
竹ノ内佑也(たけのうち・ゆうや)
平成5年生まれ、29歳。六段。福大大濠高校→筑波大学→警視庁
林田 匡平(はやしだ・きょうへい)
平成6年生まれ、29歳。五段。島原高校→筑波大学→丸岡高校教員
宮本 敬太(みやもと・けいた)
平成7年生まれ、28歳。五段。水戸葵陵高校→国士舘大学→警視庁
久田松雄一郎(くだまつ・ゆういちろう)
平成7年生まれ、28歳。五段。龍谷高校→早稲田大学→愛知県警察
草野龍二朗(くさの・りゅうじろう)
平成7年生まれ、27歳。五段。西陵高校→鹿屋体育大学→大阪府警察
平野 青地(ひらの・せいじ)
平成8年生まれ、27歳。五段。東福岡高校→専修大学→大阪府警察
矢野 貴之(やの・たかゆき)
平成8年生まれ、26歳。五段。福大大濠高校→国士舘大学→警視庁
牧島凜太郎(まきしま・りんたろう)
平成8年生まれ、26歳。五段。島原高校→鹿屋体育大学→福岡県警察
星子 啓太(ほしこ・けいた)
平成10年生まれ、24歳。五段。九州学院高校→筑波大学→警視庁
松﨑賢士郎(まつざき・けんしろう)
平成10年生まれ、24歳。五段。島原高校→筑波大学→筑波大学大学院
岩部 光(いわぶ・ひかる)
平成12年生まれ、23歳。四段。水戸葵陵高校→国士舘大学→国士舘大学職員
黒川 雄大(くろかわ・ゆうだい)
平成12年生まれ、22歳。四段。島原高校→筑波大学→無職
大平 翔士(おおひら・しょうし)
平成12年生まれ、22歳。四段。佐野日大高校→筑波大学→警視庁
木村 恵都(きむら・けいと)
平成13年生まれ、22歳。四段。水戸葵陵高校→鹿屋体育大学4年
池田虎ノ介(いけだ・とらのすけ)
平成13年生まれ、21歳。四段。福大大濠高校→筑波大学4年

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