素振り

一流剣士に学ぶ、実戦に直結する素振り

2024年1月29日

2024.1 KENDOJIDAI

近代剣道の父高野佐三郎範士は「素振りと走り込みを実施していれば剣道の力は落ちない」と喝破した。素振りは一人稽古の王道。一流剣士が実行している実戦に直結する素振りを詳細に紹介する。

栗田和市郎範士八段

くりた・わいちろう/昭和31年神奈川県生まれ。鎌倉学園高校から法政大学に進み、卒業後に警視庁に奉職する。全日本選手権大会3位、全国警察大会団体優勝5回、寬仁親王杯八段大会優勝、全日本選抜剣道八段優勝大会3位などの戦績を収める。警視庁剣道副主席師範をもって平成年に定年退職。現在、全日本剣道道場連盟常務理事兼事務局長、東京修道館師範、キヤノン剣道部師範、昭和大学剣道部師範などを務める。

 素振りは、剣道の技術を習得する上で欠くことのできない稽古法であり、『剣道指導要領』(全日本剣道連盟発行)にその目的を「竹刀の操作や竹刀の正しい動きの方向(太刀筋)を習得する」「「打突に必要な手の内を習得する」「足さばき(体さばき)と関連させて打突の基礎を習得する」と記しています。

 私が所属した警視庁剣道特練では冬場の鍛練期間には毎日千本くらい振っていたと思います。前進面、前進後退面、前進後退右開左開など数種類を200本、100本単位で振ります。

 素振りは始まりから終わりまで、すべて有効打突の基準を満たした振り方をすることが大切です。これは容易なことではありませんが、常に意識しておきたいことです。

 素振りは単純な動作の繰り返しで、しかも一人で実施しますので、どうしても自分を甘やかしてしまうものです。集団で行なうと〝負けられない〟などの気持ちが働き、集中してやり切ることができます。

 私が師範をさせていただいているキヤノン剣道部や昭和大学剣道部の合宿などで千本素振りを実施することがあります。所要時間は約40分、私が号令、実施しながら集中して行なうようにしています。苦しい稽古ですが、おなじ志を持った仲間がいますので、脱落者を出さずに乗り切ることができます。この素振りを普段の稽古で、いかに実践・継続していくことかが大切であり、上達につながります。

 余暇として剣道を続ける市民剣士の方にとって素振りの実践・継続がもっとも難しい問題ではないかと感じています。剣道上達には稽古を継続するしかありませんが、1回の稽古で素振りに費やす時間はなかなか割けないのが実情です。その実情を理解した上で、自分で意識的に素振りを組み込んでいくことが大切です。

 私が市民剣士の皆さんと素振りをする際は、意識的に本数を増やすようにしています。100本から200本を目安として、それを継続させるようにしています。

 素振りは単に本数を繰り返すだけでは効果が上がりませんが、時間をかけて正しい素振りを意識して繰り返すことで、得られるものがあります。100本なら所要時間は5分、200本なら10分もあれば実施可能です。

 素振りは自宅で実施することもできますし、稽古の前後で行なうことも稽古場所によっては可能です。振り続けることで前述した手の内の習得など、必ず自身の剣道に成長を感じられるはずです。

 我々は新型コロナウイルスが感染・拡大した際、しばらく対人稽古ができない時期がありました。その時、私も正しい素振りを意識しながら数をかけて実施していたおかげで、対人稽古再開後もあまり実力低下を実感することなく、行なうことができました。

 素振りの効果や目的が明確になれば、単純な動作を繰り返すなかにも工夫・研究が必要であり、そのことで意欲的に取り組めるようになるはずです。

 私の場合、竹刀、木刀を数種用意し、目的に応じて使い分けるようにしています。例えば筋力やパワーをつけたいときは竹刀よりも重量がある素振り用の木刀を使って行ないます。また刃筋正しく振ることを目的にしたときは軽量の木刀を使って行ないます。振ってみると理解できますが、左右の手の内と力のバランスが上手くいかないと振り上げと振り下ろしたとき、刃筋正しく振ることができません。



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