勝つための方程式

宮崎正裕:勝つための方程式(第2回 指導者の役割)

2026年1月12日

KENDOJIDAI 2026.2
撮影=西口邦彦
インタビュー=吉成正大
*本記事に掲載された画像の無断転載・使用を固く禁じます。

全日本剣道選手権大会優勝6回、全国警察剣道選手権大会優勝6回、世界剣道選手権大会団体優勝4回・個人優勝など前人未到の記録を打ち続けた宮崎正裕範士八段(神奈川県警察剣道名誉師範)が剣道歴50数年、これまで取り組んできた工夫と実践、思考をあますことなく紹介する。

宮崎正裕

みやざき・まさひろ/昭和38年神奈川県生まれ。玄武館坂上道場で剣道を始め、東海大相模高校卒業後、神奈川県警察に奉職。全日本剣道選手権大会優勝6回、世界剣道選手権大会団体優勝4回・個人優勝、全国警察大会団体優勝・個人優勝、全日本選抜七段選手権優勝、全日本選抜八段優勝大会優勝など卓越した実績を残す。第15~17回世界剣道選手権大会全日本女子監督。現在、神奈川県警察剣道名誉師範。全日本剣道連盟強化委員会副委員長。剣道範士八段。

なにか光るものを身につけさせる

ーー剣道の稽古は目標・目的を明確にすることが大切であることを前号で教えていただきましたが、日々の稽古では具体的にどのような気持ちで取り組まれてきたのでしょうか。また指導者となってからはどのような気持ちで選手を育ててきたのでしょうか。

 稽古に明確な目的・目標ができたのは東海大相模高校入学からです。玄武館坂上道場で基本重視の剣道を学んできたのですが、ライバルたちと切磋琢磨する環境ではありませんでした。

 その環境から一転、高校からは結果を出さないと試合には出ることができないという現実に直面しました。中学校までは人数が少ないのでレギュラーを勝ち獲るというサバイバルレースを経験したことがありません。

 中学校時代、強豪選手は、道場連盟主催大会、中体連主催大会を掛け持ちで出場することが多かったようですが、私はそのような環境にありませんでした。中学校の名札をつけて出場した大会は区民大会しかなかったと思います。いまでいうブロック予選です。全中予選を知るのは数年後でした。個人戦は1回戦敗退でしたが、その相手が県大会に出場しました。

 そんな成績の私でしたが、高校でも剣道を続けたくて進路を考えるようになりました。大きな競技実績を持っていませんでしたが、もしかしたら高校でもやれるのではないかという夢と希望がありました。

 東海大相模高校は鶴見区内の中学校の先輩が進学していたこともあり、声をかけていただきました。東海大相模高校は自宅から2時間近くかかる距離で、見学にいったときは旅行のような感覚でした。電車5回の乗り継ぎです。

 稽古に行ったとき、異次元の世界がそこにありました。中学校までは週2回から3回しか稽古していないので、1年分の稽古をしたような気持ちになりました。

 でも、剣道に対する渇望があったのでしょう。「ここでがんばれば強くなれる」という根拠のない希望が生まれました。「ここでやってみたい」という気持ちになりました。

 稽古は激しく、強いと思っていた先輩が監督の山崎士先生にお願いすると手も足も出ません。のちに同級生となる生徒は神奈川県内だけでなく、九州からも来ていました。彼らは県大会から全国大会に出場している者ばかりでした。

 実績という面では、私はまったくありませんでしたが、高校入学後、運が良かったのか、選手には意外とはやく起用してもらえました。1年生の関東大会予選、部内試合に勝ったり、負けたりの戦績でしたが、7人の中に入れてもらえました。ケガをした先輩が欠場せざるをえなくなり、それで私が指名されたのです。本番での出番はないと思っていたら、調子の悪い先輩がいて、状況によっては「試合に出す」と言われていました。試合前夜に言われていたのですが、翌日、私に出番がまわってきました。いまでも覚えていますが、国士舘高校と対戦して、勝つことができませんでした。それが初めて『剣道時代』に載った写真でした。負けた試合でしたが、全国の仲間入りした気持ちになりました。

 このような結果でしたので、その後、開催されたインターハイ予選は選手から外れました。玉竜旗もつれていってもらったのですが、出番はありませんでした。

 新チームになってからはなぜか大将として起用されるようになり、ここからは選手として使ってもらえるようになりました。いま振り返ると決して強いから起用されたわけではないと思います。

 自分が指導者となった今、当時のことを分析するとそのように思えてならないのです。自分でいうのも恥ずかしいのですが、「ひょっとして一発がある」「守りが堅い」「勝てないけど負けない」という選手だったような気がします。

 山崎先生はまっすぐな剣道を推奨し、東海大相模高校は正統派の剣道で有名でしたが、不思議と私は矯正されることはありませんでした。

 よって指導者は、選手の個性を最大限尊重することが大事だと思っています。理由なく自分の理想形にしてしまうこともありますが、小さいときからそうしてしまうことには抵抗があります。

 私はスカウトをするとき、その選手が伸び伸びと育てられているか否かを大事にしています。もちろんインターハイ優勝、インカレ優勝などの実績はあるにこしたことはありませんが、それだけで声をかけることはありません。「これを身につけたら強くなる」「ここを伸ばしたら強くなる」などなにか光るものがある選手をスカウトしてきました。こちらとしては「ここを伸ばせば強くなる」という確信があるので、声もかけやすいのです。スカウトは明確な理由がいちばん大事だと思います。ですから、稽古は強くなるために行なうものでもありますので、とくに指導される機会が少ない一般愛好家は、自分の剣道を分析し、理想の剣道に向かってなにをするべきかを明確にすることが大切と考えています。

指導者は我慢が必要。選手の個性を最大限に伸ばす



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