2021.1 KENDOJIDAI
全日本剣道連盟から対人稽古自粛要請が解除されて約5ヶ月が経った。矢野範士も感染予防に十分配慮し、稽古を再開した。その内容は面技を中心とする打ち込み稽古。「剣道は面に始まり、面に終わる」と言われて久しいが、理想の面技を身につけるべく、いまも精進を欠かさない矢野範士に、留意点をうかがった。
矢野博志(やの・ひろし)範士八段
昭和16年静岡県生まれ。相良高校から国士舘大学に進み、卒業後、同大学に助手として勤務する。昭和61年より同大学教授となり、平成23年に退職する。主な戦績として世界選手権大会2位、明治村剣道大会3位、沖縄県立武道館落成記念全国剣道八段大会3位、全国教職員大会優勝などがある。剣道範士八段。
師匠大野操一郎先生の教え
「大技が打てれば小技は身につく」
わたしの師匠大野操一郎先生は故郷が島根県です。大正六年松江中学校に入学し、芦田長一先生に剣道の手ほどきを受けました。余談ですが、芦田先生のご子息は俳優の芦田伸介さんです。芦田先生は大日本武徳会武術教員養成所で学び、内藤高治先生の教えを受けました。内藤先生はいま「水戸大会」を主催して有名な水戸東武館の出身、警視庁撃剣世話掛をつとめていた折、「ミチノタメキタレ」という電報を受け取り、大日本武徳会に招かれました。大野先生が中学生のとき、その内藤先生が島根に招かれたことがあったそうです。県下大会の数日前に内藤先生を島根にお招きし、稽古会が催されたそうですが、このとき、中学一年生だった大野先生が内藤先生に稽古をお願いしたそうです。大野先生は無我夢中に内藤先生に懸かり、何本も面を打ったそうですがいつまでたっても内藤先生は「まだまだ」と繰り返しました。そして疲れてへとへとになったところで、遠間から大きく振りかぶって面を打ちました。すると内藤先生は「よし、まいった」と言い、稽古を終えられたそうです。
「技は遠い間合から大きく打ち込むことが基本。小さい技はだめ」と大野先生は、子供ながらに実感したそうですが、内藤先生の「よし、まいった」の一言が指導の根幹になっているとおっしゃっていました。
国士舘では現在も打ち込み、切り返しを欠かすことがありません。これは大野先生の指導方針の踏襲です。
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