ストレッチ

肩甲骨・股関節を意識せよ

2022年6月13日

2021.8 KENDOJIDAI

打突の質を上げるには肩甲骨、股関節まわりの柔軟性を高めることが重要だ。一人でできるストレッチ&トレーニングを紹介する。

今 有礼(東洋大学ライフデザイン学部健康スポーツ学科教授)
こん・みちひろ/昭和54年山形県小国町生まれ。山形県立米沢興譲館高校から山形大学、筑波大学大学院に進学。2007年筑波大学大学院博士課程修了。博士(スポーツ医学)。国立スポーツ科学センター研究員、日本学術振興会特別研究員PD Deakin University 、客員研究員、中京大学教授、同体育会剣道部女子監督を経て、現在、東洋大学ライフデザイン学部健康スポーツ学科教授。専門は運動生理・生化学。剣道錬士六段。東洋大学剣道部長。

 今回の特別企画では︑肩甲骨と股関節の可動域を広げるための効果的なトレーニング法について紹介していきたいと思います。肩甲骨や股関節の可動域を広げ良い状態にしておくことは、剣道のパフォーマンス向上や障害予防の観点からも重要です。

 先行研究において、剣道の動作と肩甲骨周りの筋活動について報告されています(文献1)。筑波大学の香田教授らの研究チームが、正面打ち(大きな正面打ちと小さな正面打ち)の振り上げ動作時の左僧帽筋の活動について、大学体育会剣道部に所属する男子学生をレギュラー群(インターハイおよびインカレにおいてベスト8以上の競技歴を有する者)と非レギュラー群(インターハイおよびインカレ出場経験のない者)に分けて検討しています。僧帽筋とは、首から背中にかけて肩甲骨を覆っている大きな筋肉であり、物を持ち上げる際などに活動している筋肉です。

 図1は、レギュラー群と非レギュラー群の正面打ちの振り上げ動作時における僧帽筋の活動時間を比較したグラフになります。大きな正面打ちの振り上げ動作時には、どちらの群も僧帽筋がよく活動しているのがわかると思います。つまり、大きな正面打ちを行う際には僧帽筋の活動が重要であり、必然的であると考えられます(文献1)。

図1 正面打ちにおける僧帽筋の活動持続時間の比較(文献1より作図)

 一方、小さな正面打ちの振り上げ動作時では、レギュラー群の方が非レギュラー群よりも僧帽筋の活動時間が長く、統計的にも有意差が認められました。この結果は、試合や審査会などの実戦で使う小さな正面打ちにおいても、僧帽筋を活動させ肩甲骨を使いながら上腕の振り上げを行うことが重要である可能性を示唆しています(文献1)。このように、竹刀の振り上げ動作時には常に肩甲骨が使われているため、僧帽筋を含む肩甲骨周りの筋肉の柔軟性を高めておくことは重要であると思われます。

 股関節は、胴体と両脚をつなぐ身体の中でも最も大きな関節の一つであり、立つ、座る、歩くなどの基本動作をはじめ、様々な動作をスムーズに行う上で欠かすことのできない関節です。そのため、股関節の可動域が狭いとあらゆる動作に影響を及ぼし、パフォーマンスの低下につながる可能性があります。また、股関節の可動域が狭いと、パフォーマンスを低下させるだけではなく、急な動きの変化に伴う負荷に耐えられず怪我のリスクが高まる可能性もあります。さらに剣道においては、動作が左右非対称という特徴があるため、股関節周囲の筋肉に大きな負担が掛かっていると思われます。そのため、股関節周囲の筋肉の柔軟性を高め、股関節の可動域を広げることは、剣道のパフォーマンスを高めることに加え、腰痛をはじめとする障害の予防にも役立つと思われます。筋肉の柔軟性を高め、関節可動域を広げるためのトレーニングとしては、やはりストレッチングが有効です。今回の特集では、肩甲骨と股関節の可動域を広げるための基本的な静的ストレッチングと動的ストレッチングについて紹介していきたいと思います。特に、中高年の剣道家の方は、体が硬い方が多いと思われますので、体の硬い方でも取り組めるストレッチングに焦点をあてて紹介したいと思います。

小さな正面打ちの振り上げ動作時では、レギュラー群の方が非レギュラー群よりも僧帽筋の活動時間が長く、統計的にも有意差が認められた

肩甲骨周囲の静的ストレッチング



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