2021.8 KENDOJIDAI
構成=寺岡智之
撮影=笹井タカマサ
群馬県の石原一幸教士は、昨年秋の八段審査で念願の八段昇段を果たした。審査で出した技は、相手の起こりをとらえた技のみだったという。石原教士の審査に向かう修業の道程と、日々の稽古の中から、起こりをとらえるために日々実践している取り組みについて聞いたー。
石原一幸教士八段
いしはら・かずゆき/昭和40年生まれ、群馬県出身。前橋商業高校から日本体育大学を経て、群馬県で中学校教員の職に就く。主な実績として、全日本選手権大会3位、全国教職員大会団体優勝、国体優勝、全日本東西対抗大会出場などがある。令和2年11月、八段昇段。
起こりを打つと覚悟を決めて臨んだ14度目の八段審査
「起こりをとらえる」というのは、剣道家にとって一番の目標であると思います。起こりをとらえた技は相手のみならず、見ている者にも感動を与えます。昇段審査等で起こりをとらえた技が評価の対象になると言われるのも、その打突が審査員の琴線に触れるからでしょう。
「出ばな」や「出がしら」といった技は、他の技にくらべて圧倒的に機会が少ないと感じています。ですが、機会が少ないからこそ非常に価値があり、そこをとらえることは、剣道修業の中で求めていかなければならない部分であると考えています。
私は昨年、14回目の挑戦で八段審査に合格させていただきました。今振り返ってみると、八段への挑戦は結果的に、どう起こりをとらえるかということと非常に密接なつながりがあったように思います。
私は48歳から八段審査を受けはじめましたが、最初のころはかたちばかりを意識して気持ちの充実がともなわない、中身のない剣道をしていたと思います。挑戦を続けつつ、さまざまな先生方から教えをいただき、それらを実践していくことによって、徐々にですが八段審査のコツのようなものが、おぼろげながらも分かってくるようになると、審査も二次まで進むことができるようになっていきました。二次審査では、一次審査よりもさらに心の充実が求められます。私は二次審査で計6度の不合格を経験していますが、そのすべてに「四戒(驚・懼・疑・惑)」と呼ばれる心の迷いがあったと自覚しています。
12回目の審査では、私なりに手応えはあったのですが、結果は不合格でした。なぜ落ちてしまったのか、自問自答する中で出た答えは、私が打ったと思っていた打突はたまたま当たっただけに過ぎなかった、ということです。必然なのか偶然なのか、審査員の方々はしっかりと見抜いておられたのだと思います。13回目の審査は相手の応じようという雰囲気を必要以上に怖がってしまい、捨てきる技を出すことができず一次で不合格となりました。
これらの経験を経て、14回目の審査ではとにかく仕掛けて先の気をもって相手と対峙しようと覚悟を決めました。初太刀は相手の起こりをとらえて面に出る。もしその技が返されてしまったとしても、ふたたび面に行く。そんな気持ちで臨んだ結果、計4度の立合でそれぞれ一本ずつ、相手の起こりをとらえた技を出すことができました。動けば打つぞという先をとる気持ち、そして相手の兆しは逃さないぞという気持ち。これらはいわゆる〝先々の先〟ということになると思いますが、この気持ちをもって審査に臨んだことが、相手の起こりをとらえることにつながったのだと思います。
有形・無形の構えと左半身の一体感
では実際に、どのようにして起こりをとらえるのかといったことに関して、私の経験からお話させていただこうと思います。諸先生のお話にくらべれば薄っぺらいものだと思いますが、少しでも審査を控えておられる方々のお役に立てれば幸いです。
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