インタビュー 全日本剣道選手権大会

学生界の新星剣士(池田虎ノ介)

2023年7月17日
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2023.6 KENDOJIDAI

撮影=笹井タカマサ

池田虎ノ介

いけだ・とらのすけ/平成13年福岡県福岡市生まれ。福岡如水館で竹刀を握り、福大大濠高に進み、現在筑波大4年。全日本選手権3位、国体2位、全日本都道府県対抗大会3位、関東学生大会団体優勝、全日本学生大会団体優勝など。剣道四段

躍進の2022年
稽古の成果が花開いた

 昨シーズンは池田虎ノ介選手の剣道人生において、転機となった一年なのかもしれない。

「今まで剣道してきた中で一番結果が出ました。『いい一年だった』と思えるくらい、これ以上ないシーズンでした。ただ、今年はそれを超えたいと思いでやっています」

 昨シーズンは、今までの剣道修業の成果が遺憾なく発揮された。関東学生大会団体優勝、全日本学生大会団体優勝、そして全日本選手権3位入賞。学生界の新星がきらめいた一年だった。

 実は池田選手、1、2年生の頃は筑波大でレギュラー入りしていない。福大大濠高校では玉竜旗2位などの実績を上げた実力者だったが、筑波大には強い先輩・同級生たちがひしめいている。正選手入りはなかなか難しかった。

「頑張っているつもりでしたが、入学後はなかなか試合に出られませんでした。ようやく結果に結びついてくれたのかな……」

 大学2年時では双子の兄・龍ノ介選手(現中央大4年)が全日本学生大会団体で優勝するのを観客席から見る立場にあった。

「嬉しいですけど、やっぱり悔しいですよね」

 悔しさを胸に、地道に稽古に取り組んだ思いが、昨年の試合につながったのだろう。

 とくに注目を浴びたのは、全日本選手権だ。世界大会経験者や全日本選手権入賞者などがひしめく「一流の舞台」を一気に駆け上がり、3位入賞。話題をさらった。

「2年生の頃は先輩のお付きで来ていました。試合を見ながら、『自分もいつか出たいな』と思っていました。まさか昨年は出られるとは思いませんでした。学生ですし、最年少です。相手の選手は年上の方ばかりです。『きっと学生との試合はやりづらいだろう。よし、存分に自分の剣道をやろう』と思ったのが、良かったかもしれません」

 過去3位入賞の経験をもつ宮本敬太選手(警視庁)、ベスト8の中澤公貴選手(高知県警)らを破っての準決勝進出だった。

「目の前の試合だけに集中していました。自分のペースで剣道ができれば、なんとか結果は出るのではないか、という気持ちでした」

 学生剣士のベスト4入りは、段位制度が撤廃された第43回大会(平成7年)以降7人目の快挙(大学の先輩にあたる松﨑賢士郎選手以来2大会ぶり)だ。

「欲を言えば、準決勝まで上がったのなら優勝をしたかったですが、正直今の実力ではそれはかないません。もっと稽古を積んで、次こそめざしたいと思いました」

 祖父にあたる池田健二選手(第1回世界大会出場、福岡商業高→早稲田大。如水館館長)は名選手として鳴らし、全日本選手権ではベスト8入りの経験がある。

「祖父はインターハイ個人優勝、関東学生大会個人2連覇しています。記録を抜くのは難しいと思っていたんですが、まさか全日本選手権(で抜ける)とは思いませんでした。嬉しかったです」「もっと稽古を積んで、これ以上の結果を出したい」。池田選手の心の中には、新たな目標が芽生え始めていた。

1、2年生の時の下積みが力を与えてくれた

 池田選手が在籍している筑波大学は、学生剣道界随一の実力をもつ剣道部。インターハイや国体、全国高校選抜大会などの全国大会で活躍した選手たちが日本一をめざして鎬を削っている。実力者である池田選手であっても、彼らとの競争を勝ち抜くのは簡単なことではない。

「なかなか部内戦でも勝てなくて。それで、強い先輩にとにかくくっついて稽古をお願いするようになりました。昨年は星子先輩(啓太・現警視庁)も毎日道場に来て下さいましたし、大学院には松﨑先輩(賢士郎)もいらっしゃいました」

 接する機会が多いと、稽古をお願いできる回数も増える。また、アドバイスも沢山いただくことができた。

「私は大学で実力を磨いていただいたと思います。先輩方からは、駆け引きや攻めについてとくに教えていただきました。間合や間について、今まで、あまり考えずに攻めて打っていた自分の剣道観が大きく変わるきっかけになりました」

 最初は間合(に入る足幅)が大きすぎる、と指摘された。「雑に入っている」という言葉で、間合の攻防に対する認識が甘かったことに気付いたという。

「先輩方は、私が『なんとなく』でごまかしていた攻めの部分について、とても緻密に考えていました。相手の出方を観察し、どう試合を組み立てれば有利な展開に持ち込めるか、しっかり計画を立てて着実に一本を取る考え方、そのような『剣道頭脳』と言えばよいのでしょうか、素晴らしいなと思い、学ばせていただきました」

 先輩方の攻め方は足遣いや竹刀操作の細部にわたるまで緻密だった。

「先輩方からご指導いただいて、打突の好機をとらえることが増えました。部内戦でもなかなか勝てず強くなっている実感はありませんでしたが、もしかしたら少しはできるようになったかもしれない位には思えるようになりました」

「試合に出たい」一心で先輩方について回った2年間。強くなりたいという思いが、昨年の活躍につながったのかもしれない。

池田虎ノ介選手の原点
福岡如水館で学んだ剣道

 池田選手は範士八段の曾祖父が創設し祖父・池田健二氏が館長をつとめる福岡如水館で剣道を始めた。

「5歳の時です。祖父のところへ見学に行くことになりました。龍ノ介はそうでもなかったそうですが、私がやる気になって、兄を説得し、2人で祖父の元へ行って『今日から剣道をさせて下さい』と言ったことを覚えています」

 こうして始めた剣道は、少年時代の池田選手にとって「楽しい」ものだったそうだ。

「剣道はキツい、苦しいというイメージがありますが、如水館の稽古はそのようなものではなく、私はツライなどの感情をもったことがありませんでした」

 福岡如水館での稽古では、試合稽古がよく取り入れられていた。

「試合稽古で負けたくなかったので、『どうやったら勝てるんだろう』とよく考えていました」

 勝つにはどうすればいいのか、という意欲が剣道の上達にもつながったのではないかと振り返る。「そうですね。型にはめない、伸び伸びとやらせてくれるイメージで、楽しい思い出が多いです」

 めきめき上達した池田選手は兄・龍ノ介選手とともに全国をめざすようになったという。

「主に指導をしてくれたのは父(康二氏・九州電力)でした。祖父から教わることはたまにありました。(曾祖父からの剣道一家であることに)プレッシャーがあるか、と聞かれることはしばしばありましたが、実は全くありません。たまにその話が出ても『あ~そうなんだ~』というくらいで(笑)」

 祖父・健二館長は福岡商業高でインターハイ個人優勝、玉竜旗3連覇の成績を残し、早大では関東学生個人2年連続優勝、全日本学生個人優勝、社会人では第1回世界大会優勝、全日本選手権ベスト8という成績を残した大選手。父・康二氏も全中個人優勝、玉竜旗優勝、全日本実業団大会2位などの実績を残している。

 プレッシャーを感じず伸び伸びと剣道ができたのは、おそらく健二館長や康二氏の指導によるものなのだろう。その後、福大大濠高に進学し、池田選手は九州大会個人優勝、龍ノ介選手はインターハイ個人優勝などの実績を残した。妹の胡春選手も、全中個人優勝、インターハイ団体優勝と、兄弟で結果を残している。

「(結果が出たのは)たまたまで……。祖父や父に見守ってもらったからだと思います。環境に恵まれました。龍ノ介とは高校まで一緒で、思ったことはどんどん言い合って切磋琢磨してきました。今は、それぞれ希望の大学に進学し、優勝をめざしています。今は、剣道においては一人の敵(ライバル)としてみています。筑波大学が優勝するためには倒さないとできませんので……。母も剣道を高校までしていて、今でも『あきらめんとよ』と、よく励ましてくれます。祖父からも、両親からも学ばせてもらったと思います」

 家族の絆の強さが、池田選手に力を与えているのかもしれない。

今年は去年以上に
これ以上ない1年にしたい

 現在、池田選手は大学4年生。筑波大学剣道部は米田好太郎主将を中心に、全日本学生大会団体2連覇に向けて一丸となっている。

「そうですね。今年は最終学年になります。最上級生の一人として、後輩たちに声を掛けながら盛り上げていきたいと思っています。昨年は良い結果が出ましたが、個人戦では負けて全国大会に出られていません。全部取れれば最高の年になるかと思いますので……頑張ります」

 学生生活最後の1年。より一層稽古にも身が入っているようだ。単位も順調に取得し、教育実習なども控えているが毎日充実しているという。「筑波大学では、香田郡秀先生、酒井利信先生、鍋山隆弘先生にご指導をいただいて、充実した毎日を過ごしています。剣道をする上で最高の環境だなと実感します」

 体育学群の学生である池田選手は剣道の他にも、栄養学やトレーニングなど、スポーツに関する幅広い分野について勉強している。

「目標を達成する上での効率のよいトレーニング方法など教わると、なるほどな~と思います。このような知識も大切なことかなと感じます」

 将来についても聞いてみた。

「将来は、警察官になって警察大会や全日本選手権で活躍できる選手になりたいです。選手としてやれるうちは、頂点をめざし、剣道を磨いていきたいです」

 今はひたすら、目の前の大会に向けて全力を注いでいる。

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