世界剣道選手権大会

女子日本代表選手候補の強化講習会

2023年9月4日
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2023.9 KENDOJIDAI

先に行なわれた男子の代表合宿に続いて、本年2度目となる女子の強化訓練講習会が千葉県勝浦の日本武道館研修センターにおいて開催された。ベテラン、中堅、若手が入り乱れた代表枠の争奪戦。日の丸を背負って戦う10名の枠には、いったいどの選手が入るのか。

レポート=寺岡智之
撮影=西口邦彦

 千葉県勝浦市の日本武道館研修センターに集った、23名の女子日本代表候補選手。ベテランから若手まで知らない者はいない、さすが日本代表といった豪華なメンツだ。それぞれが高い実績を残しており、首脳陣も代表選手選びに相当の苦労を強いられるだろう。

 2018年に韓国・仁川で開催された第17回世界選手権大会は、予選から決勝まで一分の隙も与えず完勝だった女子日本代表。次のイタリア大会でも、同等の結果が期待される。

 前回大会の代表選手と今回の代表候補選手を見比べてみると、大きく変わったところが一つ。それは個人戦で優勝し、団体戦決勝では大将を務めた松本弥月選手(神奈川県警)が代表を退いたことだ。長きにわたって日本の大黒柱として戦ってきた松本選手が抜けたのは痛いが、前回大会終了後から、代表候補は渡邊タイ選手がキャプテンとなり、強化が進められてきている。

 そしてもう一つ、ここ数年の変化として大きなトピックとして挙げられるのが、末永真理選手の代表復帰だ。末永選手も松本選手と同様、前回大会を最後に強化合宿から退いていたが、昨年、全日本女子選手権で3度目の優勝したことをきっかけに候補選手入り。当人もイタリア大会出場に闘志を燃やしている。

 23名の候補選手の中で、世界大会経験者は末永選手、渡邊選手、高橋萌子選手、冨永比奈野選手、松本智香選手、竹中美帆選手、小松加奈選手、妹尾舞香選手の8名。そのほか、全日本女子選手権優勝者の諸岡温子選手や、全国警察大会個人優勝の近藤美洸選手、全日本選手権で決勝まで勝ち上がった経験のある佐藤みのり選手や大西ななみ選手など、タレントは豊富だ。

 さらに、忘れてはならないのは、大学生が4名選出されている事実である。大学1・2年で学生チャンピオンとなった水川晴奈選手を筆頭に、先日開催された学生選手権で優勝を決めた川合芳奈選手、笠日向子選手や小川真英選手も、他の代表候補選手と遜色ない力をもっている。竹中健太郎監督も「若い力は世界大会でかならず必要になる」と期待を寄せているようだ。

 強化合宿では世界を制した髙鍋進コーチ(神奈川県警)が中心となって、日本代表としての心構えと技術をイチから指導。本大会まであと1年、誰が代表となっても、日本らしい剣道をイタリアの地で示してくれるだろう。

女子監督
竹中健太郎教士八段

ー竹中監督はどのような選手に、日本代表としてイタリア大会を戦ってもらいたいと考えていますか。

竹中:攻めて機会をつくって打てる選手です。相手が打ってこなければ機会を見出せない選手では、世界大会を戦い抜くことはできません。攻めから打突まで、一本になるかたちを持っている選手が、世界大会には必要だと考えています。

ー前回大会までは宮崎正裕先生の下でコーチというお立場でした。

竹中:宮崎先生の元で10年にわたって女子日本代表に携わり、強化のノウハウを学びました。宮崎先生がつくってこられたチーム像や選手像というのは、もちろん私にも受け継がれています。世界大会が他の大会と大きく異なるのは、個人であろうが団体であろうが、時間内で一本を獲る必要があるということです。個人戦は打たれなければ勝てると思われるかもしれませんが、延長に入ってしまえば何が起こるか分かりません。だからこそ、時間内で獲れる選手が必要なのです。国内大会とは環境が違いますので、不測の事態にも対応し得る精神面の強さも重要です。

ー今回が令和5年になって2度目の強化合宿ですが、選手たちがこの合宿で学ぶべき部分はどこであると考えていますか。

竹中:剣道のスタイルは各自あると思います。世界大会で求められるのは何かを我々首脳陣が提示していく中で、あとは選手たちがどう感じるかでしょう。もちろん、この合宿で成績を残さないと日本代表への道は拓けてきませんから、その兼ね合いの中でバランスの取れる選手が、世界大会という舞台で力を発揮できる選手なのだと思います。

ー選手候補を眺めてみると、かなり若手が多いように感じます。

竹中:ベテランの経験や安定感はもちろん必要ですが、それと同時に新しい力が育っていかないと、世界大会は戦えません。若手の勢いが強化訓練の活性化を生みますし、ベテランもその勢いに負けないように頑張る。その結果、お互いのレベルがあがり、良い相乗効果を生んでいると思います。

ーベテラン勢の評価について聞かせてください。

竹中:総合的な地力で言えば、ベテラン勢はやはり頼もしいです。末永真理、渡邊タイ、高橋萌子。この3名が強化選手の柱になっています。女子は各年代で有力選手が揃っており、強力なチームワークで戦い抜くにはそれぞれの立場で役割を果たす必要があると思います。経験者、新勢力を含めバランスの良いチーム構成が理想的です。

ーコーチとしての経験も含めて、世界大会の難しさをどのように感じていますか。

竹中:女子は皆さんが思われているほど簡単ではありません。実際、日本大会では、個人で2位になった韓国選手に勝ったのは松本弥月だけで、他の選手は負けています。団体戦でも髙橋選手と引き分け。その選手が前回大会は出場していなかった。もし彼女がイタリアで大将として出てくることを想定すれば、苦戦することも覚悟の上で臨む必要があります。日本選手が限りなく100%に近い力を発揮してこそ、その先に勝利が見えてくると考えていますから、そのために残された期間の稽古で詰めていきたいと思います。

ー世界の剣士に向けて、世界大会でどのような剣道を示していきたいですか。

竹中:新型コロナウイルス感染拡大により審判法の運営の仕方が変更され、今まで以上に剣道の質が求められるようになってきているのは間違いありません。我々はその一助となるような剣道を、世界の舞台で示していかなければならないと思います。

ー世界にはさまざまなタイプの剣道がありますから、そこに王道の剣で対応していくのは非常に難しいように感じます。

竹中:これまでの大会に向けた強化では選手の長所を伸ばす一方で、ミスをなくす意味から「部位に触れさせない」ことを徹底してきました。今は手元を上げて間合を詰めていけば反則になりますから、足を使い手元を上げず対応する、これまで以上に高いさばきの技術が必要です。選手たちにもそのことはつねに伝えるようにしています。

ー本大会まで残り1年となりました。世界一に向けて、強化は順調に進んでいるでしょうか。

竹中:韓国大会前より訓練の回数は減りましたが、他国も暫定的な試合審判法の運用への対応を含め、準備が遅れていると聞いています。一本取得後など各局面の展開力にまだまだ甘さがありますが、来年二月以降は、ほぼ毎月の合宿を行う強化体制を準備いただいていますので、髙鍋、川越両コーチと細かい部分を詰める作業に全力を尽くしたいと思います。選手の技能は間違いなく世界トップですから、あとは力を出し切る、ミスをしないに尽きると思います。必ず世界一になれるように歩みを進めていきたいと思います。

女子キャプテン
渡邊タイ六段

ーキャプテンとして、世界大会に臨む気持ちを聞かせてください。

渡邊:今までは先輩たちに必死についていく立場だったんですけど、自分がいざ一番上に立って世界大会を迎えるとなったときには、怖いなという気持ちが正直あります。世界大会は何が起こるか分からない場所ですから。

ーキャプテンのプレッシャーを今感じている。

渡邊:そうですね。この立場になってみて、今までの先輩方の想いが分かるようになってきました。

ー自分がキャプテンとしてできることは何があると考えていますか。

渡邊:私ができることは、世界大会に向けて一歩ずつ、チームをまとめていくことだと思います。

ー若手も多く入っていていますが、そこについてはどう感じていますか。

渡邊:私が大学生のときに合宿に参加させてもらって、そのときは先輩方に負けないという思いで稽古に臨んでいました。今の大学生も同じような気持ちなんだろうと、稽古をしていても感じるので、その思いに負けないように戦っていきたいです。

ー世界大会という舞台においては、とくに女子は「勝って当たり前」というようなイメージが先行している気がします。実際、選手として諸外国との差をどのように感じていますか。

渡邊:世界大会は本当に何が起こってもおかしくないですし、やってみないと分からない部分が多いです。前回の韓国大会は、予想していた韓国選手が出てこなくて、昨年のSBS大会ではその選手たちが上位にあがっていました。他国との差は測りしれない部分がありますけど、誰が出てきても勝てるように、気を引き締めていきます。

ー大会までのあと1年間、どう歩んでいきますか。

渡邊:今までの先輩方の良いところを受け継ぎ、後輩に伝えていって、日本チームとしての強いまとまりを生んでいきたいです。自分自身も、これからの国内大会で成績を残していくことが、チームにとって良い方向に働くのではないかなと思うので、各所属でメンバーがトップを目指してくれたらいいなと思います。

末永真理錬士六段

ーひさびさに強化合宿に参加していると思いますが、前回大会の合宿と比べて変化はありますか。

末永:メンバーは大分変わっていますが、それよりも私自身の気持ちの変化が大きいです。3年ぶりの合宿参加で、1回目の合宿では、自分がこの場でどうやって過ごしていたかとまどうくらいでした。

ー昨年、全日本チャンピオンに返り咲いて、自信をもって合宿に臨めているのではないですか。

末永:合宿序盤はちょっと構えてしまったところがあって、練習試合でも結構負けてしまうこともあったんですけど、最近は自分が振り落とされる基準に乗らないように、危機感をもって稽古ができていると思います。

ー現チャンピオンでも危機感がありますか。

末永:そうですね。年齢は先生方も気にされる部分だと思いますし、若い選手たちが私と同じレベルであればそちらが優先されると思うので、若い選手たちに差をつけられるくらい実力を備えて戦っていきたいです。

ー代表に選出される手応えのようなものは、どう感じていますか。

末永:自分でもまだ足りないなと思っています。合宿を追うごとに良くなっているなとは感じているので、これからもっと上げていきたいと思います。

ーもう一度世界大会に出場したいという気持ちは強いと思いますが、イタリア大会への想いを聞かせてください。

末永:本当に出場したいですし、団体も個人も出たいというのが本音です。ただ、オーダーを決定するのは監督ですから、出場することができたら、与えられたポジションで頑張りたいと考えています。

ー大会までのあと1年をどう過ごしていこうと考えていますか。

末永:今は警察官のときみたいに、いつでも剣道ができる環境ではありません。ふとしたときに「もういいかな」という気持ちにならないように、積極的に外に出て稽古を重ねて、やり切っていきたいと思います。

小川梨々香四段

ー代表候補に選出されて、いま感じていることを教えてください。

小川:雲の上の存在であるスーパースターの集まりに、今回私を選んでいただいたことはありがたいと感じています。この場で剣道ができることに感謝の気持ちでいっぱいですし、胸を借りるつもりでできるところまで頑張ろうと思っています。

ー選手に選ばれるまでの道のりは、自分の中で見えていますか。

小川:強化合宿は世界大会を経験されている方も多いですし、全国大会で実績を残されている方ばかりです。その中で自分の剣道がどれだけ通用するのか。やるからには自分も一番上を目指して、負荷をかけて頑張ろうという気持ちは強いです。

ー強化合宿で学んでいることを教えてください。

小川:勉強になることばかりです。先輩方の剣道につい見惚れてしまうことが何度もあって、自分ももっとこうしてみようとか、真似してみようとか、自分に足りないところがすごく見えてきます。

ー実業団のトップ選手として期待されている部分もあると思います。

小川:実業団だと、平日は仕事をして、業務が終わってから稽古をするという環境です。土日も自分で稽古場所を探さなければなりません。稽古量の面では警察官や大学生にはどうしても敵わない部分がありますから、そこをカバーするためにできる限り稽古量を増やしています。試合になれば何が起こるか分からないので、そのワンチャンスを自分はしつこく狙っていくしかないのかなと思います。年齢的にも若いので、元気の良さや思い切りの良さをアピールできればと考えています。

ー最終の名に残れる自信はありますか。

小川:残りたいですけど、今は不安しかありません。一回一回の稽古であったり試合であったり、自分が持っているものを出し切って、選ばれたとしても落ちたとしても、自分がここでやってきたことがこれからの剣道に活きるように、精いっぱい頑張ります。

水川晴奈三段

ー強化合宿に参加するようになって感じていることを聞かせてください。

水川:本当にレベルの高い環境で稽古をさせていただいています。ここに来ることで自分自身もモチベーションが上がりますし、いろんな学びも得ることができているので、強化合宿に参加するのはとても楽しいです。

ーこれだけキツい稽古に挑んでいる中で、「楽しい」という言葉が出るのは驚きです。

水川:吸収できることが多いですし、憧れの先輩方と稽古をさせていただけるので、楽しいです。

ー世界大会は水川選手にとってどのような存在ですか。

水川:自分は大学に入って結果を残せるようになってきて、ゆくゆくは世界大会に出られるような選手になりたいという想いがありました。目標は代表選手に選んでいただくことですけど、今はただ強くなるために、合宿に臨んでいます。

ー水川選手の年代が、現状での最年少ですけども、ベテラン選手に学ぶことはありますか。

水川:学ぶことばかりです。キツくなってきたときに、自分だったらまだ甘い部分が稽古の中で出てきてしまうんですけど、先輩方はキツいときだからこそ抜かない、そこが自分にはまだまだ足りないところだなと実感しています。

ー大学生が4名も候補選手に名を連ねていて、若手の勢いを期待している部分もあると思います。

水川:竹中監督や首脳陣の先生方の期待に応えられるように、これからもっと頑張っていきたいと思います。

ーこれからの1年、どのように稽古に励んでいきますか。

水川:強化合宿で吸収したことを普段の稽古に活かして、つねに自分に厳しく、出場する大会一つひとつで結果を残せるように頑張っていきたいと思います。

女子日本代表選手候補

末永 真理(すえなが・まり)
昭和63年生まれ、34歳。錬士六段。PL学園高校→大阪府警察→(一社)み・ゆーじ

渡邊 タイ(わたなべ・たい)
平成4年生まれ、30歳。六段。阿蘇高校→日本体育大学→熊本県警察

近藤 美洸(こんどう・みひろ)
平成5年生まれ、29歳。六段。桐蔭学園高校→法政大学→警視庁

高橋 萌子(たかはし・もえこ)
平成5年生まれ、29歳。五段。守谷高校→法政大学→神奈川県警察

糸山 亜美(いとやま・あみ)
平成7年生まれ、28歳。五段。筑紫台高校→日本体育大学→福岡県警察

大西ななみ(おおにし・ななみ)
平成7年生まれ、27歳。五段。中村学園女子高校→筑波大学→敦賀高校教員

冨永比奈野(とみなが・ひなの)
平成7年生まれ、27歳。五段。帝京第五高校→鹿屋体育大学→教員→パナソニック

松本 智香(まつもと・ちか)
平成8年生まれ、26歳。四段。筑紫台高校→鹿屋体育大学→神奈川県警察

佐藤みのり(さとう・みのり)
平成9年生まれ、26歳。四段。麗澤瑞浪高校→法政大学→警視庁

藤﨑 薫子(ふじさき・かおるこ)
平成9年生まれ、26歳。五段。島原高校→明治大学→大阪府警察

小倉 清乃(おぐら・さやの)
平成9年生まれ、25歳。四段。麗澤瑞浪高校→立命館大学→パナソニック

竹中 美帆(たけなか・みほ)
平成10年生まれ、25歳。五段。島原高校→筑波大学→栃木県スポーツ協会

小松 加奈(こまつ・かな)
平成10年生まれ、24歳。五段。東奥義塾高校→明治大学→石巻市立釜小学校教員

村田 桃子(むらた・ももこ)
平成11年生まれ、24歳。四段。中村学園女子高校→鹿屋体育大学→福岡県警察

小川梨々香(おがわ・りりか)
平成11年生まれ、24歳。四段。筑紫台高校→日本体育大学→伊田テクノス

妹尾 舞香(せのお・まいか)
平成12年生まれ、22歳。四段。中村学園女子高校→鹿屋体育大学→福岡県警察

諸岡 温子(もろおか・あつこ)
平成13年生まれ、22歳。四段。中村学園女子高校→中央大学→神奈川県警察

柿元 冴月(かきもと・さつき)
平成13年生まれ、22歳。三段。守谷高校→法政大学4年

東野 嘉怜(ひがしの・かれん)
平成14年生まれ、21歳。三段。和歌山工業高校→鹿屋体育大学4年

小川 真英(おがわ・さなえ)
平成14 年生まれ、20歳。三段。守谷高校→中央大学3年

笠 日向子(りゅう・ひなこ)
平成14年生まれ、20 歳。三段。中村学園女子高校→筑波大学3年

川合 芳奈(かわい・かんな)
平成15年生まれ、20歳。三段。東海大付属静岡翔洋高校→筑波大学3年

水川 晴奈(みずかわ・はるな)
平成15年生まれ、20歳。三段。西大寺高校→法政大学3年

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