2023.6 KENDOJIDAI
世界選手権大会優勝、全国警察選手権優勝など第一線で活躍した井口清教士。昨年より母校流通経済大学の教員となり、指導者の道を歩み始めた。井口教士に足を鍛えることの重要性をテーマにお話をいただいた。
撮影=西口邦彦
井口 清教士八段
令和4年度より母校流通経済大学の教員となり、併せて剣道部監督となり、部員を指導するようになりました。この1年、無我夢中で学生たちと汗を流してきましたが、今回のテーマである足さばきの重要性を再認識しました。
剣道は右手・右足前で構えを作り、送り足を中心に移動します。その動作は日常生活ではまったくないもので、一般体育の講義で剣道を教えるとき、もっとも苦労するところです。しかし、この足さばきが身についてくると、見違えるほど剣道らしい動きになり、竹刀を振る動作、足を送る動作がさまになってきます。
わたしが剣道を始めたのは40年以上前になります。剣道の手ほどきを受けた道場では足さばきを徹底して繰り返していました。
剣道は打突の機会に応じて瞬時に技を出すことが求められます。実際には、打突の機会と感じたときには身体が反応していなければなかなか有効打突には結びつきません。その基軸となるのが正確な足さばきです。左足を軸足として瞬時に対応することが求められます。
打突の機会は適切な間合を確保していなければ生まれませんので、いわゆる〝打ち間〟を作ることが重要になります。剣道の攻防は遠間から始め、触刃の間合、交刃の間合、打ち間と詰めていくなかで打突の機会を見いださなければならず、これが本当に難しいことであり、足が機能していなければ適切な間合を確保することはできません。足は生涯にわたって鍛えなければならないことを実感しています。
わたしは八段審査を受審する際、間合の詰め方を研究・工夫しました。教本等に記載されている一足一刀の間合は、一歩踏み込めば打て、一歩退けば相手の打突を外せる間合です。剣道における基本的な間合と言われていますが、実戦では、一歩引いて外されることも多々あり、この間合から更にどう詰めるかを考えました。詰め方を間違えれば打突の好機を与えてしまうことにもなります。距離を詰めるとともに、心理的にも優位に立つことも重要と考えました。それゆえ剣道部の部員たちには基本稽古から実戦につながる間合の詰め方を常に意識するように指導しています。
技の稽古で間合の詰め方を意識するようになると、技を出すまでの過程が緻密になります。どのような場面で技を出せば、一本になるのかをイメージできるようになります。
左足を継がずに打てる間合を身体で覚える
前述したように一足一刀の間合は一歩踏み込めば打てる距離です。流通経済大学の稽古では、送り足で大きく面打ちをしたのちに、一足一刀の間合から左足を継がずに打つ面打ちを繰り返しています。
実戦では一足一刀の間合まで簡単に入ることはできませんが、まずは自分がどの距離まで入れば打てるのかを身体で覚えることです。面打ちでも大きく振りかぶって打つとき、実戦的に小さく鋭く打つときでは間合は変わります。
剣道の足さばきは歩み足、送り足、継ぎ足、開き足の4種です。一足一刀の間合に入るとき、継ぎ足は有効な足さばきです。しかし、これを繰り返していると、足を継がなくてもよい場面で継いでしまうようになります。それでは切羽詰まった局面で足を継ぐことになり、相手に打突の機会を与えてしまいます。
打突時、無理に打突部位に届かせようとすると上半身が大きく前傾してしまいます。打突部位を当てにいくような打ち方になってしまうので、腰始動で正確に打てる間合を覚えるようにします。
加齢とともに脚力が落ち、届く距離は短くなりますが、脚力をカバーするのが間合取りです。
勢いを使って打たない。緻密に詰めて打ち間に入る
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