2011.8 KENDOJIDAI
進行・構成＝寺岡智之
写真＝徳江正之
寺本将司
昭和50年4月17日生まれ、熊本県出身。熊本工大高校（現・文徳高校）から国際武道大学へと進学し、卒業後、大阪府警に入る。3大会連続で世界大会日本代表となり、第14回ブラジル大会では主将を務め団体個人両部門を制する。変幻自在の剣さばきを武器に、第55回全日本選手権大会優勝をはじめ、各種全国大会を席巻。誰もが認める日本のトップ選手である。
髙鍋進
昭和51年8月16日生まれ、熊本県出身。PL学園高校から筑波大学を経て、神奈川県警に入る。第１２回グラスゴー大会から日本代表入りし、以来長きに渡り日本代表の中心選手として活躍。日本一と評される面技で、知らぬ者はいない日本を代表する選手である。昨年、念願の全日本選手権初制覇を果たした。
初対戦は髙鍋の二本勝ち
認め合ったおたがいの強さ
ーーお二人はともに熊本県のご出身ですが、はじめて出会ったときのことを憶えていますか。
髙鍋：出会った瞬間、というのは憶えてないですね。
寺本：私も憶えてないのですが、“髙鍋進”という存在自体は小学生のころから知っていました。たしか一回だけ、中学生のときに試合をしたよね。
髙鍋：そうですね。
寺本：私の二本負けでした。
髙鍋：でも二人とも大将で、勝負は前で決まってたんですよ。寺本さんのチームはすごく強かったですから。
ーー試合をやった印象はいかがでしたか。
髙鍋：正直あんまり記憶がないんです、すいません。
寺本：私ははっきり憶えてます。髙鍋の剣道は小学生のときからとても高い評価を受けていて、みんな「あいつは別格だ」と口をそろえて言っていました。二本負けをしたときも、私は自分が打ったイメージがあったのですが、私より後に動き出したはずの髙鍋の面に旗が三本パッとあがった。自分の中での審判がはずれたのははじめての感覚でした。そのときに、あぁやっぱり別格なんだと（笑）。
ーー言葉を交わしたりはしましたか。
髙鍋：いや、話してないと思います。
寺本：はじめてしゃべったのは……、もしかしたら自分が大学4年のときの勝浦かな。
髙鍋：あぁ、そうかもしれないですね。
寺本：私が国際武道大学を卒業する前に、髙鍋が勝浦まで稽古しにきたんです。剣を交えたのはあの中学の試合以来でした。
髙鍋：寺本さんの剣道は大学でも何度か見る機会があって、もちろん強いなぁとは思っていましたが、実際に稽古をしてみるとその強さに圧倒されてしまって。とにかく剣道が大きくて、懐が深い。“寺本将司”という剣士を再認識した出来事でした。
ーーいまは大変仲が良さそうですが、親交を深めたのはいつごろからですか。
髙鍋：本当に深くしゃべるようになったのは、全剣連の強化合宿からですね。入ったのが同時期だったので。
寺本：サンタクララの世界大会が終わってすぐだったよね。同じ年代なので部屋もずっと一緒でした。いろんな下仕事を二人でやって。深く話をするまでは、髙鍋は天才肌でパッといってパッと勝ってくるタイプだと思っていたんです。剣道に対する姿勢は自分も負けていない、そう思っていました。しかし、一緒に生活をしてみると決してそんなことはなかった。とにかく剣道に対して真剣に取り組む姿勢がすばらしいと感じました。
ーー取り組む姿勢ですか。
寺本：たえとば竹刀や防具ひとつとってもすごいこだわりを持っていますし、剣道に対して真摯に悩む姿も見てきました。日本代表を争っている私にそんなことを聞くの、というくらい質問も受けましたし。そんな髙鍋の姿勢を見て、天才剣士でもこんなに悩みながら剣道に取り組んでいるのに自分はどうなんだと考えさせられたんです。弱い人間が勝つには取り組む姿勢から考えなければいけないのに、強い人間がそれ以上に考えている。負けているなと思いましたし、負けたくないとも思いました。
髙鍋：寺本さんは自分にないものをいっぱい持っているので、純粋に興味があっただけなんですけどね。知りたいことはどんどん聞いていこうと思って。所属の違いはありますけど、自分がレベルアップをするためには、吸収できるものはどこからでも吸収したいという思いがあるんです。
ーーお二人はおたがいにライバルという意識があるんでしょうか。
髙鍋：私はないですね。ライバルというよりも、尊敬する先輩の一人ですから。でも普段稽古をしているなかで、寺本さんを意識することは多いです。宮崎正裕先生からよく言われるんです。「身内を意識して稽古をしているようでは甘い。素振りひとつにしても全国のライバルを意識してやらなければダメだ」と。私がそう言われてパッと思いつくのは、やっぱり寺本さんなんですよね。
寺本：ライバルというと互角のイメージがありますが、私はどうやったら髙鍋に勝つことができるか、つねにそういう目線をもって稽古をしてきました。年齢は一つ下ですけど、やっぱり先を走っている感覚があったので。髙鍋と同じ土俵に上がって勝ちたいというのが、私のなかでのひとつのモチベーションでした。
捨て切る技術と
剣道が好きだということ
ーーおたがいが感じる相手のすばらしい部分はどこでしょうか。
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