KENDOJIDAI 2024.3
写真=笹井タカマサ
2023年の剣道界を彩った3人の若手剣道家たち。第一線を走る彼らは何故強いのか。一流の一流たる由縁にせまる。
竹ノ内佑也

すべてはチームのために。
全身全霊を注いだ警察大会
竹ノ内佑也選手にとって、2023年という1年は印象深いものだったかもしれない。全国警察大会において大将をつとめ、劇的な逆転勝利の立役者となった。また、全日本選手権においては、大学3年生の時の初出場初優勝以来のベスト4入りを果たした。
「非常に充実した1年だったと感じています。自分がとくに強くなったなどの実感はありませんが、団体戦で大将を任されることが多くなったのでその中で責任感が出てきたのかな、と。そうした経験によって、(心が)強くなった部分があったのではと感じています」
10月24日の全国警察大会では大将を任された。「新チームとなってから、練習試合では大将をまかされる場面が出てきました。警視庁の大将は大役ですし、後ろ(のポジション)がないので、負けられない、という気持ちが大きかったです」
前6つのポジションはすべて後輩がつとめている。後輩たちが普段の稽古でどれだけ努力を重ねてきたか、その姿を見ているだけに「ここで負けるわけにはいかない、このメンバーを優勝させたい」という気持ちが「絶対に負けられない、ここでは終われない」という心の強さを生み出した。「個人戦は勝っても負けても自分次第ですが、団体戦は勝てば皆で喜べますし、負ければ自分の責任になります。遅野井直樹先生(主将)をはじめとする特練員の皆とともに勝利をしたい、という思いが強かったですね」
全国警察大会1部決勝は、警視庁にとって最大のライバルである大阪府警察との対戦となった。「あの試合に関しては、追いかける展開だった私の方が精神的に楽だったかもしれません。私は今のままでは負けになりますし、8分間で一本を取るという状態を考えた場合、リードをされている展開ですがこちらの方が精神的に有利な状況なのかな、と」
大将戦を迎えた時点で3―2と、大阪府警がリードしている状態。相手の土谷有輝選手にとっては、引き分ければチームが勝ち、つまり「リードを守れば勝ち」になる。「守らなければいけない」という気持ちが先に立ちやすい。竹ノ内選手が面を決めて代表者戦となる。代表に立ったのは、大将同士。
「私は代表者戦にもっていけただけでも御の字でしたので。レベルが同じところの勝負になると、メンタルも大きな影響があるかもしれません」
決まったのは小手。延長3回目、見ている選手や観客が手に汗を握りながら、静かに見守る中で会心の一本が決まった。
「この日は面の調子が良かったので、当初は面の勝負もよぎっていましたが、最後は体が勝手に反応しました。延長になりましたが、私はあまり時間(の長さ)を感じませんでした」
試合が終わると、原田悟監督以下、先生方やチームの皆さんが涙を流して喜ぶ様子が見えて、「やり切れて良かった」と感じた。
「私はこの全国警察大会で優勝することを最大の目標にしていました。全日本選手権などの個人戦も出場させていただく機会もありましたが、やはり団体戦で勝つことが大切でしたので……。連覇にかけていました」

最高のかたちで締めくくった10日後に、全日本選手権がやってきた。
「気持ちとしては『楽しんで(試合を)やろう』と思っていました。試合を見ていただいても(動きが勢いに乗っていて)、私が一番楽しんでいたのではないかな、と思うくらいでした。結果は負けましたが、1回戦から準決勝まで楽しくできました」
2023年の1年を通して、充実してシーズンを戦えたことが、全日本選手権での伸び伸びとした戦いにつながったかもしれない、と振り返る。「学生の時に初優勝してから、出場できなかったり、なかなか結果が出ない時期が続いたことで、いつしか『勝たなければいけない』という気持ちに囚われていたような気がします。全日本選手権は『のびのび楽しんでやった選手が一番強い』のではないかと考えました。だからこそ試合に臨む気持ちを変えたのですが、『楽しみながら、勝ちにこだわるスタイルが今回はできたのかな』と感じています」
竹ノ内選手は優勝経験もあり、また、実績も断トツ。研究される対象であり続けながらも、長年全日本選手権と向き合ってきた。そして、得た結論が「楽しみながら、勝ちにこだわるスタイル」だった。
「会場をいかに盛り上げられるか、とも考えています。楽しかったですね。私は30歳です。あと何年、(特練員の)現役でいられるかはわかりません。だからこそ楽しむのが一番なのかな、と」
警視庁キャプテンに就任
日本一のチームを作りたい
2024年1月より、警視庁のキャプテンに指名された。これまで名だたる選手がつとめてきたこのキャプテンの座を任され、身が引き締まる思いだと語る。
「警視庁のキャプテンとしての責任感を持ちつつ、チームで優勝するために後輩達に伝えていくべきことを伝えられるように努力精進したいと考えています。『背中で見せる』という言葉もある通り、一目見てわかる稽古の姿勢なども大切だと思います。やりたくないこともやらなければいけない時はあります。また、チームをけん引して団体戦で結果を残すことで後輩達がついてきてくれることもあるのかな、と」
高校、大学とキャプテンをつとめてきた竹ノ内選手。それぞれ仲間から絶大な信頼を受けながら、チームを全国優勝に導いてきた(インターハイ団体優勝、全日本学生団体優勝)。
「コミュニケーションを取ることは大事ですが、特練員は年齢幅の広い層が在籍していますので、世代間のギャップを感じる時もあります。そこをうまく、信頼ができるように日々過ごすことが大切だと思います」
とくに、稽古以外の場でのコミュニケーションが重要ととらえている。
「私が剣道特練員になりたての頃、内村先生(内村良一、現警視庁剣道教師)がキャプテンでおられて、よく声をかけていただきました。今も事あるごとに面倒を見て下さいます。その事もあって、コミュニケーションは大切だと感じています。私も、誰とでも気兼ねなく話せるように心がけています。『話しにくいキャプテン』では、深い信頼関係がつくりにくいと思いますので……」
日本一のチームをつくるためには、個々の剣道技術の向上だけではなく、チームワークをつくることも大事。過去のキャプテン経験によって、そのことは身に染みている。
「これからですので、楽しみと言えば楽しみですし、全国警察大会3連覇もかかっていますので身の引き締まる思いです。素晴らしい仲間ばかりですので優勝の期待が大きいですし、だからこそ『勝たなくてはいけない』といった思いもあります。特練員それぞれの個性を大切にしながら、チームをつくっていきたいと考えています」
団体戦でチームを優勝へ導きたい
2024年はいよいよ警視庁キャプテンとしての船出の年となる。
「まず、関東管区警察大会(6月)・全国警察大会(月)1部においていずれも3連覇する、という目標を立ててそこまでにどのようにしてチームを作り上げていくか、考えているところです。世界大会についてはまだ選んでいただけるかどうかはわかりませんが、選んでいただけるように1月の合宿を頑張らないといけないな、と思っています(取材日は12月)。選ばれないと『世界大会優勝』という目標も立てられませんので……」

忙しいシーズンになりそうだ。剣道ファンとしては、竹ノ内選手の個人戦の優勝も見てみたいところだが、そちらの目標はどうだろうか。
「私の個人的な目標が『チームを勝たせたい』というところにあるので、どうしてもそちらに目がいってしまうというか……」
全日本選手権史上最年少優勝、全国警察選手権優勝などの経験をもつ竹ノ内選手だが、実は個人戦よりも団体戦の方に熱が入ってしまうタイプだという。事実、これまでの団体戦においても「絶対に負けられない」という一戦であるほど実力を発揮している。チームメイトたちはそれを知っているが故に、絶大な信頼を寄せているようだ。「団体戦のほうが個人戦よりも価値があるように感じています。それは昔からでした。それが結果にも反映されています」
初めての全国優勝は中学生の時。個人戦(全国道場少年大会)での優勝だったが、福大大濠高校進学後はインターハイや玉竜旗で優勝。個人戦は県予選で敗れている。筑波大では全日本学生大会団体で優勝しているが、個人戦は3位だった。
「何故でしょうね……。4年前に全国警察選手権を優勝させていただきましたが、喜びは一瞬なんです。2022年、全国警察大会(団体)の1部優勝は私にとって初めての(警察大会における)団体優勝でした。そして、2023年で連覇。この時の喜びというのは、仲間といつまでも語りつくせる程の感情があります。お酒は苦手なタイプであまり飲めなくて、集まる席ではついついケーキなど甘いものに手が伸びてしまうのですが(笑)。仲間と喜ぶのが好きなんですね」
30歳代を迎えた竹ノ内選手が今後どのような剣道をみせてくれるか、興味は尽きない。
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