2026.4 KENDOJIDAI
構成=寺岡智之
撮影=西口邦彦
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一昨年に千葉県警察を退職し、小・中学生を中心とした剣道スクールを立ち上げて指導に尽力している佐藤弘隆氏。現役時代は他を圧倒する攻撃的な剣道を武器に、数々の実績をあげてきた。「私の剣道はつねに先手必勝。その根幹となっているのが足さばきです」。そう語る佐藤氏に、自身の体験とともに足さばきの重要性について語っていただいた―。
佐藤弘隆 六段

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素早く動くだけが足さばきではない
いつでも打ち出せる足をつくること
みなさんは「足さばき」という言葉について、どのようなイメージを持っているでしょうか。多くの人は「素早く動くこと」を第一に挙げると思います。たしかにそれも足さばきを構成する大きな要因ではありますが、剣道の足さばきというものはそれだけではありません。むしろ大事にしたいのは動いた後であり、構えを崩さずにいつでも跳び出せる状態を維持しておくことこそ、足さばきの最重要ポイントであると私は考えています。冷静で落ち着いた様子を「地に足がつく」と言いますが、剣道も足さばきを鍛えることによって地に足がついた状態になり、試合や審査の場においても普段どおりの自分らしい剣道が表現できるはずです。
足さばきの稽古というと、幼少期に行なったすり足で前後左右に移動する動作をイメージする人も多いでしょう。剣道の基本はすり足であり、すり足を身につけなければその他の技術を習得していく上で不具合が生じてきます。だからこそ剣道を始めたてのころは足さばきの稽古が必須なわけですが、では中高生や社会人であれば稽古が必要ないかというと、そうではありません。足さばきはつねに鍛える意識を持っておいた方が良いというのが、私の考え方です。
私自身を振り返ってみれば、一番、足さばきについて時間をかけたのは安房高校時代でした。恩師の所正孝先生は、足さばきをとても大事にされる方で、稽古時間の多くを面をつけずに行なう足さばきの稽古に割いていました。所先生の足さばきの稽古は、一般的な稽古法とは一線を画すもので、当時の私は「なぜこんな稽古をするのだろう」と不思議に思うこともありましたが、その理由はすぐに結果として現われました。当時の安房高校は千葉国体を控え、中学時代に実績を残した優秀な選手がそろっていたのですが、そんな選手たちが動きも打突も、みるみる内に速くなっていったのです。大会で結果も出るようになり、「足さばきって大事な技術なんだ」と思わされた3年間でした。
なぜあれほど足さばきの稽古に重点を置いていたのか。高校生の私はその本質を理解するまでには至りませんでしたが、今なら少し、その理由が分かります。
剣道は相手と一本を取り合う競技であり、そのためには素早い動きと力強い打突が必須です。全日本選手権などを観ても、一流選手はこの2つの要素を必ず身につけていると言っていいでしょう。安房高校では、足さばきの稽古に加えて剣道の動きに直結するトレーニングにも多く取り組みました。やはり、競技力向上を目指すためには竹刀技術だけでなく、根本的な運動能力の底上げを図る必要があります。とくに剣道界はトレーニングの重要性が後回しにされる傾向がありますから、その点でも足さばきに注力するのは意味のあることだったのだと感じています。
そしてもう一つは、仕掛けの早さと相手より先に足をつくる大切さです。冒頭にお話ししたように、剣道は構えを崩さず、いつ何時でも跳び出せる状態を維持しておくことが大切です。動くたびに体勢が崩れてしまっては、ここぞという機会に捨て切って技を出すことができません。足さばきの稽古を積んでおくことで、素早く動く中でも体勢を整え、充分な状態で仕掛けていくことができるようになれば、つねに先手をとって試合を有利に運ぶことができます。
これを実感したのは剣道特練員として警察剣道に身を置いたときです。警察の選手は攻め入りがとても速く、この速さに圧倒されてしまうとすべてが後手にまわり、最終的には打たれてしまいます。この現象を逆手にとれば、相手に体勢を整える猶予を与えず、自分が先に体勢をつくって攻め入ることができれば、打突の機会を得ることができるはず。そう考えて、社会人になっても足さばきについては意識的に取り組んできました。
相手と相対したときに、もし自分の方が実力で劣っていたとしても、先手必勝で戦えばミラクルが起きる。これは私の長年にわたる選手生活での実感です。そのためのは一定以上のスピードとパワーをやしなうことはもちろん、それらをさらに生かすための足さばきを習得しておくことが必須だというのが、私の持論です。
思い描いた動作を表現するためにも
足さばきの稽古は欠かせない
私がもし、中高生の指導者という立場であるならば、まずはラン&ダッシュを徹底させます。剣道にそんな動きは必要ないと言われるかもしれませんが、これは運動の基本であり、ここが備わっていないと相手より一歩先んじた足さばきというのは身についていきません。先ほど言った〝先手必勝〟を遂行していくには体力も必要になります。どれだけ足さばきが闊達でも、たとえば試合が長引いたときにもう一歩出られるか、下がれるかを考えれば、体力をやしなっておくことは大切でしょう。
そして、剣道においてとても大事なのは、頭で思い描いた動作を実行できるかどうかです。いくら相手の出ばなを打とうとしても、そのタイミングで身体が出なければ機会を逸してしまいます。とくに中高生の年代はそこができあがっていないので、理論は後回しでもいいから、まずは身体を動かすことを考えようと、スクールの子どもたちにも言っています。動けるようになればできることも増えてくるので、その段階にいち早く到達するためにも、足さばきをがんばろうというのが私の考え方です。
私は独立してから、海外剣士へ指導する場面も増えています。海外剣士は大人になってから竹刀を握った方も多く、そういった方々にとって一番の壁となっているのが足さばきであると感じています。日本でもそうですが、大人になって剣道をはじめると、足さばきや基礎基本の習得に多くの時間を割くことは容易ではありません。その状態で地稽古中心の練習になると、ぎこちなさが抜けきらないまま続けていくことになります。現状から脱却したいのであれば、まずは足さばきを見直してみると、身体がスムーズに動くようになり、ぎこちなさも解消されていくでしょう。ぜひ、取り組んでみてもらいたいと思います。
構え
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