2020.7 KENDOJIDAI
剣道では、全日本剣道選手権や国民体育大会への出場を目指すようなトップクラスのパフォーマンスをみせてくれる選手から、子どものころからの生活習慣の中に稽古があり、生涯剣道に取り組む方、大人になってから剣道を始め、昇段を目指す剣道愛好家など、年齢や競技レベル、職域を問うことなく、それぞれの立場で日々の稽古に励んでいます。
しかしながら、稽古をしたくてもどうしても時間や場所が確保できない、ということはよく耳にする話です。稽古から離れると、剣道の対人感覚が失われてしまうのではという心配とともに、体力も落ちてしまうのではないかという不安もあるかと思います。今回は、稽古をしたくてもできないときに実施可能なトレーニングであるジョギングとウォーキングについて『仕事で忙しい人のための剣道トレーニング(2015年弊社刊)』の著者の齋藤氏に聞いてみました。
齋藤 実(さいとう・まこと)
昭和45年静岡県生まれ。榛原高校から筑波大学に進み、同大学院修了。第12回、13回世界剣道選手権大会日本代表トレーニングコーチ。全剣連選抜特別強化訓練講習会トレーニングコーチ(第一期~)。日本トレーニング指導者協会認定上級トレーニング指導者(JATI-AATI)。現在、専修大学経営学部教授、同大学剣道部長。剣道七段。
―稽古をしたくても時間と場所が確保できない。体にはどんな変化があるのでしょうか。
稽古ができないために〝体がなまってしまった〟という感覚は、どなたにもあるかと思います。剣道では、1日稽古を休むと取り戻すのに数日かかる、という話もあります。稽古ができないとどの程度体力が落ちていくのかは知りたいところです。体力の維持には、稽古以外のそれぞれの生活のスタイルも関わっていますのではっきりと示すことはできませんが、次のような研究報告がありますので紹介します。
20歳代の若者と60歳代の高齢者に協力してもらい、片方の脚を60度の角度で固定して、2週間にわたって松葉杖で生活をした後の筋力の変化を調べました。その結果、筋力は若者で28%、高齢者で23%低下しました。
全く脚は動かせない状況とはいえ、1/3近く筋力が低下してしまうのは驚きの数字です。この研究には続きがあり、その後に週3~4回の自転車トレーニングを6週間行って筋力の回復具合を調べたところ、固定していなかった脚の10%ほど低い筋力までしか回復しなかったそうです(AndreasVigelso, et al. J Rehabil Med 2015)。
かなり特殊な条件での研究ですから、皆さんの生活とは必ずしも一致しないのですが、やはり動かさないことは筋力を低下させるのは間違いないようです。
また、最近の健康に関するキーワードで「サルコペニア」という言葉をご存知でしょうか。サルコペニアは、ギリシャ語で筋肉を表す「サルコ」と喪失を表す「ペニア」を合わせた言葉で、加齢や疾患により筋肉量が減少することで、下肢や体幹など全身の「筋力低下が起こること」を指します。
サルコペニアにはいくつかの原因があるのですが、そのうちの「加齢性サルコペニア」と「活動に関連するサルコペニア」は、生涯剣道で高齢でも稽古に励む剣道家にとって関係のあるものです。つまり、加齢によって筋肉量が減少する、活動が低下することによる筋肉量が減少するということが、稽古ができないことで起こる、ということになります。
少々、危機感を煽るような話になってしまいましたが、様々な条件で稽古ができなくなってしまったことが、筋力や筋肉量の低下につながっていかないようにするためには、普段の生活の中のどこかに筋肉を動かすような活動を入れていかなければなりません。
すなわち、体力の維持・増進には「生活のトレーニング化」が必要で、最も生活の中に取り入れやすいのがウォーキングとジョギングになるかと思います。
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