2023.1 KENDOJIDAI
撮影=西口邦彦
「相面、出小手は相手の心を動かさなければ打てません。合気になり、結果にこだわらず左手軸で攻め、すなおに技を出すことが大事です」と中村館長は強調する。東京修道館で日々指導にあたる中村館長が相面、出小手を打つコツを解説する。
中村福義教士八段
なかむら・ふくよし/昭和23年東京都生まれ。東京修道館三代目として、祖父中村彦太、父中村鶴治の指導により、4歳の頃より剣道を始める。慶應義塾志木高校から慶應義塾大学に進み、卒業後は東急不動産㈱へ勤務。現在は館長として、日夜、後進の指導にあたる。東京都剣道道場連盟会長、元慶應義塾大学剣道部監督。
相手の起こりをとらえる相面や出ばな面、出ばな小手は決まると人々の心を鷲づかみする技であることは周知の通りです。これらの技は自分勝手に打っても成功することはなく、スピードや腕力に頼っただけでは打つことができません。相手を観察し、起こりを読む力が必要になります。
わたしは「相面は総合力が必要」と修道館の門生に説明しています。何歳になっても、何段になっても修錬を続けなければならないのが相面や出ばな面、出小手と考えています。
先人は「そこだという、『そ』の字の頭を打ち、ここだという、『こ』の字の頭を打たなければならない」などと教えていますが、剣道は目で見えた部位を打とうとしても成功しないのは周知の通りです。しかし、見えてから打ちたくなってしまうのが剣道です。
相手の心の動きを実戦で読み切ることは、実力に差があれば可能かもしれませんが、実力が接近した相手に行なうとなると、容易なことではありません。しかし、その壁を乗り越えなければ試合で勝つことも、審査に合格することもできません。長年の修行で積み重ねた「読み」と「勘」で捨て切った一本を打つことが重要となります。「捨て切って打つ」とは、気剣体一致、心気力一致した一刀両断の一撃です。このような一本を打つにはまず畏れる心を克服しなければなりません。自分が怖いときは相手も怖いものです。立合では誰もが打ちたいと思いますが、その気持ちが強すぎると力んでしまいます。
畏れる心を克服するには「自分は誰にも負けないくらい稽古した」という自負心を持つことです。「負けるはずがない」と思えば、余裕をもって相手を観察することができ、相手をよく観察できれば、機会に応じて技を出すことができます。
わたしは修道館の師範をお願いしている中山峯雄先生(範士八段)に八段審査を受ける際、毎回相面の稽古をいただきました。最初は余分な力が入り、なかなか打つことができませんでした。しかし、毎回お願いすることを続け、合気になることを意識し、左手軸で素直に正面を打つことを繰り返しました。この稽古の繰り返しが八段合格につながったと考えています。
技を身につけるには百錬自得しかありませんが、次項からは日頃、わたしが門生たちに説明や示範していることを紹介します。
右足踵を軽く浮かせる。左手許を左腰に乗せて構える
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