2023.11 KENDOJIDAI
撮影=西口邦彦
筑波大学を率いる鍋山隆弘教士八段の代名詞と言えば、豪快な面技である。左足でいつでも打てる状態をつくっている。その準備が攻めの基軸となり、攻めて打つこと、引き出して打つことを自在にしている。
鍋山隆弘教士八段
なべやま・たかひろ/昭和44年生まれ、54歳。福岡県出身。今宿少年剣道部で剣道をはじめPL学園高校から筑波大学へと進学。高校時代はインターハイ個人・団体優勝、大学時代は全日本学生優勝大会優勝など輝かしい戦績を残す。卒業後は、同大大学院を経て研究者の道へ。全日本剣道選手権大会10回出場、世界剣道選手権大会出場2回、国体優勝、全国教職員大会優勝など。現在、筑波大学体育系准教授、筑波大学剣道部男子監督として多くの教え子を指導する。
相手との駆け引きや、技を工夫する基本的な考え方、引かされた時の左足のつくりなどは、今宿少年剣道部で、山内正幸先生から学びました。
PL学園時代は、恩師川上岑志先生からは「まっすぐが一番早い」ということを徹底してご指導いただきました。間合について「敵より遠く我より近く戦うべし」と言う教えがあります。これは有形的な要素だけでなくて無形的な精神的作用も含まれるものです。優位な状況に立てば間合は近くなり、劣勢に立つと遠く感じるものですが、川上先生の場合、相手が物理的に届かない距離から打つことができれば絶対的に有利に立てるとの信念のもと、オーソドックスな面打ちを繰り返しました。左足を打てる状態にし、剣先と剣先を50センチぐらい離して、面打ちを行なうこともありました。
川上先生の「まっすぐが一番早い」という哲学は、そこにあり、左足の使い方を理屈抜きに身体に覚え込ませるものでした。常に足を継がずに打つことを厳しく指導されました。厳しい指導はその1点と言っても過言ではなく、細かな駆け引きの指導などはまったくありません。足を継がずに遠間から打つことができれば、相手より先に打つことができる。単純ですが、神髄であるとも思います。
大学剣道部を指導するなかでも、そして私がこれまで競技者として試合に出てきた経験においても感じることは、面が打てなければ勝負にならないということです。勝負強い選手というのは、面を中心として、相手の反応を見ながら技を使い分けています。当然面以外の技で決まることもありますが、それも面が警戒されているからこそ、打突の機会が多いと思います。
加齢とともに脚力が衰え、届く間合も縮まっていきます。しかし、このシンプルな面技が武器となり、相手に圧力を与えることができることに変わりはないと考えています。
剣道の稽古は素振り、切り返し、打ち込み、掛かり稽古、地稽古と言葉で表現すると初級者から上級者まで行なうことに大差はありません。しかし、錬度に応じて身につける内容があり、そこに向かって修錬していくことが上達につながると考えています。
それゆえ、何歳になっても、何段になっても基本稽古の励行が必要不可欠になります。面で一本を取ることを考えた場合に、一番理想的なのは構えたところから剣先が最短距離を通って相手の面をとらえることです。この最短距離でとらえる面打ちの稽古を中心に、小手や突き、胴打ちを習得していくことが大切と考えています。
左足一本で面を打つ。左足に乗っている感覚をつかむ
「打てる間合に入ったら左足を動かさないで打つこと」
この教えはだれもが一度は聞いたことがあると思います。打ち間は一足で相手に届く間合であり、裏を返せば相手も届く間合です。打ち間に入ったときに無駄な動きがあると、相手に隙を与えてしまい、それゆえ左右の足にかかる体重のバランスを体得し、足継がずに打つことを覚えなければならないのです。
左足を継がずに打つための一つの稽古法として、左足一本で身体を支えて大きく面を打つ方法があります。方法はいたって簡単で、面が届く距離で構え合い、左足一本で身体を支えて面を打ちます。
この稽古法は、本学に入学したばかりの1年生には近年、必ず行なうようにしています。筑波大学剣道部の学生は三段を保有して入学してきます。三段の付与基準は「剣道の基本を修錬し、技倆優なる者」であり、在学中に取得する四段は「剣道の基本と応用を修熟し、技倆優良なる者」です。〝応用〟を修錬することになるのですが、応用は基礎・基本の土台が必要不可欠です。その意味で、左足を継がずに一拍子で打つことを覚えてもらうために実施しています。
こちらの意図を伝える。相手の意図を感じとる
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