2024.10 KENDOJIDAI
撮影=西口邦彦
構成=土屋智弘
構えた時点で左足が正しく収まっていないと、気持ちも収まらない。攻めて打突し、残心に至るまでの動きをつかさどるのは左足で、冴えのある打突を実現するにも左足が大きな役割を果たしている。基本における左足の重要性から実戦での使い方まで、宮崎教士にお聞きした。
宮崎史裕 教士八段
私は小学生の頃、兄正裕が通っていた玄武館坂上道場に入門し剣道を始めました。こちらで剣道の基礎・基本を習ったことが幸運でした。道場は基本重視の教えで、その教えに忠実にやっていたという記憶があります。そして足さばきについて自ら意識し出したのは東海大相模高校へ入学してからだったと思います。木田誠一先生に基本をみっちり仕込まれました。足について思い出す教えは「動け、止まって居着くな」というものでした。必然的に足を使って、常に身体の位置を動かしている感じを意識しました。その足使いですが、横に動かすというよりは、前後に小刻みに足を動かし、いつでも打突に出られる身体のバランスを重んじていました。そこには支えとなる左足の準備が欠かせませんが、右足は常に動かし、間合を測っている感じになっていたと思います。当然前に出る時はそれに従い左足も動かし、相手の動きに合わせて引くような時は左足も引くといった具合で運用していました。
神奈川県警の特練員となった際も足さばきに重きを置きました。私自身、小柄な体格ということもあり、それをカバーするために、間合のつかみ方を工夫しました。柔らかく攻め、足を居着かせないことで、相手に的を絞らせないことを意図してきました。
そしてぴたっと地に着くような足使いを意識したのは、八段審査に臨んだ頃からで、足さばきの運用により、体が崩れないことを意識しました。
今回のテーマは左足ということですが、左足のどこに力を入れるかということを意識して、トレーニングなどをしたことはありません。よく親指の付け根、蹠骨(中足骨)に力を入れろといわれますが、自然とその部位を使っていると思います。たまたま先日その部分の痛みが引かないので、病院に行きレントゲンを撮りましたら、変形性関節症と診断されました。やはり足の踏み切りの際は、左足の付け根部分を使っていることが顕現したわけですが、普段の稽古で特に意識したことはありません。
ただ左足が進行方向に正対しなかったり、開いてしまわないようには注意しています。つまり打突時に右足を出す際は、左足の引きつけを疎かにせず、しっかりと追従させ常に進行方向に真っ直ぐ向かうように意識することです。この左足の引きつけの重要性は警察大学校で行なわれた講習会の際、警視庁の先生方に教えていただきました。連続の打ち込みや追い込みを行う際は、特に左足の引きつけについて、その重要性を何度もご指導いただきました。
そうした訓練を経て、左足をしっかりと落ち着かせたことが、剣道の次の段階へとつながったのだと感じています。打突時に左足が流れ、遊んでしまい、引きずるような感じの方を見受けますが、そうなると身体全体のバランスが崩れがちで、冴えある打突にはなりにくくなります。素早く左足が伴うことで、その後の体が残らず、冴えある打突が生まれるのです。ですから基本稽古の反復で、きちんとした左足をつくる鍛錬が重要になります。
私が神奈川県警で教えを受けていました小林英雄範士は、左手の収まりについて「左手は心。構えた位置から無闇に動かすということは心の乱れ」とおっしゃっていました。左足もまた同様だと感じています。構えた際に、重心を取るべく正しく左足が収まっていませんと、気持ちも収まりません。そして攻めて、打突、残心に至るまでの動作の要は左足がつかさどります。反応が遅れる方は、左足のつくりが遅いということです。基本をベースに自分の体型に合った左足の使い方の習得が、剣道の上達には欠かせないでしょう。
その際に意識してもらいたいことは身体全体との連動です。左足だけが正しく運用できていると思っても、どこかに抜けがあると、全体としては正しい動作になりません。身体が打とうと動いた際に、手・足・腰などが一致していないと、違和感のある動きになってしまいます。全体を意識しつつ一つのことを身につけるには、相当な期間をかけて反復してやらないといけません。自分の剣道の土台づくりと考え、錬度が進んでも繰り返し求めていくものです。
また左足は筋力をつけませんと、鋭い踏み切りが生まれません。年齢を重ねるとどうしても筋力が落ちますので、意識して、稽古に取り組んでください。
左足は全体のバランスをとる基軸
残りの記事は 剣道時代インターナショナル 有料会員の方のみご覧いただけます
No Comments