岩立三郎
いわたて・さぶろう/昭和14年千葉県生まれ。成田高校卒業後、千葉県警察に奉職する。剣道特練員を退いた後は、関東管区警察学校教官、千葉県警察剣道師範などを歴任。昭和53年から剣道場「松風館」にて剣道指導をはじめ、現在も岩立範士の指導を請うべく、日本はもとより海外からも多数の剣士が集まっている。第17回世界剣道選手権大会では審判長をつとめた。現在、松風館館長、尚美学園大学剣道部師範。全日本剣道道場連盟副会長、全日本高齢剣友会会長。剣道範士八段。
乗るとはどのような状態を指すのでしょうか。ただ相手を打つだけでは乗ったとは言えません。一つ例を挙げてみましょう。昨今は〝刺し面〟と言われる下からすくい上げるような打突が横行していますが、ああいった技を乗ると言わないのは、みなさんも感覚的に解ると思います。乗ることの大前提は、竹刀が打突部位めがけて上から振り下ろされていなければなりません。
では、相手に乗って打つためにはどうすればよいかですが、一番大きな要素は「姿勢」であると私は考えます。面も小手も胴も、もちろん突きも、乗って打つためには姿勢が整っていなければなりません。今回は乗って打つために必要な姿勢について、いくつかの部分に分けて検証してみたいと思います。
下半身をつくる話
ここでは姿勢がどれだけ重要かということについて、上半身と下半身に分けて説明していきましょう。
まず下半身についてですが、下半身で重要な部分は「かかと」「ひかがみ」です。これはどの先生方も言われていることだとは思いますが、私はこの二カ所が相手に乗るための姿勢をつくり出す根幹になると考えています。「かかと」については、かかとの高さが重要です。かかとの高さを決めることによって、足の裏と床の接地面に余すことなく力を伝えることができます。足が撞木足や鉤足になっていると、打突時に身体が曲がってしまい、相手に乗ることは難しくなってしまいます。
「ひかがみ」については曲げないことが大事です。ひかがみが曲がっていると、打突時にどうしても足が跳ねてしまいます。これは前述のかかとにもつながってきますが、ひかがみが曲がっているとかかとが必要以上に上がり、撞木足にもなりやすくなります。ひかがみについては伸ばせ伸ばせと指導されますが、伸びすぎても良くありません。これはすべてのことに通じてきますが、何事もやりすぎは良くないものです。ひかがみを伸ばす中でも絶妙な緩みを持たせる。このバランスが大事になります。これらの部分を注意することによって、安定した下半身を手に入れることができます。
上半身をつくる話
上半身については、「腰」「下腹」「胸」「襟」などに、正しい姿勢をつくるポイントがあります。
まず「腰」についてですが、腰は左腰が逃げないようにし、つねに相手と正対するようにします。そのためには、腰ではなく臀部を締めるようにすると、左腰が逃げず、左足の親指もまっすぐ前を向き、安定した姿勢で相手と正対することができます。
「下腹」についてはよく言われることでしょう。下腹に力を入れろは、剣道をしてきた者であれば誰もが一度は受けたことのある指摘のはずです。下腹に力を入れるというのは、ただ腹に力を入れることではありません。抽象的な話になってしまいますが、「気」を下腹に下ろすというのが一番適した言葉になるでしょうか。下腹に力が溜まっていると、自分でもびっくりするような技が出るものです。
続いては「胸」です。胸は姿勢と大きなつながりがあります。背中が丸まり、前かがみの姿勢になると、相手に乗るような打突をくり出すことはできません。胸を広げることによって背筋が張り、正しい姿勢を維持することができます。加えて胸を広げると自然に呼吸が下がり、下腹に力を入れることにもつながります。
最後は「襟」です。上半身の中ではここが一番意識すべき部分かもしれません。というのも、襟さえ意識をしておけばほとんどの部分が矯正されるからです。首と稽古着の襟をピタリと着けることによって上半身が前かがみにならず、自然と正しい姿勢になります。
目線と竹刀操作の話
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