稽古方法

大人開始組のための剣道講座(前編)

2025年12月1日

2025.11 KENDOJIDAI

構成=寺岡智之
撮影=西口邦彦

剣道は幼少期から始めなければならないものと思われているが、そんなことはない。剣道を長く続けていくために、楽しく上達していくコツを初音劔志塾塾長で教士八段髙橋海有氏が解説する。

髙橋 海有 教士八段

たかはし・かいゆう/昭和40年生まれ、東京都出身。巣鴨高校から大正大学に進学し、昭和63年より初音剣道教室(現・初音劔志塾)を主宰する。現在は台東初音幼稚園園長、真言宗豊山派観智院副住職、保護司、初音劔志塾塾長、大正大学剣道部師範などを務めている。剣道教士八段

 私は東京都台東区で初音劔志塾という道場を運営しています。昨今は少年少女だけでなく、大人になってから剣道をはじめたいという方や、数十年ぶりに剣道を再開したいという〝リバ剣〟の方々も道場の門を叩くようになりました。剣道のさらなる普及を望む一人としては、とてもよろこばしいことだと感じています。今回はそんな大人開始組の方々に向けて上達の要点を解説いただきたいというお話ですので、私の考える「大人だからこそ念頭に置いておきたい部分」について、いくつか紹介させていただこうと思います。

 そもそも剣道において、大人と子どもに指導の差異は必要かというところですが、私は大枠としては同じであっても、細かい部分で差別化を図る必要があると考えています。

 大人は年齢やスポーツ経験もさまざまです。とくに体力や柔軟性に個人差が大きく、少し油断しただけでもケガをしてしまいます。せっかくヤル気になった剣道をケガで中断するとなれば、そのまま気持ちが萎えてやめてしまうことも考えられます。まずは自分の体と相談しながら進めていくことが大事ですし、指導者も体に優しい進め方を工夫していく必要があると考えています。

 そして、もっとも理解しておかなければならないのは、大人と子どもの理解力の差です。子どもは理解せずとも体を動かして感覚で剣道を身につけていきますが、大人はまず頭が先に働きます。私の経験上、大人は理屈や目的を理解させながら進めていく方が、安心して稽古に取り組めるのではないかと感じています。

 大人になって剣道をはじめる方は、学びの機会を求めているとも言えるでしょう。社会人になって日々同じルーティンで仕事に勤しむ中で、たとえば「資格をとってみようかな」といった気持ちに似ているのかもしれません。日々の流れ以外のところに学びを得ることで、人生を充実させる。剣道の門を叩いた方もただ体を動かすのではなく学びたいと思っているとすれば、やはり理屈が先にくる指導の方が適切なのではないかと思います。

 剣道の理屈を身につけつつ、魅力も感じられるこれ以上ない方法が「日本剣道形」の実践です。大人開始組にとって日本剣道形は段級審査のためだけに行なうものと思われがちですが、日本剣道形の奥深さや楽しさを知ると、剣道そのものにさらなる興味が湧いてきます。このモチベーションの維持もとても大事なことで、継続的に剣道を学んでもらうためにも、ぜひ日本剣道形を実践していただければと思います。

 大人は理屈を通して体を動かすことで、子どもよりも早く上達することが可能ですが、そのためには「理屈→実演→実践」というプロセスで技術を身につけていく必要があります。理屈を知り、指導者が理屈通りに実演して、同じように実践してみることによって、納得しながら前に進めるわけです。「いつかできるようになるから」と理屈抜きに稽古を重ねるのではなく、小さな「できた!」を積み重ねて達成感を得た方が上達も早いでしょうし、継続意欲も高まっていくと考えています。

小さな「できた!」を積み重ねる
成長の可視化で意欲を持たせる

 大人開始組のほとんどの方は、早く剣道具をつけて稽古がしたいと考えているはずです。しかし、基本動作を身につける前に稽古をさせるわけにはいきません。週に何回、道場に足を運べるかにもよりますが、私は1~3ヶ月のスパンで基本動作を習得させ、ある一定程度まで上達が感じられたら、剣道具をつけて稽古を行なうようにしています。

 しかし、ここで問題となるのが前述した継続意欲です。私が子どものころは、剣道具をつけずに1年も2年も基本動作を繰り返す道場もありましたが、もしそれを現代に持ち込んだとすれば、ほとんどの方が剣道から離れてしまうでしょう。大事なのは成長の過程を明示してあげることであり、先々の見通しを持たせることによって、地味な基本動作の繰り返しも楽しみをもってやり遂げられるわけです。

 先ほど、小さな「できた!」を積み重ねると言いましたが、その「できた!」が一目で分かるように取り入れているのがチェックリストです。稽古においては「今日はここが良くなりましたね」などのフィードバックを必ず行ない、リストの達成項目にチェックを入れていきます。「なんだそんなことか」と思われるかもしれませんが、大人も子どもも、できないことができるようになるのはうれしいものです。チェックリストの存在は、そのよろこびを倍増させてくれますし、次の項目も頑張ろうと意欲を高める効果もあると思います。

 そしてもう一つ、大人開始組にとって忘れてはならないのが、ウォーミングアップとクールダウンです。とくにクールダウンは重要で、ケガ防止のためにも必ず行なってもらいたいと思います。大人は子どもに比べて筋肉も凝り固まっていますから、無理に体を動かすとアキレス腱や腰に故障を抱えることが増えます。稽古後にクールダウンの時間をとっておくことで怪我を予防し、日々の稽古に支障がでない備えをしておくことが大切です。

指導は小さく区切り
イメージを持たせることがポイント



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