稽古方法

伸びる稽古(野口慎一郎)

2024年11月11日

2024.11 KENDOJIDAI

高段位の先生方が若手を圧倒できるのは、フィジカルの差を埋めるだけの「対応力」があるためである。野口範士が生涯の師匠である中野八十二範士九段から教わったのは「対応力の稽古」。どのような剣風の相手であっても対応できる剣道を身につけるには、経験を積み、剣道の引き出しを増やすことが大切だ。

野口慎一郎範士八段

のぐち・しんいちろう/昭和23年熊本県八代市生まれ。県立熊本高から東京教育大(現筑波大)に進み、卒業後和歌山県教員を経て地元熊本県教員となる。平成21年母校熊本高教諭を最後に定年退職。同高剣道部師範など歴任。現在、国際社会人剣道クラブ副会長・同九州クラブ会長など。

 剣道は、高齢になっても、若い人たちを相手にして、対等以上に競い合うことができる運動文化です。実際に、全日本選手権大会に優勝するような若手でも、稽古の中では高齢の先生に圧倒されるような場面が少なくありません。

 パワーやスピードは絶対に優っているはずの若手が、それだけでは通じず、先生方に悠々と捌かれる、乗られる、そういう稽古を何度となく見てきました。自分もいつか、ああいう稽古ができるようになりたいと思い、憧れました。

 そこで、先生方がどういう稽古をなされて、力をつけていかれたのかを知りたく思い、お尋ねすると「稽古だよ」の一言です。

 今、私が年を重ねてきて、どれほどのことができるようになったか分かりませんが、できることをできなくなるまでやろう、いまできることがどれだけ通じるかやってみようと、生涯剣道を心掛けています。どういう時でも、今の自分が今できることを全部発揮できるよう努めていくことが大事だと思います。

 学生時代の師匠・中野八十二先生(故人・範士九段)からは、大学卒業時に「これからはいろんな方とたくさん稽古して経験を積み、それぞれの方への対応力を身につけるようにしなさい」というお言葉をいただきました。

 そのお言葉を大事に、これまでたくさん稽古をいただき、年齢が上がった今、その経験を毎回の稽古の中で生かすよう努めています。「こういうタイプのお相手にはどうするのか」ということを経験から引き出し、自分流の剣道をお相手に試させてもらい、そうすることでずっと剣道を楽しんでいこうと考えて稽古させていただいています。

 剣道は、剣の理法の修練です。理法とは、心法・身法・刀法の三つと、私はとらえています。それに従って、私が基本的に心掛けていることを述べさせていただきます。

「我より近く、敵より遠く」の間合をつくる

 まず、打たれまいとする心を去ること。お相手が攻めてきた、それに驚いて備えを崩さないことを心掛けます。また、構えを崩され、動かされてからの打突、それでは、たとえ当たったとしても満足できますでしょうか?

 満足できる打突はお相手も納得する打突であるべきです。攻め込まれても「打たれてもいい、いつでも来い」の気で、お相手のどんな動きにも対応する、そういう上から乗るような心持を大事にします。

 打つ間合は打たれる間合です。打たれることを懼れないように心がけます。懼れる気持ちを抑えて、入っていく間にお相手が出てきたらどうするのか、あるいは、お相手に入ってこさせた時に、備えができているかが大事です。その時の心持として、「いつでも来い」の気で、お相手が出てきたら即迎える、来なかったら乗っていくことができるよう常に整えておくことを大事にします。そこで打たれたならば、なぜ打たれたのか反省し、すぐ修正して次に臨むよう心がけます。また、打つ間合まで入っていくのか、お相手に来させるのかは状況次第ですが、自分の打ちが届く間合を良く知っておくことが必要です。その間合になった時に、いつでも技を出せるよう、心と体の準備をします。打ち込みの稽古の中で、届くか届かないかの間合から打ち込み、しっかり把握しておきます。

「我より近く、敵より遠く」とよく言われます。ある方の稽古を見ていた人が、「なぜあんなに近い間合で稽古していたのか?」と圧倒された人に聞いた時、その人は、「自分にはとても遠い間合に見えた」と答えました。

 気持ちで押されて、自分の間合が狭くなっていたからです。構えた時に、気持ちを広く前に張るよう意識し、それを進めて、お相手の気持ちを圧倒するように心がけます。

 攻め入って、お相手の動きがない時、ひるんで、疑いの気持ちを起こさないよう心がけます。気持ちと体が硬くなって、お相手に攻め返された時、思わず手元を上げたり、肩に力が入って固くなったり、足が止まったりと、いわゆる居ついた状態、心が固まった状態にならないようにします。一足一刀の間合に入った時、お相手の動きが無かったら、攻めて待てるよう心がけます。いつでも応じる気持ちで、辛抱して、お相手の動きが見えたらすかさず技を出すことを心がけます。

 また、どうしようかなどと惑う気持ちを起こして、その後の動きに後れを取らないようにすることも大事です。お相手が動かなければ、気当たりをかけたり、竹刀を張ったり、巻いたりしたりなどと、いろいろ攻めを工夫して動きを出させるようにします。迷いの心のままで、機会でもないのに打突を出す、いわゆる気迷い技を出さないように心がけます。

上体の力みがない、心と体が連動した一本



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