剣道の技 足と有効打突

足と有効打突

2020年5月18日

2018.7 KENDOJIDAI

剣道界の最高位が鎬を削る全日本選抜八段優勝大会において、初出場3位の成績をあげた宮戸伸之教士。所属する和歌山県警では長きにわたり、後進の育成に努めている。今回は足の重要性について、宮戸教士自身の経験と、指導の際のポイントの両面から聞いた―。

宮戸伸之(みやと・のぶゆき)教士八段

昭和36年生まれ、和歌山県出身。和歌山県立新宮商業高校を卒業後、和歌山県警に奉職する。県警特練員時代は全日本選手権や全国警察官大会などで活躍。現役を退いてからは指導的立場となり、平成20年に八段を取得する。現在は同県警教養課師範。本年4月に開催された全日本選抜八段優勝大会では、初出場ながら並み居る強敵を退け3位入賞を果たした。

念願の八段戦初出場
リラックスして試合に臨めた

 今年、はじめて名古屋の全日本選抜八段優勝大会に出させていただきました。八段取得以来、目標としていた大会だったので、選手に選ばれたときはとてもうれしい気持ちでした。

 大会に臨むにあたっては、八段戦だからといって変にかしこまったりせず、自分の剣道を表現しようという思いがありました。自分の持てる力を出そう、その一点だったと思います。日ごろ和歌山県警の特練員と稽古ができる環境でもあるため、大会には万全の状態で臨むことができました。

指導する和歌山県警剣道特練員の面々とともに

特練員との稽古はいつも真剣勝負。短い時間で出し切る稽古を心がけさせている

 1回戦が警視庁の西川清紀先生だったこともあり、上位進出は考えず、一戦一戦に集中していこうと思っていました。西川先生とは現役時代に全日本選手権で対戦したことがあり、そのときは完璧に打たれています。今大会ではたまたま勝たせていただきましたが、その後も坂田秀晴先生や笠谷浩一先生といった強豪との対決が続き、やはり目の前の試合に集中できた結果が3位入賞というかたちにつながったのかなと思います。準決勝は優勝された警視庁の恩田浩司先生と対戦させていただきましたが、正直なところ完敗でした。負けたときは悔しさがこみ上げましたが、地元に帰ってまわりの方にお褒めの言葉をいただいて、結果を残すことの大事さを感じている次第です。

 私は現役時代、これといった実績を残すことができませんでした。和歌山という土地柄もあって、なかなか上の先生に掛かることができず、自身で試行錯誤を続けてきた結果、現在の剣道にたどり着きました。今回は「足と有効打突」というテーマをいただきましたので、私の経験から、とくに年齢を重ねて身体が動かなくなってきたと感じている先生方のヒントになればと考え、お話をさせていただきます。

若き特練員時代の経験
「足で攻め込んで足で打ちなさい」

 私が足さばきに関してとくに考えるようになったのは、和歌山県警に奉職して数年経ったころのことです。和歌山県警の剣道特練員として2ヶ月間、大阪府警に派遣される機会がありました。当時の大阪府警は、有馬光男監督を筆頭として石田健一先生、石塚美文先生、岩堀透先生、船津晋治先生など錚々たる面々がそろっていました。高校時代の実績もなく警察剣道の道を歩み始めた私にとっては、高名な先生方に指導をいただけることが喜びであり、強くなるためにはなんでも取り入れようという気持ちでした。

 そのとき、有馬先生が特練員に向かって話していたことのなかに、足さばきの重要性がありました。細かい内容までは記憶にありませんが、「足で攻め込んで足で打ちなさい」という言葉は今でも心に残っています。府警の特練員の足さばきや追い込みの速さは、当時の私にとってまったくレベルが違うものでした。ここでの2ヶ月を経て、自身に力がついたことを実感し、足の大切さを痛感しました。

 派遣期間を終えて和歌山に戻ってからは、実際のところ毎日の稽古をこなすだけで精いっぱいであり、あまり足について考えることはなかったと思います。ふたたび足の重要性を意識しはじめたのは、それからかなりの時間が経ち、八段審査に臨む前後のことでした。

ケガを機に取り組んだヨガが
剣道のレベルアップにつながった

 八段審査に臨むに当たっては、とくに身体のバランスを意識するようになりました。自身の経験から、左手が収まれば足も正しいものになると感じるようになり、その左手を収めるためには、上半身をリラックスさせることが大切だという考えに行き着きました。

 話は飛んでしまいますが、上半身のリラックスを求める上で、私は毎朝30分、ヨガに取り組むようにしています。これは2015年の和歌山国体を前にコーチとして強化練習に参加していたときに、腱板断裂の重傷を負ったことがきっかけでした。医者からは手術を勧められましたが、腱板横のインナーマッスルを鍛えることで、腱板を補強することに決めました。リハビリに通いながら体幹補強のためにヨガをするようになると、嘘のように肩の張りがなくなり、さらに身体全体のリラックスができるようになりました。ヨガの呼吸法はいわゆる剣道の丹田呼吸と似ており、最初は肩の治療のためだったヨガが、私にとっては欠かせない剣道のトレーニングの一つとなりました。

 上半身をリラックスさせて左手が正しい位置に収まると、今度は下半身との連動を意識するようになりました。とくに、左手と右足の連動を意識することで、正しい姿勢のまま攻防ができるようになったと思います。細かい方法については後述しますが、左手と右手の連動を意識したことで、構えはもちろん、攻めや打突についても深く理解できるようになったと感じています。



残りの記事は 剣道時代インターナショナル 有料会員の方のみご覧いただけます

ログイン

or

登録

登録


Subscribe by:

You Might Also Like

No Comments

Leave a Reply