2021.2 KENDOJIDAI
「左足を継がないで打つ。これが剣道の基本中の基本です」と亀井範士は強調する。左足の乱れが剣道の乱れ。予備動作なしに一拍子で打つことが、剣道上達に直結する。では、日々どのような稽古に取り組めばよいのか。
亀井 徹(かめい・とおる)範士八段
昭和29年生まれ、熊本県出身。九州学院高校から明治大学へと進学し、卒業後、熊本県警察に奉職する。現役時代は全日本選手権2位、世界選手権出場、全国警察大会1部優勝など活躍。指導者となってからも、全日本選抜七段選手権優勝、全日本選抜八段優勝大会2位などの実績がある。熊本県警察首席師範を最後に退職。現在は全日本剣道連盟常任理事、強化委員長を務める。
剣道の動作は〝静から動〟打突の好機と察知したときには打ち切っていることが理想です。日頃から「一拍子の面打ちを体得することが、剣道のスタートライン」と指導の際にはお伝えしているのですが、一拍子の面打ちを体得するには、予備動作なしに左足で踏み切って打たなければなりません。予備動作なしで打つことができれば、相手の隙に応じて瞬時に技を選択できます。
相手が居つけば仕かけ技、相手が動こうとすれば出ばな技、相手が技を出して来れば応じ技など、自在に技が出せるのです。
わたしは「左足の乱れが剣道の乱れ」につながると考えています。左足の備えがしっかりしていないと攻めることもできませんし、打突することもできません。
打ちたい気持ちが強くなると右足のみを出してしまい、どうしても足幅が広くなります。足幅が広くなりすぎると左足が定まらず、正確な技を出すことができません。
市民剣士と言われる、いわゆる一般の剣道愛好家の稽古は、わずかな切り返しから地稽古へ移るパターンがほとんどだと推測します。忙しい生活のなかで稽古時間を捻出しているわけですから、剣道を楽しみたいという気持ちは充分に理解できます。しかし、お互いの技を試し合う地稽古は応用であり、応用は基本という土台があってのものです。
加齢とともに衰えていくのが足です。剣道における足は、木にたとえるなら根っこ、まさに根幹を支えるものです。足が悪いと相手と間合を詰めることもできず、上半身に頼った打突となり、自然、崩れが目立つようになります。
わたしが八段審査を目前にした40歳代半ばに郡部勤務を命ぜられ、稽古環境が一変しました。稽古相手はもちろん、稽古時間もなかなか捻出できない状況となりました。しかし、わたしには「八段審査に1回で合格する」という大きな目標がありました。そこで心がけたのがとにかく裸足で床板に立つことでした。長く稽古から離れると足裏の感覚に違和感を覚えるようになりました。よって、たとえ道場に立てなくても自宅のフローリングの上ですり足をするなどまずは裸足で床板に立つことを目標としました。
日々の稽古は、一人稽古が中心となり、ランニングをしたり、鉄棒にぶらさがったりといった体力向上のためのトレーニングはもちろん、昼休みには道場に行って素振りやすり足などの基本稽古を励行しました。これらのおかげで、面を着ける回数は減っても体力、技術ともに維持ができ、稽古ができる環境になるまでしっかりとつなぐことができたと感じています。
少ない稽古時間を充実したものにするには、道場以外での工夫が必要です。ほとんどの方がコロナ禍で満足に稽古ができなかったと思いますが、その時、足腰を鍛えていた方は、稽古再開時、とくに違和感なく始められたのではないでしょうか。
剣道の実力は薄紙を重ねていくかの如くでなかなか実感できるものではありません。しかし、良師のもとで方向性を誤ることなく稽古を続けていれば必ず結果が出ると思います。次項からは具体的な左足を活かした稽古法などを紹介します。
構えと素振り:体幹を意識して構え、左足を素早く引きつける
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